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NEMURENU47th【虎】解題

眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー「NEMURENU」は第47回を迎えました。
毎月開催して来月で4周年!
第47回のテーマは「虎」。
ガオー!
虎だよ!
今月もよろしくお願いします!



アンソロジーはこちらから



目次

01小説「虎」六井象
02漫画「一休咄異聞」渋谷獏
03小説「似非小説]トラトラトラ。あるいは山頭火・太宰・春樹・新井素子オマージュ、自動書記風(仮題) としべえ
04小説「黄色と黒色と」くにん
05動画「えかきうた とら」えかきっコーン
06小説「コロナの時代の虎」民話ブログ
07小説「大牟婁勘太郎の闇んでるニュース:竹林の七自殺者」拙
08小説「耳の婚活」海亀湾館長
09小説「白虎麗子は朝から遅刻しない」虎馬鹿子
10小説「人でなしの午后」武川蔓緖
11小説「虎を放つ」闇夜のカラス
12小説「花の言葉を識って」りりかる
13小説「僕の叔父さん、勘八叔父さん」
14音楽「惰生」みかげ


解題

01小説「虎」六井象

虎と云えば一休さん。
屏風の中に虎がいて、夜な夜な屏風を抜け出しては・・・と虎は幻獣感がある(それは例えばボルヘスのような)。二次元と三次元の狭間に棲む動物。それが虎である、と言えましょう。
今回のアンソロジーは六井さんの超短編から。

「どんな現状でも、命を粗末にするものじゃない」と猟師に諭され、その虎はとぼとぼと、廃屋の床の間の掛け軸の中に帰っていった。

61文字。
この61文字に実に多くの情報が詰め込まれています。

1、「どんな現状でも」・・・現在の虎を取り巻く状況があまり良くない事が伺えます。
2、「命を粗末に」・・・虎が自暴自棄になって命の投げ出す覚悟であることが分かります。
3、猟師に諭され・・・猟師は虎の仇敵。本来であれば虎の命を奪う側。虎が猟師に殺される危険があった事が分かります。
4、とぼとぼ・・・虎が落胆している様子です。しょげていても可愛いですね。
5、廃屋の床の間・・・既に廃屋と化しておりますが、床の間の存在にかつての栄華が偲ばれます。
6、掛け軸の中に帰って・・・虎は二次元世界の住人です。

かつて繁栄した家屋も今や廃屋。床の間に飾られた虎を見て「見事」と唸る主人もおらず、虎の威容をほめそやす客人も訪れません。一体どれだけの時間、虎は孤独に過ごしたものか、孤独に耐えかねて虎はとうとう現世に顕現することを決意します。しかし、時は現代。虎は危険の存在です。現世に現れれば、猟友会によって虎は退治されるのが宿命。しかし、それも虎にとっては覚悟の上。このまま永遠の孤独に閉じ込められるくらいなら。
人里に下りた虎を発見した人々は恐怖と混乱に陥りました。逃げ惑う人々。警察への通報。その攪乱をみながら虎はコンクリートジャングルを肉球で踏みしめながら悠々と歩きます。「これだ、俺が見たかったものは…!」しかし、虎が歓喜に浸る事ができるのも寸毫。とうとう猟友会がやってきました。猟友会のリーダーは虎退治の経験ウン十年の凸山凸助翁です。
コンクリートジャングルに隠れる虎探し。誰も虎を見つけることができるものはありません。虎は隠身の名人なのです。しかし、凸山凸助翁は違います。ひとり隊列から外れてとうとう虎を見つけました。猟銃を虎に向けて狙いを定める凸山凸助。撃てば百発百中。虎が襲い掛かってきたとしても翁が撃つ方が早い。翁は引き金に指をかけました。ズドン、とやればこの攪乱もこれで仕舞い……。しかし翁は違和感を覚えました。今まで翁が狩って来た虎は翁から逃げようとしてきました。しかし、この虎は違う。翁を見つめたまま、逃げる事も向かってくる事もしません。そう、まるで自分の運命を知っているかのような……。翁は気が付きました。この虎は死にに来たのだ。
思えば翁も狩猟に生きてきた人間。畳の上で死にたいとは思いません。翁だって死ぬときは山で、獣に殺されるのが自分の死に方だと思っています。いま、獣と猟師の交錯した視線にひとつの共感が芽生えたのです。翁は引き金を引くことを躊躇いました。俺にはこの獣を殺すことができない。翁の後ろの方から猟友会の仲間たちが近づく声がします。このままではこの虎は他の猟師に退治されてしまう。
凸山凸助翁は構えていた猟銃を下ろして虎に近づき言いました…。
「どんな現状でも…」

