映画「デビルズ・ゾーン」スティングレイ社による2度目のブルーレイレビュー
最初に断っておきますが,本レビューは2023/6/23にスティングレイ社からリリースされた「デビルズ・ゾーン 超・特別版」ブルーレイに対するものです。
米国南部を気ままにドライブしていた若者3人が先行していた仲間との待ち合わせ場所で車がパンクしてウディがGSを捜しに行き,アイリーンが待っているのを発見する。
ところが合流した4人が待てど暮らせどウディは帰らない。
4人は彼を捜しに行くもののエンジントラブルで立ち往生してた所でマネキンの博物館を営むスローソン(チャック・コナーズ)と名乗る男に助けを求める。
彼は離れで博物館を営んでいるが母屋に人が近づくのを嫌っている素振りを見せる。
「グリム童話」がそうである様に,
最近では「ダチョウ俱楽部」がそうである様に
「絶対に行くな」と言われれば,それは「絶対に行け」の前振りであって若者の1人が母屋に向かい,果たして奇怪な白仮面の男に襲われるのであった。
白仮面の男は「スローソンの弟」を自称し,兄であるスローソンに仮面を装着させられ母屋に幽閉されていると主張するが…。
若者達がノコノコ米国南部の田舎に出かけて酷い目に遭う…と言えば誰もが「悪魔のいけにえ」を連想するが,
ブックレットによると本作のデヴィッド・シューモラー監督が卒業したテキサス大学オースティン校はトビー・フーパ―の出身校であって,
母校の出世頭の立身作「悪魔~」を意識するのは当然であって,
本作の共同脚本兼製作のJ・ラリー・キャロルは「悪魔~」の編集のひとりで,
美術担当のロバート・A・バーンズは「悪魔~」の食人一家の屋敷を作り上げた。
編集のテッド・二コラウは「悪魔~」の音響レコーディング担当。
「悪魔~」と似てると言うよりスタッフが被っており関連が深いと言うべきだと指摘する。
しかしですね。ここからは僕の初見の感想となりますが本作と「悪魔~」は似てると思います。
テッドが胸元はおろか腹までボタンを外した開けた格好でGSに「こんちわ~」と挨拶して入ると,
奇妙な動物の鳴き声が聞こえ声のする方に接近すると「何か」に襲われるのは,まんま「悪魔~」のカークだし,
「スローソンの弟」が奇怪な仮面を被った姿はレザーフェイスであり,時々オバチャンパーマのカツラを被って化粧する所も同じ。
そして「スローソンの弟」にモリ―が散々追いかけ回され助けを求めたスローソンが実は…って流れは,
まんま「悪魔~」のサリーとOLDMAN(ジム・シードゥ)とのやり取りであって,
モリ―がスローソンの運転するトラックに乗るカット割りまで「悪魔~」と良く似てる。
コレだけ似てて「本作を「悪魔~」のエピゴーネン(亜流)と呼ぶのは早計」でしょうか。
要するに「亜流は悪い事」って考えが問題で寧ろ良い物・好きな物をどんどん取り込む貪欲な姿勢は賞賛すべきではないでしょうか。
それに本作が影響を受けてるのは「悪魔~」だけではないと思います。
母屋に奇怪な仮面を装着させられた「兄に非常によく似た弟」が幽閉されてる設定はデュマの「鉄仮面」ですし,
本作の母体となった大学院の卒業制作作品「お前は蜘蛛に殺される」の主人公の劇場の屋根裏に住む盲目の男は「オペラ座の怪人」で,
「スローソンの弟」が被る仮面と怪人が被る仮面の形状が似てます。
そして「弟の凶行に心を痛め彼を庇う出来た兄」は「サイコ」の「母の凶行に心を痛め母を庇う出来た息子」の翻案ですよね。
「それは真実ではない」って所が特に!
