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アニメ「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」レビュー「生きてはならない人間」

昭和31年哭倉村の領主・龍賀一族の当主が他界し,
東京の血液会社に勤める水木は新しい当主となる人物にも
自分の会社への変わらぬ愛顧を求めて遺言状の発表の場に立ち会う。

だが遺言で次の当主に指名されたバカ公家の長男は何者かに惨殺される。
折しも土砂崩れにより村と外界を結ぶ唯一の道は閉ざされ,
水木と龍賀一族…そして恐らく龍賀の長男を惨殺した者…は孤立する。
水木は龍賀の下男達に余所者の不審者として捕えられた風変わりな男に
「ゲゲ郎」と名付け何故かゲゲ郎の飄々とした佇まいに惹かれ
行動を共にする様になる。
ゲゲ郎は「自分の妻」を探しに,
この村に来て事件に巻き込まれたと言うのである。

水木は南方で上官の玉砕命令に従ったものの死に損なった男で
自分が死なねばならないのに
上官が何でのうのうと生きてるのかが納得が行かず,
偉くなって成り上がって「死ね」と命令される立場からの
脱却を図ろうと目論んでいるのだ。

次々と龍賀の者が奇怪なやり方で惨殺される連続殺人劇は
龍賀の「当主」の座を奪い合う骨肉の争いと思われたが
事件は思わぬ方向に進展しゲゲ郎と水木も
その渦中に飲み込まれて行くのであった…。

アマゾンプライムビデオで視聴。
初見。
この映画の下敷きのひとつに
水木しげる先生の「総員玉砕せよ!」と言う
水木先生曰く「90%真実」の漫画がある。

昭和二十年三月三日,南太平洋・ニューブリテン島の
バイエンの死守を命じられた支隊は
「支隊長以下,全員最後の斬り込みを敢行する」
「ラバウルの赫々(かくかく)たる戦勝を祈る」
と兵団司令部に連絡をして消息を絶った。
兵団司令部ではこのバイエン支隊の玉砕を軍規の弛み切ったときに
ラバウル全軍に与えた感動は大なりとして大本営並びに方面軍に発表した。

だがバイエン支隊は玉砕しておらず数十名の生き残りがいた。
水木先生は彼等数十名を「生きてはならない人間」と表現されている。
玉砕命令が出ているにも関わらず
生きているという事は即ち死刑なのである。
玉砕で死ぬか,死刑になるか…。
いずれの場合も兵は死なねばならず「生きてはならない人間」となるのだ。

兵団司令部は生き残りの数十名に玉砕するよう命じる。
折角支隊長の玉砕命令にも関わらず拾った命なのに
その拾った命を投げ捨てて死ねと言うのである。

結局生き残り全員が死に玉砕は敢行されて話は閉じる。

「虫けらでも何でも生きとし生けるものが生きるのは宇宙の意志であり」
「人為的にそれを遮るのは悪である」

が水木先生の主張となっている。

「ゲゲゲの謎」の水木は玉砕命令が出てるのに
オメオメ生きている「生きてはならない人間」であり
なんで他人に「生きてはならない」と命じられねばならないのかを
疑問に感じ「誰からも命令されない立場」となる為に
成り上がろうとしているのだ。

終盤彼は墓の中から土を搔き分けて這い出して来た赤ん坊を目撃する。
「この赤ん坊は…バケモノの子だ…」
「このバケモノの子もまたバケモノでありッ!」
「いずれ,この世を滅茶苦茶にして回るだろう…」
「オマエはッ!」
「生きてはならない人間なんだッ!」

水木は赤ん坊を絞め殺してやる事が「この子の為」だと考えるが…。

彼は思い留まる。

ソレは…「この子が親友から託された子だから」なんかじゃないッ!
「この赤ん坊はオレだから」なんだッ!

水木が…一度は未来を遮ろうとして思い留まった赤ん坊は成長し…。
のちに「鬼太郎」と呼ばれる様になるのである…。

例え現実がどれ程クソであろうと
「未来」を遮る事はッ!
生きる努力を諦める事はッ!
「宇宙の意志」に反する「悪」だと描いて映画は閉じる。

本作に於ける最も価値ある行為が
「命を守り…未来を守ること」なのだから
ゲゲ郎が
「オマエ(ラスボス)が安易に未来を語るなァァァ!!!」
と憤るのは当然の帰結と言えるのだ。
つまり…本作品は熱血少年漫画の文法で描かれているのだ。

目玉の親父の声の出演は野沢雅子ッ!
鬼太郎と言えば野沢雅子…だがッ!
今や目玉の親父役とはね…。
本当はね…「ドラゴンボール」がそうである様に!
鬼太郎もゲゲ郎も目玉の親父も!
全員野沢雅子に演じさせたかった筈なんだッ!



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