と、61文字の背景にはこれに類する物語が含まれていると察せられます。
良い言葉は多くの物語を持っている。

味わい深い物語ですね。



02漫画「一休咄異聞」渋谷獏

虎と云えば一休さん。
屏風の中に虎がいて、夜な夜な屏風を抜け出しては・・・と虎は幻獣感がある。二次元と三次元の狭間に棲む動物。それが虎である、と言えましょう。

で、一休さんつながりで渋谷獏さんの漫画のご紹介。
渋谷獏さんはtapirus(タピルス)という電子書籍の出版社を作りamazonで販売しておられるようです。

この漫画も渋谷さんの刊行された電子書籍「ベリショーズ」に収められたもの。ベリショーズは毎号テーマを決めて、作家がショートショートを寄せる機会誌のようです。面白そうですね。ご興味ある方は記事の下部にあるamazonへのリンクを御参考下さい。

それにしても一休さんの瞳孔の開き方が見事ですね!ヤバい!怖い!最高にクレイジーです。

そういえば、前出の六井象さんと渋谷獏さん、名前が似ていますね。渋谷獏さんは「獏」と名前を付けて渋谷は姓名判断から、とホームページに書かれていたように思います。獏さんの獏も凄いですけれど、象さんの象も凄いネーミング!


03小説「似非小説]トラトラトラ。あるいは山頭火・太宰・春樹・新井素子オマージュ、自動書記風(仮題) としべえ

放浪の旅人、としべえさんの随筆です。
随想、随筆って面白いですよねえ。当世風の言い方をすればブログ、なるものですが「ブログ」や「エッセイ」とは違った趣きが「随想」にはある。自分の心の内側を掘り下げて、自分自身を再発見するような。月下に於いて一人静かに筆を執るような。
そんな趣が随筆にはある。

ところで単なる表記の違いですが、「エッセイ」と「エッセー」でしたら「エッセー」と書く方が私は好きです。

としべえさんの随想の下敷きとなっているのが「種田山頭火」。山頭火もまた良いですねえ。山頭火の旅日記は青空文庫でも読めます。
貧乏旅で蚤や虱の木賃宿に泊まり歩いて、他の旅人たちを交流し、観察する。観察しながら自堕落な自分にため息をついたり、酒の旨さに舌鼓を打ったり。人情ですねえ。

としべえさんも、つい先ごろまで北インドに暮らしていたところを、最近になって帰国。帰国してからも国内をあちらこちらと旅していました。
旅をしながら先人の旅日記に重なるところもあるのでしょう。人生は出会いと別れです。

冒頭に披露された自由律俳句
「特等席でラムネ飲むモッタイナイねゼイタクだね」
は種田山頭火の俳句からのオマージュであるようですが、人情ですねえ。風情ですねえ。

この「特等席、ラムネ」が本話の裏技的に隠されたテーマになっていて、何とも愉快なお話です。としべえさんはあらゆる事に長じて大変な博識ですね。

そういえば。

先日、こんなニュースを読みました。

少し古いニュースなので今も現役で使われているデザインかどうか不明ですが、UFOキャッチャーのビニール袋に印刷された謎暗号・・・という話。暗号は日常の至る所に潜んでいる…ようですよ。


