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私花集【渦(spiral)】眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー201812

■ごあいさつ
早いもので12月です。忙しくて目が回っております。毎月零細に企画しております眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー、当月も整いました。12月号のテーマは渦。noteユーザー様の新旧の良作を掻き集めて参りました。(掲載したくてもできなかった良作が沢山ありました。掲載できずにすみません。あと本アンソロジーにご興味ある方、是非作品をご提供下さい。卑小な私めにお力添えを下さい。)

眠れぬ夜にはそっと小さな溜息を。
あなたの溜息が巻き起こすnote辺境の大嵐。蝶の羽ばたきが半球の裏側で嵐を起こすように、あなたの溜息もまた。
眠れぬ夜に蓋が開く奇妙なアンソロジー第7弾。

当月も自信を持ってお送りする珠玉の渦、18編です。

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【渦(spiral)】眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー201812

■目次
01 小説「愚者の楽園:心当たりが在りすぎる。」ウネリテンパ
02 創作漫画「ピカビアの夜 2006年」新宅和音
03 音楽「朝が来たよ、モアズビー」ヤチダモの幹(わたむし)
04 海洋生物曼荼羅「製作途中の作品」木村 紗
05 小説「CALLING」かねきょ
06 イラスト「朝顔力」ウィーン
07 小説「浮気なぼくら/過激な淑女」ウネリテンパ
08 アートワーク「ノゲノゲノム」間戸ゆき
09 小説「うずまく」クマキヒロシ
10 アート「読書」seila
11 小説「渦について/ABESADA1947」小拙
12 音楽「孤独な旅人」ノート
13 日記小説「彼女のクトゥルフⅢ そして伝説へ…」民話ブログ
14 漫画「【錦とあんず】第1話」midorimaru
15 造形「流木土偶(2017)」康
16 ロック「からくり星急行の悲劇(full-sample)」はりおん
17 掌編小説「渦」くにん
18 GIF「"HOLE” for beginners / 初心者コース」y.

■作品解説

01 小説「愚者の楽園:心当たりが在りすぎる。」ウネリテンパ
アンソロジー冒頭を飾るのはウネリテンパさんの小説です。
作品の下敷きになったのはダンテの「神曲」。この作品はキリスト教世界観の「地獄」の観念を明らかにした歴史的名著として知られます。ダンテはこの原題を「コメディア(喜劇)」と名付けたそうです。イタリアの古典文学では「ハッピーエンド」をコメディアと呼ぶそうで、日本的喜劇とは異なるようですが、それにしてもウネリ版「神曲」の楽しいこと!
主人公である「僕」はウネリ氏の小説ではお馴染みの登場人物「ハギワラ」です。そして彼を地獄めぐりに引率するウェルギリウスの役は、ハギワラと対を成す登場人物の「ミズタニ」です。
お気楽な二人が弥次喜多珍道中の如く痛快な地獄めぐりを致します。
そして本作は当企画(眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー)へのパスティーシュ(パロディ)でもあります。今までのアンソロジーのテーマ「ダンス」「花火」「クラゲ」などがフラッシュバックします。更に当月のテーマ「渦」が決定する直前の混沌(渦の他に旅行、紅茶、メルヘン、丼、クリスマスなどのテーマの候補があり、いつまでも決定しなかった)迄もが盛り込まれた「眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー(ネムキ)」の祭典となりました。
今回のアンソロジー、まずはウネリテンパ氏の嵐のような「喜劇」からお楽しみください。

02 創作漫画「ピカビアの夜 2006年」新宅和音
新宅さんは別府の画家・・・とプロフィールに書いてあります。素人目に見て筆力が只者ではありません。noteでは現在、三作品が公開されております。いずれも漫画です。濃いですね。公式ホームページには新宅さんの描かれた絵画が公開されております。
少女をモチーフにした異世界ゴーギャン的な・・・いや浅薄な知識で素人考えを語るのは止めておきましょう。
新宅さんを調べていくと
http://bepple-beppu.com/post-2916
な記事が見つかりました。いや、凄い、この人。こんな人が同時代にいるとは嬉しくなりますね。また上記ページにある古書店(書肆ゲンシシャ)もかなりの濃さです。
マガジンに登録させて戴いた作品は「ピカビアの夜」。ピカビアは20世紀にニューヨークで活躍したっぽい抽象画家っぽい人です。
夜の海で行われる神秘的な儀式。そして海から迫りくる何か。きっと大きな渦が巻き起こるに違いありません。

