見出し画像

目次と解題【香水】眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー201909号

Noteユーザー様の新旧作品を一つのテーマで綴る私撰集「眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー」9月のテーマは「香水」です。
湿潤の肌から漂うフレグランス。高まる体熱と蠱惑の香り。誘う声は聖か邪か。仮りそめの殻を脱ぎ捨て空蝉の変化夢幻の残り香ぞする。
眠れぬ夜はあなたとともに。
当月も宜しくお願い致します。

眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー【香水Perfume】

https://note.mu/murasaki_kairo/m/ma540e78eadbd

目次
01 コラム「香水の選び方 基本まとめ(図解入れました!)」adams fragrance family
02 エッセイ「わたしと香水」平沢たゆ
03 イラスト「秋の夜長に黒いワンピース。」Aloe
04  小説「ココロにパフュームを」くにん
05 ラジオ「渋谷の昼下がり談話室 6
00:00|23:38」渋谷ラジオ「パーソナリティー 長谷川純子」
06 コラム「香りはエロス。香りはアート。香りは変態。」Seiko
07小説「姉というもの」ひろし
08 小説「ドリアン香水」アセアンそよかぜ
09 小説「外骨格人間とフレグランス」ディレクターズカット ムラサキ
10 ブログ「甘くて美味しいフレグランス!?」fragrance FORTINBRAS
11 小説「忘れちゃったよ。」ウネリテンパ
12 小説「香水と男」千本松由季 Official Blog
13 音楽 「ピアノオリジナル シンデレラ」水母@作曲垢
14 小説「紫色の鳥」クマキヒロシ
15 漫画「僕は、セーラー服を着た。」あめんぼファイバー
16 音楽「“Mercedes Benz”「ベンツが欲しい」大阪弁カバー」Mary Ann pianoplayer

解題
01 コラム「香水の選び方 基本まとめ(図解入れました!)」
adams fragrance family

さて。
当月もはじまりました。眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー、お題は香水でした。が、牛蒡人参の(朴念仁の)私は香水などには凡そご縁がありません。
先ずは香水のお勉強から。
とadams fragrance familyさんの香水講座の紹介です。
これがとても分かりやすい。
香水=匂いのする水、という雑駁に考えていた事がお恥ずかしい。香水の世界の奥深さを知る端緒となる事請け合いです。

02 エッセイ「わたしと香水」
平沢たゆ
平沢たゆさんです。同じ香水でも子どもの頃と今とでは感じ方が異なる、という話。
時間が経たなければ分からない事っていくらもありますね。
失くす価値観もあれば生まれる価値観もあります。
前出のadams fragranceさんの香水講座に「トップノート、ミドルノート、ラストノート」の変化が説明されておりましたが人間の感受性もまた生まれてから消えるまでゆっくりと変化していきます。そのような経年の変化って趣深いですね。
そして時間は人間を子どもから、母に変えます。この文章は20年掛けなければ書けない。そのように思わせる文章でした。
ちなみに平沢さんは小説アカウントとエッセイ系のアカウントを使い分けられております。小説系のアカウントで「オスカルな女たち」連載中です。

https://note.mu/guerlain_325/m/m2dbaa1b1f0dc


03 イラスト「秋の夜長に黒いワンピース。」
Aloe
イラストレーターのaloeさんです。
繊細なタッチの線画をデジタルで彩色しています。人物に融合して花等が配置される事が多いです。人物に溶け合う花は非現実ですが、目に見えないものが描かれた真実のようにも思えます。その真実の中にはやはり目に見えない香りも描かれている気がします。花の香です。
沢山の花の香。香水の世界ではフローラルブーケ、と呼ぶんですね。
如何でしょうか、皆様に花の香は届くでしょうか。
aloeさんはNoteを引退されて主の活動はインスタグラムに移られたとのこと。
今もまだaloeさんの花は元気に咲いている事でしょう。