04小説「黄色と黒色と」くにん

くにんさんの小説は動物園の親子の話。
虎はどうして黄色と黒なの。と男の子が父親に尋ねます。
可愛らしい光景です。

黄色と黒、と言えば。とコメント欄でくにんさんが歌いだしましたが、そういえばそんな歌があった、あった……!
懐かしいなあ。人生も折り返し地点になりますと、いま起こっている事を考えるよりも昔を懐かしむことの方が多くなります。
黄色と黒、懐かしいですねえ。

黄色と黒の警戒色について調べていたらyahooの知恵袋にこんな質問が・・・

「ピカチュウは黄色と黒の警戒色?なのに何故あんなに可愛いのでしょうか?」
秀逸な質問です。
yahoo知恵袋の傾向として質問に対して回答者が身が入っていないと言いますか・・・。是非色彩学の専門家などに回答して頂きたい質問でした。


確かにピカチュウは黄色と黒なのに可愛い。
いやしかし。
考えてみれば黄色と黒は警戒色ですが、だからと言って警戒色が可愛くないとは同定できない。虎だって可愛いし。むしろ黄色と黒は可愛いものの方が多い…のでは。虎もミツバチも可愛いジャンルの気がします。え?もしかして警戒色って可愛い??
ということは道路標識の「危険表示」も可愛い……?
え……?そうなの?……そうかも……しれないですね……。



05動画「えかきうた とら」えかきっコーン

昔懐かしい「えかきうた」。
「えかきうた」って凄い発明ですよね。これ、各国にあるものなんでしょうか?歌に沿ってペン入れすると絵になる。発明した人は凄いですよねえ。天才じゃないでしょうか。そうだよ、天才だよ。
で、虎というものは難しくて、特に虎縞を描くのが難しい。実は私は絵が上手でございまして、大概の動物はそれっぽく描けます。いや、noteにいらっしゃる「それ系」の人に比べると怒られる出来ですから、勿論公開することなどありませんが。そうですね、私の絵の巧緻を例えると町内会の百傑には入るレベルだと思います。でも町内会には絵が上手な方が予想外に沢山いそうですから、もしかして百傑には入れないかも・・・。とりあえず、我が家では一番、と云うにとどめておきましょう。その、絵が上手な私も虎の絵は描けない。虎って難しいですよね。特に縞が。

でも、えかきっコーンさんの歌を覚えれば、虎の絵が私でも描けるようになるんですよ。凄いなあ。

この動画、絵のかわいらしさと裏腹に音源の編集がサイケデリックでクールです。是非、動画を再生する時は、音源も併せてご視聴下さい。

シマシマシマシマ、シマシマシマシマ、シマシマシマシマ……


06小説「コロナの時代の虎」民話ブログ

神出鬼没の民話ブログ氏の新作が今回も登場しました。
オホーツク海を泳いできた(かもしれない)虎が人間のふりをして国内に潜伏している。
見事な設定ですねえ。
誰が虎か分からない、話の明後日も読めない物語が硬派な筆致で描かれます。
今回はテーマが「虎」なので皆様の作品の虎の出番が気になる所ですが、ウラジーミルの放った虎の他にも本編には様々の虎が出てきて面白いですよ。

ロシアには虎が良く似合う気が致します。

虎と云えば・・・ロシアとかナニワとか。ナニワが虎ならロシアは狼だっけ・・・?