椅子に腰かけた「スローソンの弟」に後ろから声を掛け彼がクルっと振り返る場面は,
「サイコ」でライラが「ノーマン・ベイツの母親」に声を掛ける場面とカット割りまで同じじゃないですか。
大学院を卒業して間もない経験の浅い監督がデビュー作を作るに当たって過去の名作から学ぶのは,それ程問題でしょうか。
勿論マネキンが生命を得て生き生きと活動を開始する後の「パペット・マスター」を産む彼の悪夢的本領は遺憾なく発揮されておりますし,
一遍観たら二度と忘れられないオチのトラウマ全開の独創性も上乗せされている。
僕は初見の際,余りの衝撃に14時間程寝込み魘された事を告白します。
本作が「悪魔~」を大いに参考にしてる様に他の作品も参考にしていて,それとは別にキチンと独創性もある。
監督が考えられ得る必勝形で臨んだだけじゃないですか。
それの一体何処が問題なのか僕には分かりません。
「亜流」云々は本作の極一部を超拡大してチマチマ論じてるに過ぎないと言いたいのです。
本作の本質は「悪魔のいけにえ」「サイコ」「オペラ座の怪人」「鉄仮面」のハイブリッドに大変な独創性を付加した物なのです。
2013年にニューライン社から出た本作の最初のブルーレイのジャケット裏面には
『「悪魔のいけにえ」の戦慄と「キャリー」(を作曲したピノ・ドナッジオの曲の)恐怖で迫るオカルトショッカー!』
と謳ってある。「亜流」って言葉に興奮する必要など微塵もない。
「木だけ見ず森も見て」欲しいのです。
本商品には
1.90分アンカット版
2.85分短縮版
3.LD版(90分アンカット版)
の3バージョンが収録されてます。
「85分短縮版」と言うのは権利元のフルムーン社がブルーレイのマスターを製作した際,
監督に無断で勝手に5分カットしたバージョンで,
監督は当然抗議して2020年に本来の尺である90分の(アンカット版の)マスターを製作してます。
2013年にニューライン社から本作の最初のブルーレイが出ておりますが,
ニューライン社的に,そんな監督に認知されてない「尺足らずマスター」は死んでも使う訳には行かず,
じゃあどうしたかと言うとオリジナルネガにデジタルリマスター処理を施したニューマスターを使用してます。
ただこのニューマスター,画質に大難があると言う欠点があるんです。
ニューライン社にとって重要なのは画質云々より「オリジナルである事」なのですよ。
この点についてブックレットで岩本代表が「ニューライン社と弊社(スティングレイ社)の考え方の違い」に言及されてます。
ニューライン社が
「『オリジナル』の収録が最優先で(監督が認めてない)オリジナルより尺が短いバージョンなど論外」
ならば
スティングレイ社は
「例え父親(監督)から認知されてない子(バージョン)であろうと,別バージョンが存在するのなら全て余す所なく収録する」
のがポリシーとの事。
「85分短縮版」の画質は多少の白飛びは認めるものの許容範囲だと思います。
同バージョンには2014年に収録された監督による音声解説と85分に(5分)短縮した日本語吹替が搭載されてます。
監督は本バージョンを認知されてないのに音声解説は収録してくれていて有難かったとは岩本代表の弁。
話が前後しましたが「90分アンカット版」は1080Pリマスターを日本国内で入念にレストアした2023年バージョンで,
ここまでやるって事はかえって画質が心配されましたが,解像度や明度は最高なのですが,それでも僕はかなり白飛びが気になりました。
同バージョンには1998年に収録された監督による音声解説(2013年に出たニューライン社による最初のブルーレイにも搭載されてます。)と
日本語吹替(こちらも2013年のブルーレイに搭載されてる物です。)が搭載されてます。
因みに日本語吹替は一度も字幕に変わる事はないためスティングレイ社の十八番の「日本語吹替テレビ版再現再生機能」は今回は必要がない訳です。
