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クラウディオ・フラガッソ監督の映画「トロル2 悪魔の森」レビュー「本作で主人公の少年の父親役を演じたジョージ・ハーディの「ホラー映画愛好家は人生のあるポイントから時間が止まっている」との指摘が魂に突き刺さるッ!」

ごく平凡な一家が農家の暮らしを体験する為に,
やって来た,とある田舎町は,
実は何も知らない人間に一服盛って,
その姿を植物に変えた上で食べてしまう
菜食主義者のゴブリンが人間に化けて住む恐るべき土地だった。
一家のジョシュア少年は半年前に死んだ祖父の亡霊の助けを借りながら
何とか真実を暴き,家族に伝えて逃げようとするが…。

初見。
SNSでは本作の事を酷い酷いの大合唱。
でも全然酷くないじゃん。
「トロル2」と名乗っておきながら「トロル」との関係は全く無く,
独立した1本の作品として楽しめる気安さがあるし,
ドブ川をさらって泥を食う様な映画を観た来た身の上には,
田舎の人間は皆排他的で皆カルト宗教にハマってる,
菜食主義者は皆悪魔の手先で
ハンバーガーを目の前で食って見せると悶え苦しむ,
性交渉しか関心の無いボンクラな若者は皆植物人間になれ,
そもそも自分の友達が皆菜食主義者になったのが不満で
「菜食主義者は皆ゴブリン」と脚本に反映する,
等々ありとあらゆる悪意と偏見が煮凝りとなっていて
「ホラー映画愛好家が求めているもの」
がミッチリ詰まってる素晴らしい映画だ。
監督・脚本は
「ヘル・オブ・ザ・リビングデッド」「サンゲリア2」の脚本を書き
「ゾンビ4」の監督を務めたマエストロ,クラウディオ・フラガッソ。
散々悪意に満ち満ちた描写を描き続けておきながら,
最後は「ファンタジー」に着地する離れ技は
フラガッソにしか出来ないと断言する。

パッケージでは監督名は「ドレイゴ・フロイド」となっているが
僕は今!
誰が本当にこの映画を作ったのかをレビューしているのである。

「トロル2」と名乗っておきながら,ゴブリンしか出て来ない位何だ!
次に何が起こるか全く分からず一瞬も退屈しない脚本,
ホラー映画愛好家が泣いて喜ぶハッピーでない終わり方,
どれもこれも最高じゃないか!

僕が好きな場面は先ず一家が田舎町に向かう車中で,
突然母親がジョシュア少年に景気付けに歌を歌う事を強要し,
「♪漕げ漕げ漕げよボート漕げよ,ランランランラン川下り♪」
と歌う場面。
勿論「ダーティハリー」でさそり(スコルピオ)が
スクールバスをジャックして児童に歌う事を強要したアレだ!
つまりジョシュア少年は母親に精一杯の嫌味を伝えようとしてるのだ。
子供は大人に反抗すべきと言う監督の真心が伝わって来る。

もうひとつの,お気に入りの場面は,
女がトウモロコシを持ったまま男女の営みに突入し,
両者の体温の上昇によってトウモロコシが爆ぜ,
ポップコーンとなり,ふたりがポップコーンに埋もれる場面。
一体全体何回致せば,こうなるのか。
板垣恵介先生の「バキ」でバキと梢江の初めてのセックスで,
ふたりが使用済のティッシュに埋もれる場面を連想させる名場面と言える。

また本作のゴブリンはズタ袋の様な服を着て
「ゾンビ3」のゾンビを連想させるし,
終盤ゴブリンの群れに家を囲まれて籠城する場面もあるし,
「ヘル・オブ~」「サンゲリア2」「ゾンビ4」で
培われたゾンビ映画制作のノウハウが,本作で遺憾なく発揮されている。

こんなに見所満載の映画なんてそうは無いよ?

特典映像
ベスト・ワースト・ムービー(1時間33分32秒)
本作でジョシュア少年を演じた子役が成長して監督を務め,
父親役を演じたジョージ・ハーディを主役に据えた長編ドキュメント。
最初は現在歯科医を務めるハーディが
如何に町の名士で人品骨柄申し分のない人間である事が描写され,
その素晴らしいハーディと素晴らしい町民達と
素晴らしいハーディの共演者達とが,
口を揃えて本作を酷評する場面から始まり,
「コイツ等全員菜食主義者の糞ゴブリンと入れ替わってるんじゃねえの?」
と疑いを抱かせる最高の導入。
次いで本作に魂を奪われたホラー映画愛好家達の草の根運動によって
本作の良さが徐々に認知されて行き…。
「心あるホラー映画愛好家のみが人間で,あとは皆ゴブリン」
という描写に涙。
ハーディも一旦は本作への認識を改めるが…。
本ドキュメンタリーが素晴らしいのは実はここから。

本ドキュメンタリーがハーディが順風な時は
にこやかに調子のいい軽口を叩くが,ほんの少しでも逆風が吹くと
途端に保守に転じて仏頂面となり物言いが辛辣になる,
「人間の本質」を描き出していると判明した時は仰天したね。

「ベストとかワーストとかは評論家が決める事じゃない」

って世間の風向きに寄らず発言が一定しているフラガッソの偉大さが,
ハーディ如き小物と比較するのもおこがましく思える残酷な構図。
このドキュメンタリーが1本の映画とも言える素晴らしい特典映像。

本ドキュメンタリーは「トロル2」本編を差し置いて,
2010年に東京MXテレビでもTV放映される程の出来の良さで,
日本の「トロル2」ファン拡大に大いに貢献した。
未だ観ぬ「トロル2」への憧れ,どうしても観たいと言う欲求は,
12年後の2022年になって,ようやく実現したと言う訳だ。

予告編(2分23秒)

日本語字幕作成者は安心と実績の落合寿和氏
なのでヘンテコな誤訳はありません!

本商品の評価は作品内容&特典内容併せて
自信を持って5つ星評価する次第。
ハーディの
「ホラー愛好家は皆人生のあるポイントから時間が止まってる」
なんて実に痛いところを突く罵詈雑言に周章狼狽するんじゃあない!

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