04  小説「ココロにパフュームを」
くにん

くにんさんの小説。
キーワードは香水、都市、魔法と変身。
嗅覚に頼る動物はアイデンティティを匂いで見分ける、嗅ぎ分けるそうです。
人間の認識は視覚に頼ることが大きいですね。美男子、美女等の判別は視覚情報の判断に依ると思います。しかし無意識のうちに我々の動物的本能は体臭による個人識別も行っている。
香水、は自分の本来の体臭を上書きします。嗅覚上、違う人間になる事ができるのです。ファッション全般に言える事ですが、ここには我々の変身願望が隠れているように思われます。即ち魔法少女です。特撮ヒーローとも言えるかもしれません。
少女から女性に。
女性から野獣に。
野獣から女王に。
人は誰しも今の自分の殻を脱ぎ捨て、変身したいと願っているものです。

05 ラジオ「渋谷ラジオ 渋谷の昼下がり談話室/パーソナリティー 長谷川純子」
渋谷ラジオの放送音源です。
香水のハッシュタグに釣られて拝聴した所、大変下品で面白かったのでついアンソロジーに含めてしまいました。
どうやら男は臭いに無頓着な人間が多い。そして、それは女性にとって由々しき問題のようです。私も認識を改めねばなりません。
今回のアンソロジーは匂いに無頓着な作品とと敏感な作品に分かれました。そんなバラツキもお楽しみ下さい。

06 コラム「香りはエロス。香りはアート。香りは変態。」
Seiko
渋谷ラジオの変態繋がりで、お次はseikoさんの記事を。
香水について語られる記事は沢山ありましたが香水を語る主軸が変態、という文章は他にありません。
しかし、この変態を以て香水を語る事に説得力があります。いや寧ろ、香水は変態だったんじゃないかと錯覚を起こします。そうなんですよ、香水は変態なんです。(洗脳)
部屋の芳香剤と違って香水は体臭の追求ですからね。
本文は変態であるSEIKOさんが勧める変態的香水というまさに、変態香水の紹介文です。面白いですよ。
冒頭、adamsさんの香水基本講座で香水世界の奥深さについて認識しました。seikoさんの文章を読むと更に認識が深まります。ディープ過ぎておいそれと踏み込んではいけない領域に思います。
一般的な香水と変態的な香水があるようです。使う場所を間違えると大変です。TPOが大事。恐ろしいですね、香水を使いこなせる自信がありません。
まるで調香師をシャーマンとする呪術的な世界にも思われます。秘密組織に伝承される秘法のようです。
seikoさんの文章では「香水は変態」と語られながら「香水はアート」とも語られます。匂い文化の発信者として大変気骨ある言葉です。


07小説「姉というもの」
ひろし
更に変態繋がりで、ひろしさんの小説です。ひろしさんの小説は変態ですねえ。
そのひろしさんが満を持して発表した小説が本話です。
芥川賞作家の吉村萬壱氏が審査員長を務め、全国のアマチュア作家がこぞって参加した「阿波しらさぎ文学賞」本年は応募総数が460点を超えました。
ひろしさんの本作はその第一次選考通過作です。この公募はプロ作家まで参加していたそうですから、一次選考に残ると云うことはいつプロになってもおかしくない、技量をお持ちだと言うことです。
本アンソロジーはひろしさんの隠れた才能を看破し、度々作品をお借りして参りました。ひろしさんが文壇に認められた事は大変鼻が高いです。

この小説からはドギツイ香水と加齢臭、汗臭の香りがします。匂いがキツ過ぎて読みながら、鼻呼吸が止まります。大変臭い。
この嗅覚刺激、素晴らしい描写力です。
ちなみに姉の恋人が姉に付けた渾名が「コロン」とのこと。悪臭放つ世界観の中で不意に「コロン」という単語が登場してドキリと致します。


08 小説「ドリアン香水」
アセアンそよかぜ
「臭いといえば」
ドリアン。
一説によればワキガの臭いですか。そのドリアンで香水を作ってみれば、と言うのが本小説。奇想天外で愉快な発想です。
「臭い」の感覚は先天的な本能に根ざすものなのか、後天的学習なのか、それが問題です。ドリアン香水を皆が使えばドリアンの匂いは寧ろいい匂いとして受け入れられるのではないか、そうなれば愉快ですね。

ジャパニーズ・バッド・スメルである「くさや」。伊豆大島に旅行に行ったときに食べましたが臭かったですね。
洗っていない便所の臭いです。
島内のホテルに持ち込もうとしたらフロントで怒られました。ホテル内に持ち込んではいけないもののようです。