LD版は字幕焼き付けではなく本編の字幕が画面比4:3フルフレームで収録されてます。
LD版の日本語吹替もメニュー画面に項を設けられてます。
画質はアレですが,どのバージョンよりも画面から貰う情報が多く「元の形」に最も近いという特徴は捨て難いですね。
メイキング・オブ・デビルズ・ゾーン(24:34)
監督によるメイキング解説ですね。
余り大きな声では言えないのですが監督の2014年収録の音声解説の内「特に言いたい事」を,
再度語り直した感があり,「同じ事」を聴きたくないならスルーしてもいいかもしれません。
1998年収録・監督インタビュー(6:55)
2013年に出たニューライン社の最初のブルーレイの収録されていた特典の再録ですね。
オリジナル劇場予告編(1:57)
2013年に出たニューライン社の最初のブルーレイに収録されてた特典の再録ですね。
TVスポット(0:29)
初収録の特典ですね。
ギャラリーアーカイブ(3:21)
初収録の特典ですね。
A4サイズポスター
意匠は秘密です。
日本限定サウンドトラックCD
ピノ・ドナッジオが奏でる珠玉の名曲25曲・40分33秒収録されてます。
特典に関する特記事項として2013年に出たニューライン社の最初のブルーレイに収録されていた特典が全て網羅されており,
2013年版ブルーレイを何らかの理由で購入されておられなくとも今回のブルーレイを買っておけば安心と言う訳ですね。
先程も触れましたが2つの音声解説,監督インタビュー,監督によるメイキングを視聴すると,「思う所」があります。
皆さんが出た学校で「同じ話」を何度もする教師がいませんでしたか?
シューモラー監督は大学で映画について教鞭を取っておられる故なのか
学校教師の様に「同じ話」をされる癖がある様ですね。
「「同じ話」は1度聴けば沢山」なのは偽らざる本音なのですが,それは別にして監督の話は(1度だけ聴く分には)面白かったです。
特に素晴らしいのが「PG指定の恨み」の話。
監督は本作の「怖さ」に自信を持っておられて当然R指定(18歳未満お断り等の年齢制限の事です。)されると自負されておられたのですが実際はPG指定。
PG指定は「保護者が同伴すれば子供(12歳等)でも観て良い」って区分で,
ホラー映画愛好家は常に痺れる様な怖い映画を所望しているのであって「お子様向けの怖い映画」など歯牙にもかけぬもの。
つまり監督は本作に向こうの映倫から「18歳未満は観る事罷りならん」とのお墨付きが貰えなかった事を恨まれている訳。
「僕は子供にもこの映画を観せなかった程怖いのに」とは監督の弁。
ところがPG指定であるが故に土曜の午後に普通にTV放映され,
数多くの当時の小さな子供達に一生消せないトラウマを植え付けるのに成功したと言うのだから何が幸いするかは最後まで分からないって話。
本作を始めとして,この頃の映画は美男美女頭脳明晰眉目秀麗容姿端麗が一切登場せず,
どいつもこいつもパッとせず社会の最底辺を這いずる様な存在が一瞬だけ燃える様にキラキラ輝くのが素晴らしいですね。
だからこそ我が事の様に感情移入出来るのです。
「輝いた」結果,燃え尽きて死んじまう位なんだってんだ。
これだけ盛り沢山の特典が付いて税込5,720円は僕は安いと思います。
90分アンカット版の白飛びが無ければ文句無しに5つ星を進呈出来たのですが,それが残念です。
僕はスティングレイ社のオフィシャルサイトで先着100名限定フィギュアセットを購入したのですが「スローソンのフィギュア」とかを作る海外の採算を度外視しした「俺達が作りたいから作る」心根は見習いたいですね。海外には「サスペリア」のラスボスのフィギュアとか「サスペリアpart2」の真犯人のフィギュアが売ってて「海外って凄え」って素直に驚かされます。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?