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映画「ドクター・モリスの島 フィッシュマン」HDリマスター版ブルーレイレビュー「「ただのグリコ」が「一粒で二度美味しいアーモンドグリコ」に進化して怒る映画ファンなどいる訳ないのである。」

1891年カリブ海で難破した囚人船から救命用ボートで脱出した
軍医クロードと囚人数名は名も無い絶海の火山島に流れ着く。

島のブードゥー教を信ずる土人達を使役し専制君主として君臨する
エドモンド・ラッカㇺ(「サンゲリア」のリチャード・ジョンソン)は
15年前にこの島にやって来たとき
水面下600mに眠るアトランティス文明の都市遺跡を発見し
都市遺跡の中心に位置する
「太陽の神殿」に眠るとされる莫大な財宝の虜となる。

なれど水深600mを潜れる人間など居ない。
そのとき彼に閃きが生じる。

「全ての生き物は海からやって来た」
「人間もまた然り」
「いつか人間は再び海に還って行く」
「人間が海で生きられれば人口爆発問題・食糧難も解決だ」

との信念のもとに,人間が水陸両棲となる様,
人間に動物の臓器を移植する実験を行い
学会から追放された
異端の老教授アーネスト・マービンの事を思い出したのだ。

ラッカムはマービンを娘アマンダ(「恐怖のいけにえ」のバーバラ・バック)と共に島に呼び研究を続けさせる。
マービンはアトランティス大陸は数千年かけて沈む過程で
アトランティス人が人間から半魚人に進化したとの学説を掲げ
自説の証明の為に島の原住民を生体実験の素材として使い,
人間をエラ呼吸出来るよう改造する実験に取り憑かれて行く。

ラッカムにとってはマービンの学説などどうでも良く,
マービンが生んだ半魚人たちを使役して
海底神殿の財宝を運搬させる事が重大事なのだ。

クロードは人倫にもとる生体実験の数々に吐き気を催し
アマンダと組んでラッカムとマービンの凶行を食い止めようと
尽力を始める。

折しも火山活動が活発化し,島全体を揺るがす振動が頻繁に起こり始める…。

H.G.ウエルズの「モロー博士の島」は
「ドクター・モローの島」(1977)として映画化されてるが
「あやかりたいかやつりたい」を是とするイタリアが生んだ
「モロー博士の島」こそが本作なのだ。

便乗精神ではイタリアに負けていない日本の松竹が
「ドクター・モリスの島」と邦題を付けて
「ドクター・モローの島」とあわよくば間違えて観て貰おうとしている。
この「あわよくば」精神こそがバッタモン映画の特徴なのだ。
大体本作にモリス博士の「モ」の字も登場しないのである。
吹替では調子こいてラッカムの事をモリスと呼んでるけど
彼は気違い博士ではなく,強欲な金持ちの専制君主であり
気違い博士の役割はマービンが担っているのだ。

とは言え本作はH.G.ウエルズの原作にはない
「アトランティス文明の財宝探し」という
ロマンを付加して独創性を主張しており,
昔々「ホラー」と「SF」は「おどろおどろしさ」が共通する
シャム双生児であって,かつてこの世にはおどろおどろしい冒険小説…。
…と言うよりも「奇妙な冒険」つまり奇譚(きたん)なるジャンルが
存在した事を思い出させるのである。
「海底二万マイル」とかさ。
細かい事言えば
ドクター・モローの研究対象は「獣人」であって
マービンの研究対象は主に「半魚人」って違いもあるけどね。

クロードがモリス(とアマンダ)の夕食に招待された際に流れる曲が
ロメロ監督の「ゾンビ」(ディレクターズカット版)の
巡視艇基地の対峙時に流れる曲が流用されてましたね。

本作には日本語吹替が搭載されていて
1981年5月3日に日曜洋画劇場でテレビ放映された際の
吹替音源が収録されている。

アマンダは田島令子さん,クロードは羽佐間道夫さん,
アマンダを襲うイカレた囚人役は勿論青野武さんだ。

本作品を米国で劇場公開するに当たって
興行主のロジャー・コーマンが難色を示した。
コーマンの念頭にあったのは
本作を「血のバレンタイン」の様な
スラッシャー映画にしたいという思いであり
是非ともR指定にして箔を付けたかったのだ。

