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映画「コマンドーニンジャ」BD-Rレビュー

1968年ベトナムで作戦行動中のコマンドー部隊は謎のニンジャ軍団の襲撃を受け壊滅し,
隊長のジョン・ハンターは捕虜収容所で虜の身となり所長のイン大佐の拷問を受ける。
だが頑として口を割らないジョンに感じ入ったインは獄中の彼に密かに拳法を教え,
更に忍術の奥義をも授け,今ここにコマンドーニンジャが誕生したのであった。

だが彼はインが免許を皆伝した最初のコマンドーニンジャではなかった。
インの兄弟子で最初のコマンドーニンジャとなりながら,その後フォースの暗黒面に堕ち,
悪に与するレッドニンジャこそがコマンドー部隊を壊滅させたニンジャ軍団の首領だったのだ。

「コマンドーニンジャを倒せる者はコマンドーニンジャだけだ」
と彼に言い残したインは米国による絨毯爆撃の業火で焼かれるのであった。

歳月が流れ,軍を引退し山奥で隠遁生活を送るジョンの元にかつてのコマンドー部隊の戦友ホプキンスが訪れ,
離婚した妻が何者かに殺害され同居する愛娘ジェニーが拉致された事を知る。
怒りに燃えるジョンはホプキンスと行動を共にしながら事件の手掛かりを求めて行動を開始するのであった…。

コマンドー部隊とか愛娘ジェニーは「コマンドー」の引用,捕虜収容所の所長インは「地獄のヒーロー2」の引用,
修行場面はドルフラングレンの映画と「ニンジャ・タートルズ」の引用…と数え上げればキリが無いが,
ベースとなってるのは「コマンドー」「プレデター」「アメリカン忍者」の3作。
特にジョンが娘が拉致されたバルベルデ(!)に完全武装して乗り込んで無双する模様は「コマンドー」そのものであって,
音楽も「コマンドー」の笛の様な曲が流れてる有様。本当に監督は「コマンドー」が好きで好感が持てるなあ。
バルベルデでジョンにやられる無数の兵士たちは「ゾンビ」のスワット隊モチーフかしらと思っていたが
SNKのビデオゲーム「怒」(1986)の青ザコ兵士がモデルとの事。何でそこまで詳しいの?
愛娘ジェニーが遊んでいたTVゲームはタイトーの「オペレーションウルフ」(1987)と,
ゲームまでもが「凄腕の軍人が無双する」系となっていて単なる時代考証では絶対こうはならない。
監督が「当時の空気」全体をこよなく愛してる事がこういうディティールからも分かるのである。

監督・脚本のベンジャミン・コンブは子供の頃,80年代映画のビデオを山程見て「僕も(80年代)映画を造りたい」と思ったと言う。
余りにも80年代映画を意識する余り,画質は意図的に荒く作り,音響は当時のエレクトーンを捜して来て,
特撮もダミー人形丸分かりにして構築したと言う。

なので全く予備知識無しに観た僕などはすっかり騙されてしまい,
本作を「ホットショット」の様な1990年代の映画を思い込んでしまったが,
実は本作は2018年に作られた仏国発の自主製作映画と知って大いに驚いた次第。

監督がスタッフに徹底周知したのは,ひとつは「80年代映画を真似する事なく,馬鹿にする事なく作れ」という意識。
もうひとつは「安易にCGを使わない事」。
特に後者は監督の怨念が溢れ
「僕は「スターウォーズ」の今世紀に於けるCGによる「手直し」や 北野武監督の「座頭市」のCG処理に大いに落胆した」
と手厳しい。

自主製作故に何しろ専門家を雇う金もロケ地となる場所を借りる金もなく,基本はゲリラ撮影。
後は親戚縁者の所有する建造物を使用。
「映画を作りたいなら親戚縁者を大切にした方がいい」とは監督の弁。
仏語を米語に吹き替える声優はユーチューバーと
「金がないなら知恵とコネをフル活用」
という映画の基本を監督が実地で学び取って行く姿は感動的ですらある。

特典映像は短編映画「ホプキンス」とメイキングと予告編集。
「ホプキンス」はベトナムで隻腕となったホプキンスがNYで孤独に生きながら
NYの地下道でゲリラ活動を続ける幻覚のベトコンを火炎放射器で焼くことを夢想する内容。
映画本編の様な活躍の場が彼に訪れなかった場合のIF映画であり,
彼がショボクレた傷痍軍人の身でありながら
「ずっとトラウトマンからの新たな命令を待ち続けてる「もうひとりのランボー」」
という描写にグッと来ますなあ。

「メイキング」では監督が詳細に元ネタを明かしてくれてます。
映画を観終わった後の映画知識クイズの「答え合わせ」をするのにいいのかもしれません。
監督がコブラ会のTシャツ着て,スーパーファミコンに「スーパードンキーコング2」のカセットが刺さってて,
本棚に「ロボコップ2」のコミックが並べてある時点で監督を好きになるしかないのである。

予告編のひとつに「1986年に日本で本作が公開された場合の予告編」が収録されてて,
YouTubeでは東映マークが付いてたんだけど本商品ではモザイクがかけられてました。
このフェイク予告編,東映さんには無断だったのかしら…。

ジャケットはリバーシブルで裏面は「本作がビデオゲームになった場合」のIFが再現されてて楽しいですね。

すっかり本作のファンとなってしまったのですが発売元からの悲鳴の様な告知によると
「日本を47都道府県に分けた場合,全ての都道府県で各1枚買われた計算よりも売れてない」そうな。
世間の認知度が余りにも低すぎるのだ。
僕は多く見積もっても「48人目の購入者」と言う訳か。

拙レビューで80年代映画に大いなる愛を捧げた本作の魅力の100分の1でも伝われば幸いである。

Amazonで購入可能です。

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