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花輪和一「刑務所の中」レビュー「刑務所には「自由」が無いと言うけれど,そんなもんシャバの何処を捜しても無かったよ」。

サバゲ熱が昂じモデルガン(映画では「ダーティハリー」の銃と解説)を改造した罪で服役した漫画家の花輪和一氏の受罰者生活を描く。
その実態は反省とも後悔とも無縁の,日々の献立や出所迄の日数の確認であり,模範囚はアルフォート付きで映画鑑賞が出来,独房での薬袋作りの懲罰が漫画家の自分の天職と悟る。
後に山崎努主演で映画化される程の傑作。原作では「銃刀法違反で懲役刑」とのみ記述されていて,サバゲに関する描写は映画の冒頭で描かれている。
花輪先生のサバゲにおけるコードネームはピースワン(=和一)。
山崎努氏が実に楽しそうに演じられている。
それにしても…「自分」を演じる役者に山崎努氏を指名したのは花輪先生!
貴方でしょう!?
受罰者には大杉漣,香川照之,田口トモロヲ,松重豊等,錚々たる面子で固められている。
僕が印象に残るのは年末年始の描写。
受罰者の楽しみは基本「食う事」しか無く,本作も専ら食に関する記述が多いのだが年末年始は変わり映えのしない日々を過ごす受罰者にとって一大イベントなのだと分かる。
大晦日は,夕食に年越しそばと,おせち料理が出て0:15迄起きていて良い日で生まれて初めて年越しそばを食う者もいる。
皆貧乏が悪いのか。
元日には雑煮,2日には袋菓子が出て,年末年始は1日中檻の中故,体重が4kg増える者もいる。
食しか関心のない受罰者が死ぬ気で食う,それが刑務所の年末年始なのだ。

僕は若い頃システムエンジニアをしていて年末年始は客である役所に泊まり込んでシステムの更新作業をやっていた。
人が休んでいる間に働くのがSEの常態とはいえ刑務所の受罰者だって年越しそばを食って,ゆく年くる年を観て,おせち料理を食べて年末年始を祝っていると言うのにシャバの僕は昼夜兼行で働いていたのだ。
うう~…殊更に悔しいのである。

シャバで悪事を働くと刑務所に入れられ,刑務所の中で反則すると懲罰房に入れられる。
花輪氏は懲罰房(独房)の方が個室が与えられ雑居房(5~6名)より生き易く,毎日が大変充実していて楽しく誰にも会わずに済み,延々病院の薬袋を作る作業は頭も使わず自分にピッタリの場所だと語る。
漫画家の執筆作業に近いからなのかしらん。

本作は僕が映画を観る際,缶入り飲料とアルフォート無くしてはおられない体にした「にくいひと」でもある。
免業日(僕達で言う所の休日ですね)になると2級模範囚は2ヶ月に1度,1級模範囚は月に1度,安コーラとアルフォートを飲食しながら映画が観られるのだ。
服役囚が常に食に関心を抱き常に甘い物に飢えている状況を更生に利用する官の手練手管に唸る他無い。
しかも午後は午睡(昼寝)が許されると言うのである。
僕が働いてた職場より余程環境が良いのである。
うう~…殊更に悔しいのである。

シャバで生きる僕よりも規則正しく生きられて映画も観られて,菓子や清涼飲料水も飲めて,昼寝が出来て,年越しそばやおせち料理を食べながら年末年始を祝えて,しかも家事手伝いゼロと,
受罰者生活が羨ましく思えて来るから不思議である。
「ただ自由だけが無い」とマウント取ろうとする人もいるだろうけど,
「自由」なんてシャバの何処を捜しても無かったよ。

つまり本作はシャバと「刑務所の中」とは「地続きである」と描いてるのだ。



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