イイエ、ロシアにも虎はおります。ロシアの虎はアムールトラ(シベリアトラ)ですね。世界中で虎は乱獲されて絶滅危惧種。アムールトラも絶滅が心配されております。

極東ロシアはアムールトラが生息する土地であり、極東ロシアのツングース系狩猟民族ウデヘ族には虎にまつわるいくつかの民話が残っています。

トラは狩りが下手でいつもお腹を空かせておりました。あるときトラはネコに狩りを教えてくれるように頼みました。ネコはトラに狩りの仕方を教えたので、トラは上手に狩りができるようになりました。狩りができるようになったトラはネコが食べたくなりました。そこでネコに襲い掛かりました。ネコはトラの性分を分かっていたので、木登りだけは教えておりませんでした。それでネコは木に登って、無事にトラから逃げることができました。

トラとネコは似ておりますが、トラは木に登ることができません。
そういえば「ちびくろサンボ」もトラに襲われて木に登って助かったんでしたっけ?
同様の話はネパールや中国にも残っているそうですよ。
「虎は木に登れない」トラに襲われた時の知恵袋ですね。
皆さんも虎に襲われた時には思い出すと良いですよ!



07小説「大牟婁勘太郎の闇んでるニュース:竹林の七自殺者」拙

作品とは全く関係ない話ではありますが、「水のライオン」というUMAがおりまして。英語では「dingonek」と表記されます。
生息地は東アフリカのビクトリア湖周辺。

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DINGONEKの想像図。
(DINGONEK STREET BANDというグループのアルバムジャケットです。)

鎧のような皮膚に斑紋を持ち、二本の大きな牙がある。別名ジャングルセイウチ。
この生き物に似ている獣を我々はよく知っている・・・。

画像2

これもdingonek。カラーになるとより特徴が顕著に。こんな生き物ご存じないですか?
(この写真はサンディエゴのデザイナーMightyLEXさんのデザインしたUMAステッカーシリーズのひとつ。他のUMAも可愛くアレンジされています。Tシャツにもなってるよ!ポケモンみたい!)


そう、水のライオン、ジャングルセイウチ、ディンゴネックはスミロドン(サーベルタイガー)が進化して水棲動物になった姿なのではと推測されています。主にフランス人のジャン・ジャック・バルロワ氏によって。

画像3

目撃例が1907年と比較的新しく現地人もよく知っている動物であったので、実在が濃厚とされておりましたが、その後の目撃例が乏しいので絶滅してしまったのかも。

もしかしたら氷河期の獣が生きているかもしれない・・・と、夢があります。私はこのUMAが好きで、そのうち小説に登場させようと思っているのですが全く機会がありません。

最初に紹介した「DINGONEK STREET BAND」の動画です。

DINGONEK S.B.さんのアルバムジャケットはどう見てもHM/HRなのに実はスイング・ジャズ系。格好良いですね。

と、まあ全く作品とは関係ない話なんですが・・・。



08小説「耳の婚活」海亀湾館長

海亀湾館長さんの作品。今回はアダルト色が強いですね。
コメント欄にも書きましたが、「 恋愛経験が豊富とは云えない行き遅れの男女が婚活で出会う 」という何ら変哲のない物語が、主人公男性の過去の数奇の経験(坂口安吾の幻想小説を準えるような)を描くことによって、「変哲のない出会い」に「変哲の修辞」を加えている・・・。
ウブな少年が色に乱れて堕ちていく、という人生の重力の物語はよくあるような気も致しますが、この物語は全く逆です。現在と過去の対比が面白く、「極彩色の過去」があるからこそ、主人公男性の「淡く切ない現在」が否が応にも映える。面白い構造だと思いました。
八十年代の演劇のことについて詳しく触れられており、これもまた懐かしい。小説にリードされて過去のことを思い出すのは楽しいものでした。

と、・・・すみません、少し本編の内容について語り過ぎたかもしれません。面白い作品ですので是非本編をお楽しみください。



09小説「白虎麗子は朝から遅刻しない」虎馬鹿子

本アンソロジーとその界隈で「虎」と云えば「虎馬」さん。トラ・ウマ・シカと三獣が重なるキマイラ的な。

虎馬さんの本作に虎は出ませんが「白虎麗子」さんが登場します。虎馬さんが描く「白虎」さん。これぞ本アンソロジーのテーマが求めていたものかもしれません。

白虎麗子は起床しない、通学しない、曲がり角で青年と衝突しない。あらゆるドラマを回避する白虎さん。一般的にストーリーテリングの世界は「主人公の受難」によって紡がれると云っても過言ではありません。その小説世界において、受難と物語の発生を回避し続ける白虎さんは異能の主人公と云えましょう。しかし、そんな白虎さんにもとうとうドラマが起こります。本編においてはラストシーン。しかし、それがこれから始まる物語の幕開けかも。

