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映画「シン・ウルトラマン」ブルーレイ特別版3枚組レビュー

池袋の映画館で本作を観た感想は初代マンをファミコンソフトとすると
シンマンはスーパーファミコンのソフトって事ですね。
どういう事かと言うとゲームソフトの命はアイディアで,
そのアイディアはファミコンで出尽くしていると言われていて,
スーパーファミコンのソフトはファミコンソフトのアイディアの焼き直しだって言ってるんです。
シンマンが面白いのは初代マンが面白いから。
シンマンに感動しなかったのは初代マンのアイディアの焼き直しだったから。

初代マンは「バラージの青い石」的には神の化身,人と神とを繋ぐ架け橋,人に無限に優しい存在ですが,
僕はシンマンに,エヴァの様な,シンゴジラの様な得体の知れない,決して意思の疎通の出来ない,
人間の事など何とも思ってない,場合によっては世界を平気で滅ぼす「荒ぶる神の化身」を期待してたんです。

実際にシンマンを観ると,人を裁く「怖い神」としての権能はゾーフィに丸投げして,
シンマンの立ち位置は人間の最も古い友人…大変知能が高くて勇敢で人間を無条件に信頼する犬でした。
例え人間にどれだけ裏切られようとも,決して人間を見捨てない忠犬ですね。
本質が犬だから僕は長澤まさみ隊員が神永を評する「バディ(相棒)」という言葉に納得しましたし,
神永が彼女の体臭をクンクン嗅いでも「ワンちゃんが飼い主に,よく懐いている」と思っただけで,
「セクハラ」とは思わなかったんです。

本日(2023年4月11日)に本作のブルーレイが届きました。
本編には字幕も付いてガイダンス機能も搭載され,作品の理解を助けてます。

「シン・ウルトラファイト」なる全10話から成る短篇映像を初めて観たのですが,
元となった「ウルトラファイト」が怪獣との戦いを本編から抜粋・編集した「抜き焼き」と
くたびれた着ぐるみで採石場や海岸で寸劇やプロレスを演じる「新撮影」の2通りに大別される事に倣って
「抜き焼き編」と「新撮影編」から成り,わざわざスタンダードサイズで収録されてます。

「しかしですね」と樋口真嗣監督は語る。
「「ウルトラファイト」も製作者の技量が上がると単なる寸劇や怪獣プロレスでは満足出来なくなるんです。」
「必ず何らかのドラマ性や新たな特撮を盛り込んで新たなひとつの話を創造しようとするんです。」

監督の言葉を証明するかの様に「シン・ウルトラファイト」の終盤では
大元の「ウルトラマン」の「さらばウルトラマン」のカット割りでシンマンと惑星制圧用最終兵器を立ち会わせ
「シンマン」には登場しない科特隊本部ソックリの禍特対ビルのセットをわざわざ用意して
一兆度の火球で攻撃させたりと大変凝った作りになってます。
一見の価値ありと思います。

「シンマン」のメイキングで禍特対のメンバー役の方々が口を揃えて
「ノーストレスだった」「(禍特対の皆が)ずっと昔からの仲間の様に思えた」と仰られてて,
その理由のひとつが役者にスマホやカメラを持たせて「役者目線」で撮影させる事によって,
スタッフと出演者が協力して映画制作してる一体感を醸成した事と,
もうひとつは樋口監督と役者さんが常に膝を突き合わせて
撮影意図・演技方針の連絡を密にして,意識合わせしていた事が挙げられると思います。

過日庵野監督の「シン・仮面ライダー」のドキュメントを観たのですが,
役者が先ずしなければならないのが「庵野さんの心を読んで意図を見抜く事」って
初手からエスパー魔美以外には無理ゲーで主演の池松さんが
「撮影現場の雰囲気は悪かった」とスバっと仰られてて「意思の疎通」の大切さを痛感しました。

「シンマン」の特典に「VFXメイキング」があってシンマンのモーションキャプチャーのモデルが
庵野さん御自身か初代マンのスーツアクターを務められた古谷敏さんで,
庵野さんの「こうやるんだよ」って演技指導が理解出来るのは庵野さん御本人だけで,
庵野さんがシンマンの演技で全幅の信頼を置けるのが古谷さんだけという事実に,
人との信頼を確立出来る樋口監督と,それがどうしても出来ない庵野さんとの作家性の違いを見た思いがします。

「シンマン」は樋口監督のコミュニケーション能力と「人を信じられる」って性格が傑作を生んだと思います。
とは言え「誰も信じられない」庵野さんが生んだ「シン・仮面ライダー」は
「誰も信じられない」僕の様な孤独の魂に寄り添っていて,僕には「シンマン」と「シンカメ」の優劣は到底付け難いのです。

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