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不登校はひきこもりになる??〜データから見るひきこもりのきっかけと意外な傾向

「不登校で家にこもっていたら、そのままひきこもりになってしまう」
「子どもがこのままひきこもりになってしまわないか心配」

さて、今回はそんな
『不登校はひきこもりにつながる説』
を検証したいと思います。

不登校をすると、家で過ごす時間が増えるケースがほとんどです。
「疲れ果てていて、家で休憩が必要」という場合もあれば、単に学校という「毎日の出かけ先」がなくなったから家にいる、居心地がいいから家にいるという場合もあり、その実態は多様です。

さまざまな理由から昼夜逆転する子や、食事が不規則になる子、お風呂に入ることを避ける子も少なくなく(お風呂ってめんどくさいよね!!)、ドラマやニュースで見る「ひきこもり」の姿と重なる…と不安に感じる親御さんもいると思います。

私自身は「ひきこもりは悪いことじゃない」という価値観をもっていますが、ここではそれは置いといて、データを用いて『不登校はひきこもりにつながる説』が本当か否かを検証してみます。

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精神医療領域のひきこもり研究では、不登校を発端とするひきこもりは
「不登校遷延(せんえん)型ひきこもり」
と呼ばれたりしています。「不登校が長引いた結果としてのひきこもり」ということですね。

80,90年代はこの「不登校遷延型」がひきこもりの多数を占める!!と問題視されていました。が、2000年代からは「不登校遷延型」への問題提起は減少しつつあります。

なぜかというと、行政の調査データから「不登校遷延型ひきこもり」はそんなに多数派ではないっぽい、ということが明らかになったからです。
(っぽい、と書いたのは、ひきこもりの「実態」を調査で掴むことは非常にむずかしく、断言することはできないからです。)

その根拠となった、行政によるひきこもり調査を2つご紹介します。

まず、2010年実施の内閣府「ひきこもりに関する実態調査」です。
この調査では、15〜39歳の子ども・若者3,287人から回答を得ています。
調査の結果、

・ひきこもり群(59人※)のうち
 「不登校を経験した」は23.7%
・ひきこもりのきかっけが
 「不登校」は11.9%

という数値が出ました。また、

・ひきこもり群のうち、学校での体験トップは
 「我慢をすることが多かった」で55.9%
・ひきこもりのきっかけトップは
 「職場になじめなかった」
 「病気」でともに23.7%

でした。

報告書で臨床心理士の高塚雄介氏はこの結果について、「プライドの強さが、不登校になることを選ばせなかった」「必死になって登校をし続け卒業にこじつけたのではないだろうか」「学校では何とかやれても、社会に出てから立ちゆかなくなる、身動きが取れなくなる」と述べています。

また不登校を経験したひきこもり者については、「単に不登校の遷延化がひきこもりになるのではなく、もともと「ひきこもり心性」を有する者が不登校になり、やがてひきこもりに移行していくように思われる」と述べています。
(だいぶ端折っているので詳しくは「ひきこもり支援読本 第3章」へ!)

次に、東京都(2008)による調査結果をご紹介します。
調査結果では、

・ひきこもり群(32人※)のうち、
 「不登校を経験した」は34.4%
・ひきこもりのきっかけが
 「不登校」は18.8%

・ひきこもりのきっかけトップは
 「職場不適応」で28.1%
 続いて「病気」25.0%

という数値が出ました。
先ほどの内閣府調査より「不登校を経験した」「きっかけは不登校」の割合が1割ほど高くなっているものの、やはりきっかけのトップは「職場」、次いで「病気」でした。

報告書では臨床心理士の小林正幸氏が、勉強や先生との関係性などで「学校不適応経験」をしたひきこもり群が約7割いることに触れ、「学校不適応体験型ひきこもり」と捉えられると述べています。

これら2つ調査結果や、臨床医、支援実践者の体感から、

・「不登校→ひきこもり」というパターンは、一定数はたしかに存在するものの、それが主流、多数派というわけではない
・けれども、不登校とひきこもりは無関係とまでは言えない

という見解が、近年のひきこもり研究の主流です。

つまり、
『不登校はひきこもりにつながる説』
は、「100%間違っている!というわけではないけれど、そのケースはそこまで多くはない」という結論になります。

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家で過ごしている不登校の子どもたちは、1週間以上外に出ていなかったりと、はたから見れば「立派(?)なひきこもり」だし、子ども自身がネタで「ウチひきこもりやからw」と言うこともあります

が、実態としては「用事があれば別に外に出る」「用事がないから家にいるだけ」と言う子、「自分のことをひきこもりとは思ってない」と言う子が少なくないと感じます。
(もちろん私が接している子ども達、という偏りがありますが)

私自身も、1週間ぶりに外に出て「太陽がまぶしいゼ…!」なんて生活をしていた中学生でしたが、「こもりがち」と思っていただけで、「ひきこもり」というアイデンティティは持っていませんでした。

ここからは仮説&余談ですが、大人の「ひきこもり生活」子どもの「こもりがち生活」の心理や感覚には、どうも違いがありそうです。そこには<所属先の有無>が関係しているかもしれません。
子どもは、在籍学校・教育支援センター・習い事といった(書類上であっても)何らかの所属先があります。対して、大人は完全に所属先を失ってしまうことがありえます。マズローの所属欲求が関係しているかもしれない。このへん今後考えたいです。

さらに話は逸れますが、興味深いのは先ほどの内閣府の調査結果。
「ひきこもり親和群」(ひきこもる気持ちがわかったり、ひきこもりたいと思っている、ひきこもりではない人達)のほうが、「ひきこもり群」よりも

「生きるのが苦しい」「死んでしまいたい」
「人に会うのが怖い」「絶望的な気分になる」

と答えた割合が高かったという結果が出ています。

ひきこもれない状況、ひきこもりたいのを我慢する状況、無理をして社会生活を送る状況というのも、またしんどい、ということを示しているように思えます。

(※)ひきこもり群の定義
1)内閣府調査
ひきこもり群=狭義のひきこもり+準ひきこもり
「近所のコンビニなどには出かける」「家からは出ない」「自室からほとんど出ない」→狭義のひきこもり
「ふだんは家にいるが、自分の趣味に関する用事のときだけ外出する」→準ひきこもり
2)東京都調査
上記のひきこもり群と同

<参考>
内閣府子ども若者・子育て施策総合推進室『ひきこもり支援者読本』第3部http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/hikikomori/handbook/ua_mkj_pdf.html
東京都青少年・治安対策本部『ひきこもりに関する実態調査 実態調査からみるひきこもる若者のこころ』
http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/pdf/seisyounen/pdf/14_jyakunen/jittaihoukokusyo.pdf

使用用途::不登校関連書籍の購入、学会遠征費など