03 音楽「朝が来たよ、モアズビー」ヤチダモの幹(わたむし)
現在、北米に在住するわたむしさんです。音楽、小説、詩、イラストなど非凡な才能を次々発揮するマルチプレイヤーです。
この曲もわたむしさんの魅力が発揮された一曲です。
今回の曲はわたむしさんが日本にいた頃に、フェリーから見た朝の光景を曲に起こしたもの。
「解釈は自由に」と了解を得ましたので、手前勝手に解説致します。
海上で迎える朝日によって全てのものが神秘的に、また明晰に光り輝きます。あらゆるものが命を持って燦々と輝いています。あらゆるものが意味を持っており、あらゆるものが繋がっております。その大自然に大いなる秘密が無い筈がありません。きっと朝日の中に秘密の一端を垣間見せてくれることでしょう。ほら波間に大海獣モアズビーの影が見えますよ!
モアズビーの正体は?クジラかも知れません、古代の巨大ザメかもしれません。若しくはアーケロン(ウミガメの祖先、でかい、名前の由来はギリシャ神話の冥界の河アケロン川から)かも。はたまた首長竜?巨大ウミヘビ?
正体は分かりません。でもモアズビーは偉大なのです。偉大な自然そのものです。
朝日のように爽快な大自然の讃歌です。

04 海洋生物曼荼羅「製作途中の作品」木村 紗
木村さんは生物と曼荼羅をモチーフにしたイラストを描かれています。大きなクジラの周りに曼荼羅が。なんとスピリチュアルでパワーフルな構図でしょうか。
木村さんのnoteにはこの絵が描き始められて、完成するまでが公開されています。
この制作途中であるこの記事にはクジラと一つの曼荼羅が。そして周囲には空白。この空白の遊びが面白いですよね。黒い空白が宇宙的です。「タブラ・ラサ」という言葉があります。「白紙」という意味です。この言葉はすべての可能性、という意味でもあります。黒い空白も同じです。宇宙的な未知の可能性に富んでいます。次には何がここに描かれるのだろう、と期待が膨らみます。

05 小説「CALLING」かねきょ
この零細企画に人気ユーザーのかねきょさんがご参加下さいました。ありがとうございます。かねきょさんは前回のアンソロジー「月」の中では「歌手」として歌声を披露しております。毎週恒例のラジオ、そしてイラスト、小説、そしてお弁当。才媛です。noteにいるクリエイター様には多才な方が沢山いて楽しいですね。
今回のかねきょさんの作品は小説です。
偶然見つけた歌声に「僕」は心を奪われます。この執心は運命としか良いようがありません。何の手がかりも無い中、何とかその歌声の主を見つけようとす僕に不思議と運が味方します。
最後まで展開が読めません。
本アンソロジーは朝日ソノラマ社の「眠れぬ夜の奇妙な話(ネムキ)」に敬意を表しています。本作はまさに「ネムキ」的ロマンに満ちていると言えましょう。

06 イラスト「朝顔力」ウィーン
ウィーンさんは老人と少年が哲学的問答をしながら散歩をする「sanpoくん」シリーズを長きに渡って続けております。大変面白い記事です。
今回収録の作品は「朝顔力」と題されます。朝顔の蔓は支柱に沿って左巻きに伸びながら上に向かいます。常に上に。これが朝顔の力ですね。ちなみに朝顔のつぼみは右巻きにとじています。この右巻きがやはり左回転することで開花します。
イラストでは小物が螺旋を描いて少女を少年の所に届けています。重力を凌駕するエネルギーが働く不思議な世界です。重力という不自由から脱却しようとする力動です。大友克洋のアキラを思い出します。
この力動は少女が少年に寄せる想いの強さなのでしょう。少年と少女、純粋であるが故に強い力です。

07 小説「浮気なぼくら/過激な淑女」ウネリテンパ
今回、ウネリテンパ氏の作品が二作品収録されています。ファンの方には溜まりません。ウネリ氏のファンって?
私のことですね。
ウネリ氏の小説に共通するのは「ズレ」であるかと思います。会話はお互いの割符が合致することで成立しますが、ウネリ氏作品は会話が少々ズレます。そのズレを修正しようとしてまた捻じれが生じます。一点から伸びる線は円を描こうとしますが、ズレがあるため始点に戻ることができません。円は閉じることがなく、捻じれの力によって螺旋を描き、そのベクトルは明後日に向かって飛んでいきます。この螺旋が奇想天外の物語を生み出すエネルギーとなっております。
今回、第二話目となる本作品はそのズレが特に大きな作品です。「ぼく」の会話は発した途端に行き場を無くしくるくると宙を舞います。
しかし、会話は途切れません。「彼女」がいつも重心にいるからです。「ぼく」の言葉は一端を彼女に結びつけた紐であり、彼女を中心に旋回しては戻りまた逆向きに旋回します。彼女はお釈迦様のようにぼくを手のひらで転がします。その物理学が実に小気味良い作品です。