この後の展開が気になって仕方ありません・・・。


10小説「人でなしの午后」武川蔓緖

武川さんの作品。武川さんの作品にフイルムノワールを感じる事が多く、ある時はジャン・コクトー、ある時はゴダール、ある時はフェリーニ。
映画というものは当初、観念であったし、どちらかと言えば詩であったように思います。
それは当初小説が観念であり、詩であったように。
そのような古き良き映画を感じさせます。
今回のお話もそう。
海辺には虎の紳士がいて、倒れた観覧車と放り出されたゴンドラが波打ち際に並んでいる。
虎はレトロな二眼レフを持っていて、わたしの写真を撮影する。虎紳士が如何にも伊達です。
映画というものは、そうなんですよねえ。映画館にいながら、深海にも宇宙にも行ける。伝説の怪獣も映像の中で生きて、動いている。かつての映画は観念であり、詩であり、審美なんですよねえ。

昨今、HYPERPOPなる音楽分野を知りまして、其処では電子音と変声が音楽というよりも何か暴力めいた無軌道さで再構築されている、肉体改造的で痛ましい。過激、過剰な脱身体的破綻。一体若者の感性はどうなっているのかと年寄りには中々ついていけません。しかし、破綻、抵抗、逸脱はかつての芸術衝動であった事も確かであって電脳世界の中で若者たちが仮想「わたし」の仮想肉体を手に入れてロックしている、そのようなものに思えなくもなくもなくなくない。

と、話が大きく脱線しましたが前衛美術というものはすっかり死に絶えたようでいて、前衛精神は未だにポップだという話。

で、脱線した話を強引にまとめれば今作も武川さんの作品はアバンギャルドでポップな前衛である、とそのように思います。



11小説「虎を放つ」闇夜のカラス

闇夜のカラスさんの本作は性と暴力。なかなかのバイオレンスタッチです。それだけに虎の怖さが引き立ちます。

そう・・・虎は怖いんですよ・・・。

那須サファリパークで起こった三度目の悲劇。
サファリパークで肉食獣の被害に遭う話は全国的によく聞く気がします。実に痛ましい。
この事件は2022年1月に虎が飼育員を襲ったというもの。

上のリンク記事は虎に飼育員が襲われた描写に臨場感があって恐ろしいです・・・。

そう、虎は怖い・・・。
ギネスブックには「チャンパーワットの人食い虎」という最も多くの人間を殺害した肉食獣の記録があります。

このチャンパーワットの人食い虎は436人を食い殺したと言われます。
どうしてそんなに大勢が犠牲になったのか。そもそも殺される前に逃げられないのか。だって虎に勝った空手家だっているじゃない。

と、疑問に思われる方はこちらの動画(男の人が怪我をして出血するので年齢制限があります)を・・・



こんなの逃げられる訳がない!

虎が大き過ぎるし速過ぎる!
これは虎に襲われたら死にますねえ…。虎の本気には勝てない…。

ちなみにチャンパーワットの人食い虎は元軍人のジム・コーベットによって狩猟されました。このジム・コーベットは伝説の狩人、博物学者、作家で、数々の人食い獣を狩猟しています。1907年から1938年までの期間に14頭の豹と19頭の虎を狩猟しています。

ジム・コーベットが狩猟した獣の一部
・パナールの人食い豹(1910年)…400人を殺害したと言われる
・チャンパーワットの人食い虎…426人を殺した
・クマオンの人食い豹…2頭の豹が525人を殺した
・ルプトラヤグの人食い豹(1926年)…125人を殺した
・チョウガルの虎(1937年)…52人を殺した

