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ジョージ・A・ロメロ監督の映画「アミューズメント・パーク」レビュー「教会が敬遠した「不快な映画」。」

「白い部屋」の中に姿形は同じだが,
一方は溌溂として他方は傷付き弱った
老人(リンカーン・マーゼル)がふたり。
傷付いた老人は「「外の世界」には何も無い,行くのは止めろ」と制止するが,
溌溂とした老人は「自分で体験した事しか信じない」と言って聞かず,
ドアを開けて外の世界…遊園地(アミューズメント・パーク)へと向かう。
これから,ありとあらゆる辛酸を舐めるとも知らず…。
何だか…「ヤコペッティの大残酷」の結末を思わせる不穏な開幕…。

本作は1973年にルーテル教会から
地域社会の教育を目的として制作を依頼され,
予算3万7千ドルで3日で作った
"何て事ない(=nothing)"内容だとロメロ監督は語ったそうだが,
教会側の言う「地域社会の教育」とは高齢者への理解を深め,
彼らを支援する制度を設立させる運動の一環として,
地域のホールや教会で本作を上映する事であったが,
完成したフィルムを観て,教会側は仰天した。
老人・有色人種・身障者が遊園地で若者や健常者から蔑ろにされ,
老人が泣き喚く過激な内容だったからだ。
フィルムの性質上,その都度金を取って一般公開するものでも無く,
長らくお蔵入りとなった。
21世紀に入りロメロ監督の死後(2017年),
ロメロ夫人スザンヌ・ロメロは
地域社会を支援する財団(ジョージ・A・ロメロ財団)を設立し,
財団の最初のプロジェクトとして,
ルーテル教会が本作を必要とするとも思えなかったので,
(財団保有のフィルムは痛みが酷かったので
教会に複製が無いか問い合わせた所無かったそうだ。)
本作を4K修復し,劇場公開する事となったそうだ。

実際に映画を観ると,4K修復しても
フィルムの色褪せや細かな傷は隠し切れていない。
画質は余り良くないのだ。
だが人を突き放す様な朴訥とした語り口,
粗編集と言っても過言ではない荒々しい編集(音楽なんかブツ切れである。),
後に「ゾンビ」にも使用される,
その辺のライブラリで無料で拾って来た音楽が使用され,
一部のメロディラインが
後に「ザ・クレイジーズ」に使用されるものと酷似しているのを知ると,
やっぱりね,嬉しくなっちゃうのよ。

作品を一口で言えばロメロ版「世にも奇妙な物語」で,
タモリの役割に後に映画「マーティン 呪われた吸血少年」で
主人公マーティンに対して,
彼を吸血鬼と蔑み,非常に厳しい態度をとる
クーダ役を演じる事となるリンカーン・マーゼルを据え,
プロローグとエピローグで尤もらしい語りを披露し
本編でも虐待される老人役を演じてる。
リンカーン・マーゼルの解説によると
出演者は皆ボランティアで老人問題を考える本作の趣旨を理解し,
楽しんで演じてくれたと言う。

僕は最初本作を老人虐待を批判する映画と思って観始めたが,
作中カメラが老人,有色人種,車椅子に乗った身障者,低所得層を
舐める様に映し,
遊園地のアトラクションに低所得層を乗せない描写がある。
老人が若者や健常者に邪険にされるのを
対岸の火事と思ってたら,とんでもない。
人間に序列を付ける社会全体を批判し,
老人を嘲笑う者も,いずれは社会的弱者に分類される日が来て,
その日になって自分が嘲笑われても
誰も助けてくれないと指摘する弾劾状だった。

尺の長さは約53分だが,話は簡単に飲み込めるような軽さではなく,
終始苦虫を嚙み潰した様な表情をしていたと告白する。
ロメロ夫人が語る様に「不快な映画」なのだ。

特典は日米の予告編とスザンヌ・ロメロのコメント動画。
コメント動画は本レビューを執筆する上で,大いに参考となった。

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