現代詩「雨とサイレンとボブ・ディラン」

職場近くのコンビニの駐車場で
早朝
もう二十分間も
車から降りもせず
店内で買い物もせず
車中にいて
エンジンをアイドリングしながら
暖を取っている

ちょっとした籠城
ちょっとした環境イズムへの抵抗

僕の靴底に穴が空いているから
今朝の雨は靴下に染みて
グズグズになった足先が
寒い
寒さが親指から全身を伝って
雨に濡れた肩口を冷やす

最近暫くやさぐれている僕は
とりあえずエコロジイに
悪態をついている
僕はちょっとした革命分子
地下活動中

「エコロジイは僕を温めない!」

カーステレオと
窓ガラスを穿つ雨音を
一欠片の映画音楽にして
僕は冬の日の
雨の日の朝に
寒さを凌ぐレジスタンス

「エコロジストは僕を温めない!」

そのとき不意に赤い回転灯が明滅して

サイレンを鳴らした消防車が
コンビニの駐車場に入って来て
サイレンを鳴らしたパトカーも
そこに加わって
消防士と警官とコンビニの店員が
駐車場に集まって
そこに野次馬も加わって

彼らは僕を捕まえに来たのだ
と思ったけど
全然関係なくて

全然関係ないまま
消防士も警官も店員もいなくなって
野次馬も
誰もいなくなって

気が付いたら
カーステレオから
ボブ・ディランが流れていて

僕は世界の片隅で

凍えた手足を擦っている

(現代詩「雨とサイレンとボブ・ディラン」村崎カイロ)

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