08 アートワーク「ノゲノゲノム」間戸ゆき
間部ゆきさんです。「シュール」のハッシュタグでイラストを描かれています。イラストには一言ずつ言葉が添えられています。
本作には「good night creatures」と。
おやすみ、怪物たち。
怪物たちってなんでしょう?イラストに描かれるのは一人の男性です。
きっと丸く切り取られたこのイラストは窓であって、男性側と外界が隔たっているのだと思います。つまりcreaturesは窓の外側にいるのです。
窓の外側はいったい何の世界が広がっているんでしょう。
深海でしょうか。宇宙でしょうか。
彼にはどのようなcreaturesが見えているのでしょう。
もしからしたら、彼が見ているのは他ならぬ私たちかもしれませんね。
私達もまた何者かにとってみれば異形の者です。
丸窓の向こう。想像力が膨らむイラストです。

09 小説「うずまく」クマキヒロシ
クマキヒロシさんです。
タイトルは「うずまく」。当然「渦巻く」の意ですが、作中に出てくる彫像の姿勢の「うずくまる」や心的描写の「うずく」にも掛かっているタイトルであろうと。私見です。
この彫像が本作品のキーワードとなっております。抽象的でどのような解釈をすれば良いのか判別しかねる正体不明のオブジェ。主人公はその解釈を試みます。しかしながらその判然としないものが人間の心、そして人間関係であるので主人公の推量は的を得ることができません。的を得る者と得ない者。どちらが良いのか、またこれも判別しかねる問題です。
エンゲージによって人間は他者と関係を結びますが、そもそもが幻想です。実体のない契りに人は不安を感じずにはおれません。
その幻想の関係が壊れる時、明らかな音がします。心臓に痛みが走ります。実体がないので、これは幻聴や幻痛というのでしょうか。しかし時間が経つほどその疼痛は酷くなるのです。
その形のないものの危うさがほろ苦く描かれた作品です。

10 アート「読書」seila
seilaさんは点描を描かれる方です。
点描って不気味です。昔、家にあった不気味な書物の数々。たとえば「ノストラダムスの大予言」とか、そのような如何わしい書物の挿絵には点描が多かったように思うのですが、全く気のせいかもしれません(多分気のせいです)。とにかく私にとって点描とはジョルジュ・スーラ以前にオカルティズムを想起するのです。
そしてseilaさんもまたビザールな絵を描かれます。
本を開いた途端に生み出される博物誌的な「未知」の渦巻き。未知とは怪物、或いは恐怖です。オカルトです。しかし、同時にそれは強く私を惹きつけるのです。

11 小説「渦について/ABESADA1947」小拙
私です。

12 音楽「孤独な旅人」ノート
前述のマルチプレイヤー「わたむし」さんのご推挙です。
ノートさんはアコースティックなサウンドで楽曲制作をされています。
本作「孤独な旅人」は人間の一生を歌う曲目です。
人生は堂々巡り。常に孤独の渦中にあります。
迷いの森の出口は見えません。
その暗中を巡る旅です。
人間はその一生に幾たび苦しめられることでしょうか。
しかし、それが人生です。仕方ありません。
失敗ばかりで苦しいかもしれませんが、我々にできることは堂々巡りの旅を続けることだけです。ボロをまとって無精ひげを生やし、旅人のような顔で旅をするしかできません。
旅といえば、四国のお遍路さんの笠には「同行二人」と書かれています。遍路旅は一人ですが、常に開祖(弘法大師)が付いているという意味です。
旅をすることの引率者のように、アコースティックサウンドが響きます。とても優しい歌ですね。

13 日記小説「彼女のクトゥルフⅢ そして伝説へ…」民話ブログ
民話ブログさんの作品です。大変な大作を仕上げました。
「Ⅲ」とあるように、本作には前作があります。既出作を通じて日常に混在するクトゥルフ的世界観を描いてきたわけですが、異世界であろうと日常は日常、そして彼女は彼女です。そして本シリーズは日記です。
虚実ないまぜの異世界日記に我々読者は何処までが真実であろうかとつい勘繰りますが、真偽を見定めようとしても詮無いこと。すべて民話ブログさん、ご自身の真実と考えるのが宜しかろうと思います。そして浮かび上がる民話ブログさんの破天荒。人生の免許皆伝者です。
本作は日記形式で様々なエピソードが繰り広げられます。私が特に印象に残ったシーンは「彼女」がいなくなって民話ブログさんがソファから動かなくなるシーンですね。身体が粘液交じりに溶け出して不定形となっていきます。
民話ブログさんが日記の中で異世界に足を踏み外す住人たちを客観的に見つめながらも、このシーンでは当の本人が炯々と異世界入りします。このように民話ブログさんの描く「現実」や「生きること」は「希薄」なのです。凡そ現実的でありません。解脱とも呼ぶべきその潔い世界観が魅力です。
また挿入されるGIFアニメのクオリティにも注目です。民話ブログさんの「鬱屈するとカボチャのマスクを被って仕込み杖を振り回す」という実話エピソードに感動したGIFクリエイターのy.さんが作った友情の作品です。昔のゲームに「女神転生」というシリーズがありましたが、その中にこのような妖魔がいた気がします。悪魔を掛け合わせて強い悪魔を作るシステムでした。

