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ダリオ・アルジェント監督の映画「歓びの毒牙(きば)」レビュー「論理的に考えて「犯人はコイツ」と視聴者が指差したら実はソイツの頭が狂ってました…という「ミステリ」と「ジャッロ」のハイブリッド的構成が素晴らしいのです。」

トニー・ムサンテとスージー・ケンドールが
イチャイチャしながら若い女性ばかりを狙う影なき連続殺人鬼を追う。
「あばよ」が口癖の吃音で収監中の情報通のオッサンとか
猫好きの画家とか人物造形も豊かで
若きアルジェント監督が
「イタリアのヒッチコック」と呼ばれる様になる才気煥発する一品。

殺人現場で大切な事を目撃した筈なのに何故か思い出せぬ主人公,
事件の鍵を握る奇怪な絵,
黒手袋の殺人鬼…。
つまり…。
本作は「サスペリアPART2」の習作的作品で
「サスペリアPART2」から
オカルトとダリア・ニコロディとゴブリンサウンドを引いて
フェアな謎解きに徹したのが本作なのだ。

余りにもフェア過ぎる上,ミスリードが一切ないので
途中で犯人が分かってしまう監督の初々しさがいいのである。

でもね。
被害者の女の口にカメラを突っ込んで
「内側」から悲鳴を上げる女を描写したり,
高所から落ちる人間の視界を再現する為に
カメラをビルの屋上から投げ落として撮影したり,
黄色いジャンパーを着た容疑者を追跡したら
黄色いジャンパーを着た群衆の中に飛び込むとか
アイディアの宝庫なのである。

「素」のアルジェント監督って
素直にヒッチコックを尊敬して
ストレートに敬意を払っているのが伺われて好感が持てるなあ。

モロシーニ警部による捜査は科学的かつ実証主義的で
オカルトの入る要素はない。
「四匹の蠅」にも「私は目撃者」にもオカルト要素は無かったから
「サスペリアPART2」にオカルト要素を持ち込んだのは
ニコロディなのかしら。

「サスペリアPART2」という余りにも綺羅綺羅しい星の輝きが
「素のアルジェント」を見えにくくしてるけど僕は本作が好きですよ。
ミステリ小説がそうである様に自力で真相に辿り着けたミステリ映画も
また強く印象に残るのはけだし当然なのです。

本作がミステリなのかジャッロなのかは議論が分かれるかな。
「犯行動機」が割とどうでも良く誰もが犯人と成り得るんだけど
実は真犯人の頭が狂ってました・キチガイでしたってのはジャッロ的ですが
論理的に話が組まれていて
状況証拠から犯人を導き出せるのはミステリ的なのです。

論理的に「犯人はコイツ」と指差したらソイツの頭が狂っていて
犯行動機が「キチガイだから」と判明するのです。

被害者のスタイリッシュで猟奇的な殺され方は
コレはもうジャッロ全開なのですが
ソレだけではなく論理的な話の組み立てられ方をしてるので
観てる人が「置いてきぼり」にならない
所謂「超展開」が無いのが僕的に嬉しいのです。

「ニコロディ」「ゴブリン」「オカルト」の三役が揃って初めて
「アルジェント映画」との風説は
完全なる誤謬である事が本作で証明されているのです。

「猫は全然無事じゃない」ので
猫好きの方にはオススメ出来ないのが珠に瑕ですね。


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