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宮崎駿監督のアニメ「未来少年コナン」レビュー「『ひとでなし』の最期斯くあるべし」

先般レビューを書かせていただいた
高畑勲監督の「母をたずねて三千里」に関して…
「ウチの父も大スキで」
「VHSビデオに全話録画した内容を」
「幼少時に観せられました」
とのコメントをSNSで頂戴しまして…
1.僕がコメントされた方の父君と同年代である。
2.僕の妹の子供達に「未来少年コナン」のビデオを
半強制的に観せた黒歴史が甦る。

等々…ボディーブローの連打を受けまして…

3.父も「未来少年コナン」がスキで…
先般NHKで再放送された録画データを全話所持してます!

ってフィニッシュブローを浴びて窓から吹っ飛んだ次第。

ホントにね…子供を自分色に染めようとする
大人に僕がなっていたと言う次第です。

あとね。
「心は少年」なんて寝言であって鏡を見りゃあ
無精髭のむさ苦しいオッサンが映ってるってのが真実。

とは言え…この「真実」を受け止めるのに少々時間がかかってな…
1日寝っ転がってたってワケ。

で…コレからどんなレビューを書きましょうか…?
と思案する迄もなく…宮崎駿監督の「未来少年コナン」と…
白土三平原作の「忍風カムイ外伝」のレビューを書くに決まってるだろ!

こんな…稀有な…僕に真実を知らしめる体験…
是が非でもレビューに生かすしかないじゃん!

僕は「未来少年コナン」で一番スキなキャラは
レプカ(家弓家正さん)ですね。

何故ならレプカは「ひとでなし」だからです。
レプカは第5話「インダストリア」で
初登場するなりラナにこうまくし立てるのです。

「いいか…オマエ(ラナ)の祖父(ラオ博士)は!」
「人類の宝(太陽エネルギー)を独り占めにしようとしている…」
「人非人(にんぴにん)だ!人でなしだッ!」

いやあ…もうね…。
レプカが「どういう人間」なのかを自分で解説してくれる
実に実に実に素晴らしい発言のオンパレードで…
一瞬で彼に魂鷲掴みですよ…こんなの…。

人非人と言うのは人に非ざる(あらざる)人と言う意味ですが…。
「非人(ひにん)」は…こう呼ばれ差別されて来た人々の呼称であり…
白土三平先生の「カムイ伝」の主人公カムイは非人の子として生まれ…
謂れの無い差別に耐えられなくなって忍者となりましたが…
忍者の世界にも彼が求めた「自由に生存する権利」など何処にもなく…
抜け忍となるのですが…
忍者が忍者を辞めていいのは「死んだとき」だけで…
「オマエが忍者を辞めると言うのなら…オマエは死なねばならない…」
という非情の掟ゆえに…彼は追手の忍者と戦うこととなるのです。

「非人」という言葉は僕が小学生の頃の社会科の教科書には載ってましたが…アニメ「忍風カムイ外伝」では…その言葉を使うことが出来ず…
「オレは…人から蔑まれる身分に生まれ…」
「それが嫌になって忍(しのび)となった…」
という表現となってます。
白土三平先生の「忍風カムイ外伝」の原作漫画では
「おいらは非人ゆえに忍びとなった…」
と明記されてるのにね。

つまり…アニメ「忍風カムイ外伝」では使われなかった
「非人」を…宮崎駿監督は「人非人」という言葉を使うコトによって…
レプカこそが「ひとでなし」であると描いてるんです。

「未来少年コナン」のブルーレイのセリフは…
消音処理もされず…字幕として証拠も残るので…
作品の影響力ってとても重要だと思います。
レプカの「人非人」発言を
「無かったこと」に出来なくなる程
作品の影響力が強まって本当に良かった…。

「非人」という言葉を「無かったことにする」って考えは
「差別」なんて最初からなかったって考えに直結し…
「差別」は「あった」
「あった」コトを「なかった」コトにするのは到底受け入れられません。

