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フランク・ヘネンロッター監督の映画「バスケットケース」レビュー「似てない双子」。

母親の命と引き換えに生まれたシャム双生児に激昂した父親は
双生児に名前を付ける事を拒絶する。
叔母は「ふたつの新しい命」に
兄をベリアル,弟をドゥエインを名付けてふたりを慈しんで育てる。
ふたりが12歳になったとき,
叔母の不在を狙った父親は3人の外科医を呼んで,
ふたりの分離手術を強行し,人間の形をしていない兄ベリアルの方を
燃えないゴミとして捨てるのだった。
だがふたりは心が通じ合っており,兄ベリアルからの心の呼びかけに応じた
弟ドゥエインは兄をゴミ箱から救出し,
斯かる外科手術を強行させた父親を回転ノコギリで両断する。

「命をふたつに裂かれる痛み」をオマエにも味あわせてやる。

帰宅した叔母は全てを察し,
これまで同様ふたりを慈しみを込めて育てるのだった。

そんな叔母が他界し,今や18歳となったふたりはNYに向かい,
斯かる外科手術を強行した3人の外科医を探し,
然るべき報いを与える為に行動を開始する。

兄ドゥエインはひとりでは満足に動けないので
普段はバスケットケースの中に入っている。

標的の外科医が
「バスケットケースの中に何が入ってるの?」
と尋ねたときが彼等の寿命が尽きるときなのだ。

ベリアルとドゥエイン,チックルとチーコの如く
「似てない双子」の大活躍が今,始まるのであった…。

ふたりの復讐劇とドゥエインの恋愛模様が並行して描かれ,
心が通じ合ったふたりが同じ女を愛し始め,
運命に導かれる様なオチへと繋がって行く。

兄ベリアルは弟ドゥエイン無しでは生きられない体だが,
弟ドゥエインも兄ベリアルの指示なしには生きられず,
例え外科手術でふたつの体になったとしても心はひとつのままで,
兄ベリアルが見た夢の中では
兄ベリアルの姿が全裸の弟ドゥエインの姿として描写され,
全裸のままドゥエインの彼女のもとに向かうベリアルの心象風景は
生まれたままの姿の愛し合う男女が睦み合う姿なのだが,
それは現実ではなく「ゾッとする様な現実」を目撃した
ドゥエインが錯乱し生まれて初めて兄弟喧嘩を始める場面は,
このふたりは…この「似てない双子」は互いに依存し合っていて
ひとりでは生きられない身の上なのだと思い知らされるのだ。

本作のフランク・ヘネンロッター監督は
「シャム双生児の人権」
をマジメに論じる社会派ではなく,
寧ろ躍起になって
「オレの作った映画はそんな御大層なモンじゃない」
と否定しにかかる風だが
本作のブルーレイ化の作業の際,フィルムの質感に拘り,
「ビスタ・サイズでは全然ダメ」
「フィルムと同じスタンダードサイズでなくちゃ」
と熱く語る姿に「御大層」である事を嫌いながら
「拘り」を十二分に感じさせるのである。

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