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映画「ファイナルカウントダウン」レビュー「『歴史は厳粛なもので1度しか起こらない。そしてソレを変えるべきではない。』という姿勢が徹底されているのが素晴らしいのです。」

1980年12月6日。
真珠湾を出航した原子力空母ニミッツは真珠湾沖でトムキャットやF14の
着艦演習中に奇妙な嵐の渦に呑まれ1941年12月6日にタイムスリップする。
オブザーバーとして乗艦していたニミッツを建造したタイドマン社の
ラスキー(マーティン・シーン)は大興奮して
「我々は過去40年間に犯した誤りを修正する絶好の機会を得た!」
と寝言をほざくが…
沈着冷静なイエランド艦長(カーク・ダクラス)は
夢見勝ちなラスキーの妄言には耳も貸さない。

ただ…1940年11月26日…大日本帝国の6隻の空母…
「赤城」「加賀」「翔鶴」「瑞鶴」「飛龍」「蒼龍」
…が千島列島から出航し真珠湾に向かい…。
明日未明…それらの空母から飛び立った353機の艦載機が
真珠湾を攻撃すると分かっている…。
真珠湾奇襲への暗号は「ニイタカヤマノボレ」。

イエランドは「歴史の修正」とか「歴史の変更」には全く関心がなく…。
ただ米国本土を攻撃する敵があるならコレを撃滅する義務があるという
職業軍人としての使命感から
トムキャットとF14に出撃命令を発するのだった…。

本作…「ファイナルカウントダウン」は…。
邦画「戦国自衛隊」(1979年)の翌年に日本で公開され…
何かと比較される事の多い作品である。

僕は今日初めて本作品を視聴したが…。
本作にはオーエンス中佐に代表される
「歴史とは厳粛なもので1度しか起こらないしコレを変更すべきではない」
という考えとマーティン・シーンに代表される
「構うコトないから過去40年間の誤りを片っ端からバンバン修正しちゃお」
という考えの対立があり…。
本作はあくまでもオーエンス中佐の考えを支持し
マーティン・シーンの考えを
ナマイキなリベラルのガキの「寝言」として扱っている特徴がある。

「歴史は変えるべきではない」と。

テレビの「スタートレック」でもヒトラーの台頭を阻止し得る
女性活動家が事故死してソレが出来なかったという「歴史」を尊重して
彼女が事故死するのを阻止せず結果として見殺しにする話があったなあ…。
「歴史」は「人命」に優先する程厳粛なものであるという価値観…。

「戦国自衛隊」は戦国時代に自衛隊がタイムスリップして
「俺達…天下統一出来るんじゃね?」
と考えていて本作の思想から見て「寝言」を言っている。
「戦国自衛隊」は「仮想戦記」に分類され…。
「『結果』を知っていれば日本は太平洋戦争でアメリカに勝てる」
と言う…実に生々しい「寝言」へと繋がって行く
「歴史」というものに対する厳粛さの欠片もない
「甘さ」が発露してるのだ。

とはいえ…。
F14と零戦とのドッグファイトで
観客を単純に燃えさせるサービスは忘れないし…
マーティン・シーンが吐く「寝言」への一定の理解も示され…
何と言うかアメリカと日本は…
思慮の差がオトナとコドモ程違うと分かる。

本作に登場する日本兵は「ジャップ」じゃありませんし
米兵は「鬼畜」でもない。
敵は「鬼」でも「畜生」でもないんですよ…。

本作が「歴史を変える」事を「寝言」と受け取っている以上
「(結果的に)大日本帝国の真珠湾攻撃を阻止しない」
という立場を採るのは当然の帰結であり
観ていて実に気分爽快である。

「気分爽快」なのは
「こうすれば日本はアメリカに勝てた」という
後出しジャンケン的「スケベ心」がゼロだからで
その「歴史」に対する真摯な姿勢に頭が下がり
同時に日本人のひとりとして恥じ入るばかりである。

本作は「戦国自衛隊」の様な
オールスターキャストの大作映画じゃありません。
「現代の最新鋭空母が1941年の真珠湾攻撃直前に
タイムスリップしたらどうなるか?」
のワンアイディア映画で
「歴史は変えるべきでない」
と背筋に芯が通っているので
「歴史は俺たちに何をさせようとしてるのか?」
とヘンなスケベ心に走らないから尺の伸び様がない。

1941年にタイムスリップしました。
折角来ていただいた観客の皆さんの為に
F14と零戦のドッグファイトをお見せします。
でも歴史は変えません。
そろそろ時間が来たので帰ります。

コレが「ファイナルカウントダウン」の全てなんです。
実に清々しい。

最後まで「謎の人」として描かれる
「タイドマン(Tideman)社長」は
「歳月人を待たず」(Time and tide wait for no man)
という諺から名前が採られている。
歳月は人を待たないが…。
タイドマン社長はラスキーが1941年から現代に戻るのを待っていた…。
という余りにも見事なオチに惜しみない拍手喝采を贈りたい。

3種類搭載されてる吹替音源のうち
マーティン・シーンの声の出演は富山敬さんが最高だし…
オーエンス中佐は若本規夫さんが実に最高な演技を披露されている。

ミリタリーファンにはニミッツの内装や
トムキャットやF14の発艦着艦描写や
乗組員の艦内の生活スケッチやスクランブル時の行動様式が
惜しげもなく披露されているのが御褒美と言えるだろう。

あのさあ。

本作…「ファイナルカウントダウン」で流れる曲が
岩崎宏美の「聖母たちのララバイ」(1982年)に酷似してるのは何故だ?



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