レプカは…最初から最後まで「ひとでなし」のままで
最後まで一切改心しません。
途中で改心したモンスリーをDISる気は毛頭ありませんが…
最後まで「ひとでなし」を貫いて退場したレプカは…
「蜘蛛の糸」による救済も拒絶して退場したレプカは…
家弓家正さんの鬼気迫る演技と相まって
一生心に突き刺さって忘れられない人物となったと言いたいんです。

モンスリーの内面が全26話中の第19話になって初めて開示され…
彼女は感情移入の対象となりましたが…
レプカの内面は最後まで開示されませんでした。
彼は視聴者の感情移入を拒絶して退場したんです。

レプカはラオ博士を拷問の末,
廃人に追い込んだ事を一切釈明しません。
死ぬ間際にいい奴にもなりません。
彼は「悪党」の手本であり…
「同情の余地」などどいう言い訳を一切しなかった。

「忍風カムイ外伝」の不動という追手の声の出演は
家弓家正さんが演じられてます。
不動は女抜け忍のスガルが家庭を持っていることを知るや
食事に毒を仕込んで一家全員皆殺しにします。
スガルの生き様に共感を覚えていたカムイは不動の所業に激昂し…。
不動の両腕を切断し…荒縄で縛って船で沖まで連れて行き…
鮫に生きながら食わせるのです…。
「(ひと思いに)殺してくれェェェ」
との不動の絶叫が絶品でね…
実に実に実に…い~い悲鳴だなァ…
家弓さんは「悪党」の…
「『ひとでなし』の最期斯くあるべし」
という手本を示して下さいました。

「未来少年コナン」に於いてもまた家弓さんは…
「蜘蛛の糸」による救済を拒み…
「『ひとでなし』の最期斯くあるべし」
との手本を示して下さったのです…。

「モンスリーのこと」も少し話しましょうか…。
最初モンスリーは「ひとでなし」のレプカの
一の子分として登場する
冷酷な人物に思えましたが…
第19話で…彼女を「冷酷にした」事情が語られ…
彼女が憎めなくなりました…。

彼女が憎めなくなってみると…
彼女は常に沈着冷静でありながら…
「心」が死なずに生きていて…
レプカに初めて反抗し…
「血の通った人間」として描かれ始めました。
およそ地球に現存する乗り物で彼女に操縦出来ない物は無く…
ダイスに次いで船舶の航海地図が頭の中に入っている…
スペックがウルトラ高く…
武器の扱い・素手の格闘に優れ…
戦闘機操縦時には「木の葉落とし」まで使える…。
死ぬほど度胸が据わっていて…
ラナに次ぐ「気丈」でありながら「可愛げ」まである…
「敵」だとしたらこれ程手強い相手はいないが…
「味方」に付いたらこれ程頼もしい人物はいない…。

モンスリーがそういう人物に「化ける」とは思いもしませんでした。

「ハイジ」のロッテンマイヤー女史も…
初見は「ハイジをいじめる意地悪なおばさん」でしたが…
あのヒトは…責任感の化身なんです…
クララお嬢様の話し相手に…
卓上のパンを引っ掴んで貪り喰う…礼儀知らずの山猿がやって来て…
女史はこの山猿に読み書きを教え…「人間」に教化しようとしたんです…。
なのに雇い主のゼーゼマン(クララの父)からは悪し様に罵られて…
ロッテンマイヤー女史は…火山大噴火して怒っていいと思います…。
まあ…彼女は自制心の化身でもあるので…
そうした下品な真似はしませんがね…。

宮崎駿さんの創作される「女性」は…
「意地悪」という設定がアニメになってるのではなく
意地悪に見えるのは何かしらの理由があり…
人から意地悪と思われる事を屁とも思ってないと分かると言う…
「一個の人格」として描かれていて僕はスキです。
「人格」は…「初見の印象」では絶対に分かりません。
そのヒトと深く付き合って…こっちが相手を信用し
相手がこっちを信用しないと「実像」は未来永劫分からないのですよ…。

モンスリーとロッテンマイヤーは…
「初見の印象」は最悪ですが…
繰り返しとなりますが…
「人格」は「初見の印象=表層の印象」では絶対に分かりません…。
こっちが加齢して見方が成熟してくると
全く別の感慨を覚える
重層的なキャラクターデザインとなっているのです…。


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