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映画「地獄のヒーロー2」ブルーレイレビュー

1981年に大統領に就任したロナルド・レーガンは 米国のサイゴン撤退(1973年)から10年近く経過した アーリントン墓地の戦没者追悼記念日にベトナム政府によるジュネーブ条約(戦時国際法)に違反する捕虜への肉体的・精神的拷問の噂に関して米国民に広がる不安に応えて次の様に演説した。

「私達は最後の章は書きません」
「本も閉じません」
「最後の思い出も捨てません」
「アメリカのベトナム介入は終わりません」
「最後の不明兵(MISSING IN ACTION)の生死が確認されるまで」

左翼が憤死しそうな大統領のこの演説に乗っかってベトナムに強力な傭兵を送り込んでベトナム人によって肉体的・精神的拷問を受けている(筈の)不明兵(MIA)を救出し 悪逆非道なベトナム人を懲らしめる「MIAもの」というジャンルが誕生したのである。 「ランボー」(1982年)のテッド・コッチェフによる「地獄の7人」(1983年),「ランボー 怒りの脱出」(1985年),そしてランス・フール監督による「地獄のヒーロー」(1984年), 「地獄のヒーロー」の前日譚を描いた本作…「地獄のヒーロー2」(1985年)である。 「地獄のヒーロー」の原題はそのままズバリ"MISSING IN ACTION(不明兵)"である。

御丁寧な事に本作の冒頭に件(くだん)のレーガン大統領の演説が収録されている。ランス・フール的には「この印籠が目に入らぬかッ!」って権力を笠に着てさぞ気持ち良かったに違いない。全く…心根の卑しい映画である。

時流に乗っかることは映画のヒットにとって大変重要で「地獄のヒーロー」と「同2」は同時期に製作され, 本来は時系列通り「地獄のヒーロー2」「同1」の順に公開する予定だったのだが 「ランボー 怒りの脱出」の製作を知るや内容が被ると言うのなら先に公開した方が「勝ち」と言わんばかりに「地獄のヒーロー(1)」の方を先に公開し読みがズバリ的中し大ヒットしたのである。

先に述べた通り本作…「地獄のヒーロー2」(MISSING IN ACTION2 THE BIGINNING)は時系列的に「1」の前日譚で 1972年にベトナムで作戦行動中だったブラドック大佐(チャック・ノリス)が部下4名と共に空手の達人イン大佐(スーン・テック・オー)が支配する捕虜収容所で家畜以下の扱いを受けて怒りを爆発させ, 決死の脱出作戦を敢行しブラドックはインとカラテで一騎打ちするという…まあこの手の映画に粗筋など無用な次第である。
悪逆非道なベトナム人を懲らしめて正義の米国人捕虜が救出されりゃ単細胞な米国民は拍手喝采と言う訳だ。
吹替はブラドックは堀勝之祐,悪役のインはアニメ「忍風カムイ外伝」で非情な忍者の世界で情を捨てきれぬ忍者を大熱演した中田浩二と言う大船に乗ったかの様な鉄壁の布陣である。中田浩二の熱演の余り,インを憎み切れない程である。

特典のメイキングはアイキャッチが入っている事から 恐らくテレビの映画宣伝番組をそのまま引っ張ってきたのではないだろうか。 画質はアナログ放送のビデオ画質ながら撮影当時のフール監督,主演のノリス,特撮監督のリチャード・パーカー(チャールトン・ヘストンの「十戒」で海を割った人である!)の肉声が収録され 爆発シーンの収録風景などお宝映像が満載である。
特典にはその他に予告編とフォトギャラリーが収録されている。

ウルトラタカ派のレーガンに大急ぎで乗っかった「心根の卑しい儲け主義の映画」とは言え, 退屈な日曜の午後に何も考えずにビールでも飲みながら観るのに最適の映画と言える。

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