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映画「テンタクルズ」ブルーレイレビュー「復讐者対復讐者」。

米国カリフォルニアの海岸付近でふたつの失踪事件が起こる。
乳母車に乗った赤ん坊が,片足が義足の船乗りが,
忽然として姿を消し
やがて軟骨と骨髄液を吸い取られて変わり果てた姿となって帰ってくる。
新聞記者のターナー(ジョン・ヒューストン)は,
乳母車の近くでタクシーの運転手が無線を使い,
船乗り所有の船に無線機が搭載されていたことから
無線電波が何らかの関与をしているのではないかと当たりをつけ
凶行が行われていた現場の近傍で
海底トンネルの工事が行われていることを突き止める。
ターナーの意図は明白で工事を行っているトロージャン株式会社と
今回の事件との何らかの「接点」を模索し
巨悪を暴く一大スクープを「もの」にしようと目論んでいるのだ。
ターナーの記事を読んだトロージャン社社長の
ホワイトヘッド(ヘンリー・フォンダ)は激昂し,副社長を呼びつけ,
今回の事件と海底トンネル工事との関連を徹底的に調査するよう厳命する。
副社長は海洋生物研究の若き権威であるウィル(ボー・ポプキンス)に
調査を依頼し彼はふたりの助手を現地に差し向け調査を開始する。
だがふたりの助手もまた海中で非業の死を遂げ
容易ならざる事態に
ウィル自身が助手1名と共に現地に向かうのであった…。

本作品が「ジョーズ」が存在しなければ誕生することは無かったことに
何ら異論は差し挟まないが本作品を「ジョーズ」の亜流と
単純に切って捨てるには何か…重大な「何か」を見落としているように
僕には思えるのだ。
これからその「何か」を模索したいと思う。
本作品では数多くの犠牲者が出るがたった1滴の血も流れない。
「ジョーズ」でサメに生きながら喰われるクイント(ロバート・ショー)の
壮絶な最期を目の当たりにしている僕としては,ゴア描写大好きの
イタリアにあって「テンタクルズ」が如何に異端で如何に上品かが
分かろうというものだ。
またハリウッド映画にありがちな派手な爆発シーンもなく
むしろ淡々と映画が進行している点も特筆すべきであろう。

本作品には「シナリオ」と呼ぶべきものが見当たらないという指摘は
僕としては受け入れ難い。
人間が企業の利潤のみを追求した結果,多くの海洋生物が犠牲となり
「生き残り組」の中から突然変異的に「海中の異形」が誕生し,
人間に対して復讐を開始するという
因果応報を尊ぶ話の「流れ」は実にしっかりとしたものである。
故に「海中の異形」を倒すのは人間の義務であり
同時に愛するものが「海中の異形」の犠牲となった海洋生物学者が
復讐を誓うという「復讐者」対「復讐者」の物語なのだ。
どちらが勝利したとしても「もう元には決して戻れない」という
殺伐とした「しこり」が残ることに何ら変わりはない。

と考えてみると,本作品が本邦の「怪獣映画」と相通じる部分が多く
本作品を初めて視聴したときの「懐かしさ」「既視感」といった感情が
実に腑に落ちるのである。
本邦では江戸時代の昔から
触手(テンタクルズ)と人間の女との絡みを見慣れてきている。
「触手もの」という分野すら発生し,現在に至っているのである。
故に本作品は本邦においてこそ
最大の寵愛を受ける可能性を秘めているのである。

海洋生物学者がずっと飼育してきて海に帰した2頭のシャチが
ここで加勢しなくて何時加勢するのかという
絶妙な局面で再登場する件(くだり)は涙なくしては視聴できない。
本作品の邦題を「テンタクルズ」改め
「シャチの恩返し」としたい位である。
これほど見どころ満載な映画はそうはないよ?
斯様に日本人の琴線に触れまくりの本作品を
安易に切って捨てるのは最大の愚行であると断言する。

本ブルーレイはAmazonでも購入出来るが,
スティングレイ公式サイトで購入すれば
特製ポストカード3枚組が付属する。
値段が同じなら非売品の付録が付いた方が得だと僕は思う。

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