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映画「マイドク いかにしてマイケルはドクター・ハウエルと改造人間軍団に頭蓋骨病院で戦いを挑んだか」ブルーレイレビュー「「元の形」の凄み。」

本商品には3種の本編が収録されている。
1.VHS版本編(1:23:12)ヨーロピアンビスタDolbyDigital2.0ch字幕焼き付け(岡枝慎二訳)
監督は音声解説の中で
「元の映画の尺は84分あったのに僕のあずかり知らぬところで削除され,またフィルムが焼失・散逸した。そこで僕は本作の「元の形」に最も近いVHSビデオを取り寄せ,世界中に散らばったフィルムの復元作業に取り掛かったんだ。」
と述べている。
重要な事は監督は本作を一切削除していないし「元の形」に大変な思い入れがあるって事。
これは大変重要な事柄なので最初に指摘しておきたい。
このVHS版本編が最も「元の形」に近いのだ。

2.スタンダードサイズ版本編(1:21:37)画面比4:3サイドパネル方式DolbyDigital2.0ch
監督が特典の中で言っている「2000年復元版」と思われる。
世界中に散らばったフィルムを搔き集めた結果。
それでも完全な「元の形」には戻らなかった。
残酷描写が1分30秒足りず,VHS版のエンドロールの最後に流れるスパイダーの決め台詞
「I'll get you,I'll get you all…(捕まえてやる…お前等を皆捕まえてやるぞ…)」が足りない。

3.HDマスター版本編(1:18:54)画面比16:9DTS-HD MasterAudio5.1chサラウンド
2000年に1度集めた筈の本編が1:43も足りなくなっている。
主な内訳は第1回目の開頭手術が約40秒カット。
またVHS版ではエンドロール終了後暗転して約50数秒後にスパイダーの決め台詞が入るのだが, 本バージョンでは画面暗転して2秒後に終了。
勿論スパイダーの決め台詞もカット。
何だよコレ!

何だかね…。

昔「新・死霊のはらわた」のデジタルリマスター版DVDが出たんですがVHS版より尺が5分短かったので問い合わせた所
「EDクレジットが無駄に長過ぎるので切りました」
って回答されて唖然とした時の事を思い出します。
BD版マイドクのVHS版の結末の約50数秒続く画面暗転を削除して
「HDマスター版の結末」
とする発想に似てる。
誰が削除したのかは分からんが一体!創作物を一体何だと思ってるんだ!

こうやってね,売りのHDマスター版本編だけでなくスタンダードサイズ版本編とVHS版本編を同時収録して尺の長さで信を問う是空社の度胸と誠意には心から敬意を表するものの, 信を問うた結果が
VHS版本編>スタンダードサイズ版本編>HDマスター版本編
の順で「元の形」から遠ざかり監督の「元の形」に戻したいって希望から遠ざかって行くのを見るのは切ないね。

本作のスパイダーはマイケルの宿敵で,キカイダーに対するハカイダーの立ち位置で最後の対決の結果が描かれずにEDなのが監督の本意と思っていたが, 今回VHS版を観て,EDの「先」で不敵に佇む彼の存在を感じ,音声解説と併せ
「心の内外に棲む邪悪な存在は,簡単に消し去る事は出来ない」
という真意を知る事が出来た。
これが「元の形」の凄みなんだ。

監督による音声解説によると本作は官能的と強調し,マイケルとハウエル博士の関係をホモセクシュルに描いたとの解説に, 彼が博士にケツに注射針を「挿入」されて人格改造される場面と, メスを博士の腹に複数回「挿入」して殺害する場面とは対なのだと知る。
ヤられたらヤり返さねばならんのだ。

またハウエル博士は不死の人間を生む過程で冷凍睡眠に耐え得るよう脳改造手術を行った 「改造された人間」(ゾンビと呼ばれている) を生んだと言う。本作がSFなのは「SFソードキル」からも明らかだが伊東美和氏は「改造された人間」を不死の怪物と解釈し自著「ゾンビ映画大事典」に本作の為に項を割いている。

本商品の評価は勿論5つ星だが,
その星の多くはVHS版本編に捧げられたものである。

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