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映画「オードリーローズ」レビュー「本作は西洋物質文明の信奉者が…「尊師」と出会い…仏教と輪廻転生思想に傾倒し…ソレを受け入れて行く映画と僕は受け取りました。」

ニューヨークの広告代理店に勤務するビルとその妻ジャニスは
今年で11歳になる娘アイビーと共に家族仲睦まじく暮らしていた。

だがジャニスは娘アイビーの通う学校の周辺を無精ひげを生やした
不審者(アンソニー・ホプキンス)がうろつき回ってるのが気に入らない。
夫ビルも不審者の存在に気付き警戒してたが…。
ある雨の日,ジャニスはアイビーを迎えに行くのが遅れ…
娘の姿が何処にも見えない…。
娘はあの不審者に自宅に送り届けられていたのだ…。

不審者「奥さん…アイビーは僕が家に送っておいたので安心して下さい」
「奥さん…アイビーから目を離すなんて感心出来ませんね…へへへ」

そこに夫が駆け付け
「何が『安心』だッこの変態がッ!」
と不審者を殴り倒す。

不審者は自分の名を「エリオット」と名乗り…
ふたりに事の経緯を語り始める…。
エリオットの娘オードリーローズは11年前に自動車事故で
車内に取り残された状態で車が炎上し彼の妻と共に焼け死んだ…。
魂の抜け殻となったエリオットは
流浪の旅の過程でインドで仏教を修行し…
輪廻転生(リーインカーネーション)という思想を学び…
オードリーローズの魂もまた輪廻転生して
「誰か」に生まれ変わったと信じ込むに至る…。

エリオットは11年前の出生記録を調べ上げ…
11年前の事故があった日の
8:20AMにオードリーローズが死に…
同じ日の8:22AMにアイビーが生まれていると知り…
アイビーこそがオードリーローズの輪廻転生した姿だと信じ込むに至る…。

ジャニスはアイビーが誕生日の度に魘されて苦しんでいるのを思い出す…。
アレは「前世の記憶」に苦しめられているのでは…。

ビルはブッキョーのリンネテンショーなどハナから信じてない。
人は死んだら無に還る。
灰から灰へ
塵から塵へ
ソレだけだ。

だが後日…アイビーは夢で「熱い!熱い!!」と魘された後に…
両手を大火傷する…。
コレが「気のせい」「夢見が悪い」せいなのだろうか…。
それに…アイビーが悪夢に魘され…
「エクソシスト」のリーガンの様に錯乱して大暴れして
手が付けられなくなったとき…。
多忙でビルがジャニスの側にいなかったのに…
(アイビーにつきまとっていた)エリオットが
結果としてジャニスの側にいて…
錯乱していたアイビーを
「オードリーローズ…何も怖がるコトはないんだよ…」
と宥めてくれたコトを…頼りにならない夫ビルへの恨みと…
滅茶苦茶頼りになるエリオットへの感謝の念を…
ジャニスは忘れていなかった…

ジャニスは夫ビルへの大いなる反感もあり…
エリオットが傾倒した仏教に…輪廻転生思想にハマって行く…。

エリオットは当初…
「時折アイビー(つまりオードリーローズ)に会わせてくれればソレでいい」と殊勝なコトを言っていたが…

ソレだけで済む訳ないじゃん。

だってエリオット的にアイビーは…
娘オードリーローズの転生した姿であって…。
つまりは「僕の娘」なんだから…

ビルは妻ジャニスがエリオットに人間的にも思想的にも傾倒し…
ビル的に妻を…エリオットとブッキョーに寝取られたと感じ…
この上,アイビーの親権まで奪おうとするエリオットを告訴し…
仏教の輪廻転生思想を西洋の物質文明思想で裁き…
妻の目を覚まさせる強硬策に出るのであった…。

本作の前半はエリオットが
ジャニスの認識を侵略して行く模様が描かれ…。
後半はビルとエリオットの
娘の親権を巡る「輪廻転生裁判」の模様が描かれる。

「輪廻転生」なるものが本当に存在するのか…
もし存在するとして…オードリーローズの輪廻転生したアイビーとは…
一体オードリーローズなのかアイビーなのかが裁判の争点となるが…

本作品の主人公はジャニスであって…
良き妻良き母親であるコトが最善の生き方であると
信じて疑わなかったのが…
エリオットという尊師が出現し…夫への不信もあり…
異教(仏教)にかぶれ…輪廻転生思想にかぶれて行く
模様が丁寧に描かれて行く…。

ジャニスが輪廻転生を信じ…
「アイビーはオードリーローズである」
と証言することによって夫ビルとの関係の亀裂は決定的となる…。
何故なら「アイビーはオードリーローズである」なら
「親権はエリオットにあるべき」だからである。

夫ビルはあくまでも西洋物質文明を信奉する「愚物」して描かれ…
ジャニスの反対を押し切って娘アイビーに逆行催眠をかけさせ…
アイビーの出生…「それ以前の記憶」を分析的に確かめようとして…
悲劇的な結末を生むこととなる…。

しかし…どっぷりとエリオットと仏教と
輪廻転生思想にハマったジャニスは嘆かない。
何故なら「死」は「終わり」ではなく
「別の誰か」に転生することによって
「命」が無限に引き継がれて行くと確信してるからである。

死ねば無に還るという西洋物質文明思想は敗北し…
死は終わりではなく…転生することによって命は引き継がれて行く…
という輪廻転生思想の勝利が「裁判の結果」となる。

エリオットはインドに行き…
仏教の更なる秘奥を探究するコトが示唆されて本作品は閉じる。

個人的には…「アイビーの11年の人生」が
有耶無耶にされたコトが納得出来ない。
11年の間…「アイビーの人格」は確かにあって…
ソレが…ブッキョーのリンネテンショーとやらで
「オードリーローズの人格」に上書きされてしまったコトが…
僕にはどうしても納得出来ないのだ…。
「輪廻転生思想」とは…「個の意識」を否定し…
「次の人生」へと引き継がれる
「継続的意識」のみを認めるものなのであろうか…。

そうであるなら「継続的意識」に…。
「オードリーローズの意識」のみが選ばれ…
「アイビーの意識」が無に還ってしまったコトが腑に落ちないのである…。

僕がこんな疑問を持つのも…
西洋の合理主義に毒されてるせいなのだろうか…。

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