本話に登場するご夫婦ですが、実は連作になっています。
こちらも併せてご覧下さい。

組作「ペナン島を旅した夫婦」完成の経緯・顛末とnoteだからできた試み|アセアンそよかぜ @2018kumakuma|note(ノート)

アセアンさんはNote内の様々な企画に参加しておられます。さすがアクティブです。

09 小説「外骨格人間とフレグランス」ディレクターズカット
ムラサキ
私です。香水と云えばシャネル、という貧困の発想しかない私が香水について小説を書こうと致しましたが、全く寄りませんでした。
書けば書くほど香水とは程遠いものに。なんというかスミマセン。

10 ブログ「甘くて美味しいフレグランス!?」
fragrance FORTINBRAS

霧里さんの記事はチョコレートのグルマンノート。グルマンノートとは「美味しそうな香り」の事なのだそうです。チョコレートに調香した香りを付けるお話なんですね。
チョコレートには夢があります。香水の香りがするチョコレートにはもっと夢があります。とても楽しい記事ですね。
記事内に「リリット」さんというアルメニアのポップシンガーの動画が紹介されます。オリエンタルな音楽なのでイスラム圏なのかと思って心配していたら(肌の露出が多かったので)、アルメニアはキリスト教圏なんですね。
このPV、凄く良いですよ。オシャレです。
見る香水、と呼べるほどエキゾチックです。
チョコレートも美味しそうですし、お腹が空きました。

11 小説「忘れちゃったよ。」
ウネリテンパ
小説中に登場するブルームーンというワード。カクテルの名前でもあり、ジャズナンバーにもなっています。
この曲が作られたのは大恐慌時代のアメリカ。失業者たちが街に溢れた頃でした。
希望の見えない苦しい時代、人々は夜空の月に癒やされていたのでしょう。青は哀しみの色。しかし青い光を帯びた白銀の月は、疲弊した人々を優しく照らします。

ジョン・ランディス監督の「狼男アメリカン」には三つのバージョンの「ブルームーン」が流れた、と。ネットに書いてありました(←観たのが昔なので覚えてません汗)

明るく唄えば明るい曲に。哀しく唄えば哀しい曲に。様々な表情を持つこの曲は当に月の仮相です。

ポップスナンバーとしての「ブルームーン」はこちらのページ(外部ページ)の解説が面白かったのでリンクを貼ります。


ウネリさんの小説もこのページに貼られたような三つのブルームーンがよく似合います。時に明るく、時に懐古的。或いは浪漫。

良い小説からは音楽が聴こえてきますね。


12 小説「香水と男」
千本松由季 Official Blog

千本松さんの小説。
香水の使い方が上手です。
今回のアンソロジーの中で最も香水が生きている小説に思います。
モデルを生業とする女性が主人公です。一見してドライ。生に、或いは性に涸渇しております。
生き様に煩悶とさせられます。
彼女にとってベッド・インの男は香りの器でしかありません。香水と寝るのであって、器は誰でも良い。と彼女は考えます。
しかしそれは彼女の本心でしょうか。

香水には変身願望が顕れると前述しました。
我々は誰しも変身する事を夢見ています。子供のように純真に。いつの間にか大人になっても尚、心の中には子供の頃の自分がいて、変身しようと足掻いております。
大人になるという事は、そうした純真さ(言い換えれば夢や希望)を閉ざすという事でもあります。いつまでも魔法少女ではいられません。熱は冷めていきます。
しかし内なる「願い」は消せません。
涸渇した少女たちに香水を。
魔法を。
夢を。
安らぎを。
小さな願いが神様に聞き届けられますように。


13 音楽 「ピアノオリジナル シンデレラ」
水母@作曲垢
水母さんのピアノです。エリック・サティのような美しさ。何処か懐かしくもあるこの感覚は郷愁です。
曲名は「シンデレラ」
シンデレラもまた人々の夢であります。魔法によって作られたエレガント。
魔法のドレス。そのドレスにはきっと素晴らしい香水が使われたに違いありません。
水母さんのピアノもまた香水が仄かに香ってくるようですね。


