見出し画像

映画「プロフェシー 恐怖の予言」ブルーレイレビュー「カターディンは神の使い!究極生命体カーズ様であってヘンな腐りかけのクマじゃないよ!」

ケースワーカーとして医療費が払えず十分な医療を受けられない
スラムの黒人達の悩みを聞いているボブ(ロバート・フォックスワース)は
製紙会社と製紙会社の森林伐採に反対する米国先住民の対立する
メイン州の環境調査を依頼され妻のマギー(タリア・シャイア)と共に
問題のメイン州の山林に向かう。
製紙会社の工場を預かるアイズリー(リチャード・ダイサート)のガイドで
山林をジープで見学中の一行の行く手を
米国先住民の代表ホークス(アーマンド・アサンテ)と
パートナーのラモーナ(ヴィクトリア・ラシーモ)が遮る。
森林伐採による環境破壊を危惧する彼等は
「木を伐るなら先ず俺達の首を切れ!」
と息巻く。
製紙会社側の実力行使によって妨害行為を排除された彼等は
今度は比較的話の分かるボブに直接コンタクトを取り
「長老に会ってくれ」
と言う。
長老は語る。
この地は神の使いカターディンによって
豊穣が約束されたエデンの園であると。
豊穣の結果,全ての生き物が巨大に育つと。
先に川で巨大な鮭を釣り上げマギーと共に食べたボブは
一応は納得するものの俄かに彼等の神話を鵜呑みには出来ない。
神話よりもこの「豊穣が約束された湖」には
製紙会社の工業排水が流れ込んでいる事を重要視したボブは
水質調査を行ったところメチル水銀が検出される。
ボブの念頭には日本の水俣で起こった公害でメチル水銀を摂取した
魚が奇形となり,その魚を食べた妊婦を通じて
胎児に深刻な影響を与えた事件がある。
メチル水銀は遺伝情報を乱し奇形を生み出すのだ。
そして太平洋岸の北米大陸北西部では
製材会社が木材の加工処理にメチル水銀を使い問題となっているのだ。
ボブはメイン州の製紙会社でも
木材の加工処理にもメチル水銀を使っているのではないかと疑い始める。
「豊穣が約束された湖」の水は川となって下流に流れており
ボブが釣った巨大な鮭とは
メチル水銀によって遺伝情報を乱され奇形となったのでは…。
ボブの推測を聞いていたマギーは震え始める。
ボブが釣った巨大な鮭をマギーは食べており
ボブには未だ話していないがマギーは懐妊していたのだ。
マギーは自分が奇形児を生むのではないかと恐怖に震えているのである…。

ジョン・フランケンハイマー監督から「オーメン」の脚本を書いた
腕を買われたデヴィッド・セルツァーは「怪物映画を作りたい」との
フランケンハイマーの依頼を受け
最初は「ローズマリーの赤ちゃん」の様な妊婦が最後に
「ロクでもないモノ」を産む構想を立案するが
日本の水俣病の事を学ぶにつれて水質汚染された川で取れた魚を食べた
妊婦が奇形児を産む構想に取り付かれて行く。
他方セルツァーの構想では神の使いカタ―ディンは
「神が創造したありとあらゆる生き物の特徴を持った怪物」
となる予定であった。
魚であり両生類であり爬虫類であり鳥でありヒトでもある…。
日本で言ったら「ジョジョの奇妙な冒険」第2部の
究極生命体カーズが相当するだろうか。

カタ―ディン想像図

ところがセルツァーの脚本の意図はフランケンハイマーに無視され
実際のカタ―ディンはメチル水銀で汚染され
腐りかけた奇形クマと成り下がった。

クマ―!ヘンなクマー!

異能クマ言うたら最初の方で散さまの螺旋で瞬殺されたアレじゃん!
要するにザコじゃん!
セルツァーは「カタ―ディンは究極生命体でありクマじゃねえよ!」と呆れ「彼(監督)とは決して気が合わなかった」と特典映像で述懐し,
セルツァーのフランケンハイマーと彼を決して批判しない取り巻きへの
罵詈雑言が並ぶ回想録のみ
「この(セルツァーの激しい厳しい辛辣極まりない)意見は
パラマウントとは一切関係なく一切の責任を負わないものである」
との注意書きが表示されているのだ。

しかもさあこのクマなかなか出て来ないのよ。
このクマは何らかの象徴ではなく
神の使いでもなく
文明に驕り昂る人間を罰する存在でもなく
ただのちょっと凶暴なクマなのですよ。
ホント脚本のセルツァーが腐るのも頷けるのです。

まあね。

僕は大昔の酷い酷い酷い着ぐるみ特撮を掃いて捨てる程観て来たから
腐りかけの巨大クマの着ぐるみも味があっていいと思いますよ。

「究極生命体カーズ様がヘンな腐りかけのクマに成り下がった」

とか悪い方に考えたらもうね!
特撮なんて観ちゃおれんのですよ。

本円盤には日本語吹替が搭載されてるが
日本の水俣病の事は一切吹替がカバーされておらず
工業排水の有毒物質で環境や人体が汚染された事になっている。

ボブ役のロバート・フォックワースは
TVムービーのパイロット版「人造人間クエスター」の
クエスター役が印象に残る。

マギー役のタリア・シャイアは勿論エイドリアン。
OPのキャスト一覧では勿論筆頭。

アイズリー役のリチャード・ダイサートは「遊星からの物体X」で
Xに両腕を食い千切られるドクター・コッパー役が有名。

映画研究家のR・H・スミスの音声解説は立て板に水の名調子で本作に関する蘊蓄を講義してくれる大学の名物教授の趣があって実に楽しい。

ロバート・フォックワースのフィルモグラフィで
「人造人間クエスター」のコト話してくれるし
フォックワースとエリザベス・モンゴメリーが
共演してた作品について語る際には
「モンゴメリーは「奥さまは魔女」の
サマンサ役からの脱却を目論んでいた」
とこっちの心を読んで解説する離れ技を披露。
タリア・シャイアの解説の際は
「「ロッキー」が予想外にヒットして本作の撮影終了を待って
「ロッキー2」の撮影に入った」
「スタローンは本作の撮影の終盤に入ると
毎日フランケンハイマーに「まだかまだか」と催促の電話を入れた」

「「キミ達の聞きたいコト」くらい先刻承知だよ!」
との名調子が延々続くのだ。

「ボクの友達は皆本作をこき下ろしたケドぜーんぜん平気!」
「だってボクはそう思ってないから!」
「「プロフェシー2」は何時作るの?」
「今からでもぜーんぜん遅くないよ!(Not too late)」
で締める
「プロフェシー」愛と超楽しい蘊蓄に満ち満ちた素晴らしい音声解説なの!
もう何でもいいからこの音声解説を聞いて!

本作の脚本を書いたセルツァーの意向が監督に全然取り上げられず
妊娠したマギーの出産場面は描かれなかった。

あのさあ!

もしも本作のプロデューサーが
映画「モンスター・パニック」をプロデュースした
ロジャー・コーマンだったら!
マギーが「異形の子」を産んで
医師と看護士が叫ぶ場面をオチにしたに決まってるんだよね!

…とガッとレビューを書いたらスティングレイの岩本克也代表の
書かれたブックレットに全く同じコトが書かれてて
「岩本代表…やっぱり貴方は僕だったのか…」
と衝撃の真実を知って暗転して本レビューは閉じるのである。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?