コーマンの「追加撮影して本作をスラッシャー映画にしろ」との号令一下,
コーマン門下生が招集された。
予告編作りの達人のジョー・ダンテ,
後に「アビス」や「ターミネーター2」に参加する編集のミラー・ドレイク,
カメラはゲイリー・クレイヴァー,
ロケーションマネージャーは「エイリアン2」のゲイル・アン・ハード。
「クリスマスの小遣いが欲しい」メル・ファーラーを演者に起用,
精密な半魚人スーツの特殊効果を後年「ザ・フライ」で
アカデミー賞を取るクリス・ウェイラスが手掛けた。

更に宣伝広報担当のジム・ウィノースキーが
当時話題になってたクローネンバーグ監督の「スキャナーズ」に倣って
題名を「スクリーマーズ」と改題。
予告編の惹句で本編に出て来ない「中身が裏返った男」で
観客が怒った事を受けロブ・ボッティンが
当時キャメロン監督の映画「ギャラクシー・オブ・テラー」の
セットが解体されずに残ってたのを流用し「反転男」のイメージ映像を撮影,
後に本編に(ムリヤリ)挿入している。
ボッティンはこの仕事のオファーを「タダでもいいぜ」と快諾したという。

更に更にCMにはコーマンがプロデュースした
映画「モンスター・パニック」でテントの中で
半魚人に女が素っ裸に剥かれて襲われる場面を流用。
勿論「スクリーマーズ」本編にそんな場面はない。

ミラー・ドレイクはそんな事しないでも
ヌードシーンを撮るよう女優と話が付いていたのにと残念がる。
本編にヌードシーンを入れると
テレビ放映が出来ないとの説明を聞いたドレイクは

「だって!そもそもR指定の映画がテレビ放映出来る訳ないじゃん!」
「駄目ついでにヌードシーンを入れたっていいじゃん!」

と真っ赤になって反論している。

つまり「ドクター・モリスの島」という名の本郷猛が
ロジャー・コーマンという名の「ショッカー」の大首領の号令一下,
大改造手術を施された改造人間・仮面ライダーこそが
「スクリーマーズ」なのだ。
まこと作品内容に相応しい改造手術を言えるのだ。
僕は…斯様に金と手間と暇のかかった「改造手術」を他に観た事が無いよ!

「ドクター・モリスの島」と「スクリーマーズ」を比較すると
冒頭約10分が追加ゴア描写撮影で,時折ゴア描写が追加撮影されている。
マービンの生体実験の結果,誕生した半魚人の出来が
コーマンのお気に召さず
「スクリーマーズ」で差し替えられ,似ても似つかぬ容姿と化している。

上:ドクター・モリスの島,下:スクリーマーズ
半魚人の顔が全然違うんや…。

本商品の最大の特典はコーマンの号令一下,
大改築工事が行われた「スクリーマーズ」の丸ごと収録であって,
画質はまあまあだけど暗闇の場面では若干黒潰れする。
「ドクター・モリスの島」のHDリマスター版は
目の覚める様な素晴らしい画質となっている。
その他の特典は専ら「ドクター・モリスの島」の
追加撮影…つまり「スクリーマーズ」に関する証言集であって
ロジャー・コーマン,ジョー・ダンテ,ミラー・ドレイク,
ジム・ウィノースキー,
ポストプロダクションの担当者クラーク・ヘンダーソン
の話を聴く事が出来る。
予告も「スクリーマーズ」メイン。
DVDティザー映像で辛うじて
「ドクター・モリスの島」の予告を拝む事が出来る。

「影なき陰獣」で知られるセルジオ・マルティーノ監督の
「オリジナリティ」など
「このままじゃ米国での興行収益が上がらねえ」という
興行の立場で考えるロジャー・コーマンの判断の前には
「吹けば飛ぶような将棋の駒」に過ぎないのだ。

冒険映画として観れば「ドクター・モリスの島」が素晴らしいが
ホラー映画として観れば「クリーチャーズ」に軍配が上がる。

僕の様ないちファン映画にとっては「ただのグリコ」が
「一粒で二度美味しいアーモンドグリコ」に進化して
文句を言う筋合いなどある訳がないのである。




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