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クローネンバーグ監督の「ザ・ブルード 怒りのメタファー」レビュー「クローネンバーグとズラウスキーの化物観の類似性」

精神科医の特殊な治療を受けた妻が性交渉に因らない臍の無い子をひとりで産み,その子達に,かつて自分を虐待した母,見て見ぬ振りをした父,夫と親しい女教師を次々と殺させる。あくまでも夫を純真無垢な天使として妻を醜悪な子を量産する憎悪の化身として描く。

離婚調停中だったクローネンバーグが映画「クレイマー,クレイマー」を観て激昂。
「1週間待ってくれ!俺が本当の夫婦を描いてやる!」
と山岡士郎ばりの大言壮語を吐いて作ったのが本作。
『「ザ・ブルード 怒りのメタファー」は僕にとっての「クレイマー,クレイマーだ!』
と後年監督は著作の中で明かしている。

二度目のブルーレイのブックレットによるとクローネンバーグの当時の妻は新興宗教にハマり,娘の親権を決して手放さず娘も信者にしようとしたと言う。

僕はこの件(くだり)を読んでズラウスキーの映画「ポゼッション」を思い起こした。
仏教に傾倒して男とチベットやインドに旅に出た妻マウゴジャータとの破局をマウゴジャータが彼の映画「悪魔」で演じた発狂演技をアジャ―二に再現させ妻を描写し,2人目の不倫相手を彼にはどうしようもない怪物=仏教の精神世界と妻は寝たと描いたのだ。
「異教」なる太刀打ち出来ない相手を本作では異教の神(=オリヴァー・リード演じる「神の使い=教祖」)と寝た結果,妻が醜悪な化物と化した描き,
映画「ポゼッション」では妻の不倫相手=「仏教とか言う異教」を醜悪な化物として描き,その化物と妻とが交合する驚異の「濡れ場」を描いたのだ。

クローネンバーグとズラウスキーの「化物観」に相通じるものを感じるのである。

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