見出し画像

「サスペリア 4Kレストア版」と「サスペリアPART2 4Kレストア版」の「目指す所」の違い。

「サスペリア 4Kレストア版 UHD+BD」と
「サスペリア PART2 4Kレストア版 UHD+BD-BOX」が手元に揃い,
「サスペリア PART2」に引き続き「サスペリア」を視聴し,
両ソフトの間の思想の共通点と相違点を感じたので
レビューを書きたいと思う。

先ず共通点。
初期のブルーレイに特に顕著だが
血液は真っ赤な「鮮血」であり
空は抜ける様な真っ青であり,
海は紺碧の海原が陽光を反射してキラキラ輝いている。
最高画質と最高の発色の追求こそが
ブルーレイの掲げた「正義」だったと思う。

でもさ。
ちょっと待って欲しい。

僕達が普段眺めてる「世界」ってこんなに綺麗だった?
僕達の体内を流れる血液ってこんなに真っ赤だった?
空はこんなにも青かった?
海原は陽光を浴びてキラキラ輝いていた?

そうじゃないでしょう?
「自然」ってもっと明度が低く
血液は鉄分を含有してるから「真っ赤」じゃなくて
黒みががった「深紅」であって
空は「曇る」事もあり
海は年がら年中「晴れ」てない。

ブルーレイの中に提示された
「世界」って何処にも存在しない「架空の存在」なんじゃないの?

僕は「サスペリア」&「サスペリアPART2」の両UHD円盤製作スタッフは
「ブルーレイが提示した「何処にもない完璧な「自然」指向」に疑問を持ち

「オマエの血はなに色だァァァ!」

って叫ぶところから出発したと思ってる。
まこと僕達の血液の色って本当は何色なのか。

両UHDスタッフは
「鮮やかな発色」の追求を止め「自然な発色」を追究した。

だから両UHDは「いい意味で鮮やかさが後退した」って共通点がある。
「サスペリア」では「色彩設計に於ける「赤」の照り返し」が抑えられ
「サスペリアPART2」では「血の赤」が「血の深紅」となった。

だが「こっから先」で
両UHDの設計思想の違いが…最大の違いが露わになる。
「サスペリアPART2」のUHDでは
隅々まで光が行き渡り
「部屋の中にあるもの」をあまねく浮かび上がらせるが,
「サスペリア」のUHDでは
隅々まで光が行き渡らず部屋は薄暗く
「部屋の中にあるもの」の一部を射干玉の闇の中に沈める。

恐らく「サスペリア」のUHDの方が
「自然光の到達する範囲」を厳密に再現したのだと思う。
より「自然」を追究したと言える。

しかし…2016年に配信された
イマジカ配信版「サスペリア」では見えていたものが
2019年のUHD版「サスペリア」では見えなくなって
納得出来る人は少ないと思う。

何故なら僕達は暗闇に光を当て分析し解析する事によって
進歩して来たからで
UHD版「サスペリア」はその進歩に逆行してるからである。

例え如何なる高邁な理想や崇高な理念を捏ねられようと
「画面から貰う情報が減っている」
事実を「損した」「悔しい」と受け取らない事は困難だろう。

僕達は満員の電車に乗って通勤するとき

「こんな…あくせくした暮らしはもう沢山!」
「何処か…山奥に小屋でも建てて自然と共生したい」

と思う事があるだろう。
しかし…その「山小屋」は…電気水道ガス冷暖房ネット環境等々の
インフラが完備し冷蔵庫には冷えたビールが入っていテレビで円盤を再生し
美味しい食料の備蓄も申し分のない「山小屋」で
その暖房の程良く効いた山小屋の窓から
キタキツネをウォッチングする事を指して
「自然との共生」と呼んでいるのだ。

僕達が夢想する「自然」と
「サスペリア」UHDの志向した「自然」とは主旨を異にし
「サスペリアPART2」UHDの提示した「自然」こそが
僕達の夢想する「なんちゃって自然」なのだ。

僕達が自然の暗闇に光を当て分析し解析する事を性分とする以上,
「自然の都合の悪い部分」は受け入れられない。
『「サスペリア」UHDはやり過ぎた』のだ。

「サスペリア」UHDは「ブルーレイは自然に還れ」という高い理想を掲げ
自然光の到達範囲まで計算して設計を行い
「そこまでやれなんて言ってない」と反発を食らったのに対し,
「サスペリアPART2」UHDは「ブルーレイは自然に還れ」という
高い理想を掲げつつ「映画の隅々まで解析したい」
僕達の本能的ニーズを叶えるという離れ技を披露し受け入れられたのだ。

「いい似顔絵」を描くコツは「写実を極めて精確に描く事」ではない。
「シミとかシワとかを描かず「本人」の2割増しに美形に描く事」なのだ。
モデルが「自然」であっても,
この原則が適用される事がたった今証明されたのだ。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?