14 漫画「【錦とあんず】第1話」midorimaru
漫画家のmidorimaruさんです。現世と冥界と輪廻転生を題材にした漫画をnoteで連載されておりました。
全16話の壮大な物語です。
暗さの中に明るさを忘れない、希望の物語です。是非一度ご覧下さい。
この物語もまた神曲であったように思います。

15 造形「流木土偶(2017)」康
土偶作家の康さんの作品です。木や葉っぱなど自然物を利用して「土偶」を作っています。本作品は流木を彫って可愛らしい人形を作りました。縄文時代の土偶がモチーフとなっております。造形に渦が用いられ、不思議なエネルギーを蓄えております。
彫るという行為は祈りなのだ、と何かの本で読んだ気がします。
康さんの作品もまた祈りです。
古代から現代まで受け継がれた祈りです。豊穣であるとか平和であるとか、私たちが安穏と暮らせる日々を人間はずっと祈り続けています。
康さんの小さな祈りのお蔭できっと世の中は少しだけ平和です。
願うという行為はとても大きな力なのだと思います。

16 ロック「からくり星急行の悲劇(full-sample)」はりおん
ロックスターのはりおんさんです。
アルバム「うずまき旅団外遊記」の中の一曲です。
今回のアンソロジーのテーマは「渦」です。渦とは力動。エネルギーです。それは海にもありますし、宇宙にもあります。我々自身も持っています。
我々が生きること、旅することがまさに渦そのものなのだと思います。
宇宙を一直線に横切る急行列車。
鉄の車輪が音を立てて銀河の渦巻く宇宙空間を走ります。
列車の動きは直線ですが、車窓から眺める景色はやはり渦です。思えばこのアンソロジーも様々な渦の中を矢継ぎ早に駆け抜けてきたように思います。

17 掌編小説「渦」くにん
本アンソロジーの文芸的に最後の作品はくにんさんの「渦」。男女二人のシンプルな会話です。
我々は渦。そして我々は銀河。
シンプルですが真理です。
渦と渦、異なる力動が近接して新たな渦が生じます。海の渦から始まった本アンソロジーは人間心理の渦、そして異世界へと世界を広げとうとう宇宙に到達しました。
本アンソロジーもくにんさんの文句なしのハッピーエンドで締めくくりたいと思います。

皆様の渦中にも幸いのあらんのことを。

18 GIF「"HOLE” for beginners / 初心者コース」y.
前出した民話ブログさんの小説中にy.さんのGIFが登場しますので、本アンソロジーではy.さんも二回(3作品)のご登場ということになりますね。
GIFの質はもとよりコンセプトの完成度の高さ、に誰もが魅了されます。
「HOLE」=ブラックホール、そしてゴルフのホールです。
宇宙のゴルフボールが幸運によってホールに吸い込まれていきます。
この動きの細やかさ、滑らかさ、そして届かないボールが吸い込まれることの軽妙なストーリ―性。完璧です。

ボールが気持ちよくカップインしたことでアンソロジーも落ちたいと思います。

手前勝手な解説で、皆様の作品の魅力を引き出しきれなかったように思いますが、作品の面白さは実際に記事をご覧になってご確認ください。
私の色々なアレの不足で掲載できなかった良作が沢山ありました。
また次回、取り上げさせて頂きたく思います。
お声をかけますので宜しくお願い致します。

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#アンソロジー #私花集 #眠れぬ夜の奇妙な話 #ネムキリスペクト #小説

■次回のアンソロジー
この度【渦(spiral)】ではテーマ決定が混迷して申し訳ございませんでした。さて、再び次月のテーマを決めなければなりません。ご興味あるテーマについて募りますので是非、コメントをお寄せ下さい。

■作品募集について
是非、一緒にアンソロジーを作りませんか?作品のご提供者様を募っております。コメント欄などからお気軽にご連絡下さい。また他薦でも構いません。この方の記事を拡散して欲しい、などのご希望も承っております。沢山の方が参加して頂ける企画になると良いなと思っております。過去作歓迎です。

ムラサキ