14 小説「紫色の鳥」
クマキヒロシ
殺伐としたディストピアに愛を。
クマキさんの小説です。
舞台は近未来の香港。広大な埋立地が開発途中で放棄されスラムと化しています。そして近接する大都会。
カラスと呼ばれる少女はこの狭間に暮らしています。少女の仕事は「炎上」。文字を操る事ができる異能によって、託された依頼(ソーシャルメディアの文字情報を操作して、ターゲットの社会的信用を失墜させること)をこなしています。
ここまでの解題を通じて云えば、この少女もまた魔法少女です。彼女は香水というマジックアイテムで変身します。大人、つまり冷酷な仕事人へと。
この変身は夢や希望に基づくものではありません。逆です。夢や希望を押し殺すための変身です。
本当は夢や希望を叶えるための香水を用いたいのでしょう。しかし、都市の底辺を彷徨う彼女にその方法は分かりません。

15 漫画「僕は、セーラー服を着た。」
あめんぼファイバー
あめんぼファイバーさんの漫画です。タッチが繊細です。綺麗な絵です。

趣味でセーラー服を着る男性はさぞや多い事と思います。セーラー服は「女学生」という生物の外骨格です。つまりセーラー服を着る事が許されるのは女学生だけです。
しかし、ああ何たること。この倒錯。男性がセーラー服を着た時に、それは何という生物になるのでしょう。例えるなら蝶々の翅を着けたカブトムシ。ギリシャ神話に登場する異形の怪物キマイラですね。
セーラー服を身に纏う少年は少年に非ず。女学生に非ず。所属を失ったデラシネです。その当て所ない浮遊が哀しいですね。

もし女学生の香りがする香水があれば、彼は本物の女学生になれるかもしれません。魔法の香水があれば彼が本当になりたかったものになれたかもしれません。


16 音楽「“Mercedes Benz”「ベンツが欲しい」大阪弁カバー」
Mary Ann pianoplayer

最後に。
メリー・アンさんです。
香水を巡るキーワード。「都市」「変身」「願い」を総括する意味で、本作品をお借りして参りました。
ジャニス・ジョプリンの「Benz」を大阪弁でカバー(!)。愉快な試みです。
曲調も楽しいですね。
「ベンツを買って」と神様にお願いしております。「カラーテレビを買って」とも。
これを裏返せばベンツやカラーテレビを買う事など夢のまた夢、そんな女性がそれら高級品を買える程の成功を願っているという事です。
千本松さんの小説に出てきた女性のように。或いはくにんさんの小説に出てきた少女。また或いはクマキさんの小説中のカラス。
女性たちは香水の小瓶の中に切実で小さな願いを抱えています。

或いは我々が暮らすこのリアルでも。
蝋燭の灯火の如き小さな願いは、世間の中の其処此処に揺らいでいる事でしょう。
純真に美しく煌きながら。

エレガントになるための香水は。
コケティッシュになるための香水は。
時にセクシー、時にグレース。
それでは願いを叶えるための香水は?
シングルフローラル、フローラルブーケ、アルデハイド?

どうか香水の小瓶に揺らぐ小さな願い達が報われますように。
香水が我らに幸福をもたらしますように。

今宵も彷徨う我々を青い月が見守っております。

後記。
眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー【香水】。途中から解題が魔法少女になっていた気も致しますが、一先ず終幕でございます。
今回のアンソロジーは私の全く知らない世界だったのでとても勉強になりました。
それとともに香水についてここ迄掘り下げる事のできるNoteの集合知には改めて驚かされます。
知らない事も知らない人も知らない世界も沢山あります。探求は止みません。

この度も沢山の方にご協力頂きました。ご参加して下さった千本松さん、たゆさん、くにんさん、ウネリさん、クマキさん、アセアンそよ風さん。有難う御座いました。
また度重なる作品貸し出しのお願いに快く応じて下さったメリー・アンさん有難う御座いました。
ひろしさん、阿波しらさぎ大賞の一次選考通過改めておめでとうございます。
adamsさん、seikoさん、霧里さん、水母さん、あめんぼファイバーさん、aloeさん、この度は有難う御座いました。今後とも宜しくお付き合い下さい。
いつも拙文を読んで下さる皆様、重ねて御礼申し上げます。

皆様のお陰で本企画は成り立っております。
是非これからもご愛顧下さい。

アンソロジーはこちらから!

【香水Perfume】眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー|murasaki_kairo|note(ノート)

https://note.mu/murasaki_kairo/m/ma540e78eadbd

#小説 #眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー
#ネムキリスペクト #香水