ジムコーベットによれば、人食いとなる獣の多くは歯に損傷を負っており、通常の狩りが出来ない状態だったそうです。それらの負傷の原因が富裕層の行うスポーツハンティングによることもあり、人食いを生み出しているのは人間だ、との言葉も残されています。後の人生ではジム・コーベットは森林や野生動物を保護する重要性を訴え、野生動物を保護する協会を作ることに尽力しました。

インドには彼の功績を称えてジムコルベット国立公園があります。

と、まあ歴史を見ても虎・豹の被害は深刻です。
しかし、「どんな猛獣よりも最も恐ろしいものは人間・・・」とあのムツゴロウ翁も言っております。

にんげん、こわい。
闇夜のカラスさんの本作品はまさにそんな作品でござるよ・・・。



12小説「花の言葉を識って」りりかる

りりかるさんの本作は老翁が謎と若い女御の裸を追いかけるお話ですが、謎に謎が掛かっていていくつもの暗号が隠されている。それが花言葉やバラの本数であり、調べてみると色々と知らないことが多くて為になります。

舞台となっているのもサナトリウムとホスピスの併合施設で、主人公の老翁も療養患者で、組織しているサークル参加者も療養患者たち。ヒロインもまた療養患者。
りりかるさんの本作は面白い設定であると思います。コメント欄にも書きましたが、療養施設でイースターのお祭りが開かれる。皆で卵を探す。イースターの卵探しと言えば私にとってはトーベ・ヤンソンの「ムーミンパパの思い出」で、ムーミンパパを始めとしてムーミンの親世代の冒険が描かれます。スナフキンやスニフの父母がムーミンパパと一緒に冒険する。そのクライマックスとも言うべきシーンがイースターで、王様主催の卵探しゲームが行われます。かつての私はイースターの卵が偏に美味しそうだなあ!と思ったものです。ああ、お腹が空きました。卵が食べたいです。



13小説「僕の叔父さん、勘八叔父さん」

前出の武川さんの作品にフィルム・ノワールを感じると描きましたが、朝見さんの作品も映画的ですね。
今回の朝見さんの作品は、「叔父さん」の存在がフーテンの寅さん的な所もあり、昔の日本映画を感じます。
朝見さんの作品は設定が稠密。細部にまで設定が行き届いて、精密機械のようです。設定集のようなものがあったとしたら、何処まで詳細に設定が練り込まれているのか拝見したいものです。書き始めるまでに相当の時間を掛けておられると思いますが、毎度この企画の短期間のうちによくそこまでの事ができるものです。
この度の叔父さんの設定にしても法学部卒で元国家公務員、その後に文学部を経て無職。数カ国の言語に通じる翻訳家。外国人観光客相手に寺院仏閣案内で日銭を稼ぐ。鰻屋の次男坊。呼び名は勘八だが本名は明らかならず。勘八はアジ科の大型魚。大きさによって呼び名の変わる出世魚で、勘八は同型種の最大に成長したものの呼び名。ヒラマサ、ブリに似る。回遊魚である。文武両道、将来を嘱望される誉高い叔父が諸遍歴を経て、素寒貧となって実家に戻った事から皮肉めいて勘八の名を冠したものと思われる。などなど。
叔父さんの設定を説明するだけで小説になりそうな。
あまり説明すると本文に障りますので解題もこの辺で。
私は何も考えずに書き始めて、後で設定を練るタイプなので、朝見さんの細やかさは大変勉強になります。
勉強になる、と言っても全く真似は出来ないのですが。

ところで。
今回のアンソロジーには久々にとしべえさんがご参加されて折りよく随筆を披露されましたが、本作の勘八叔父さんが私にはとしべえさんに重なって。
自由人とは朗らかなものですねえ。
出不精で万年鬱屈禍の私とは大違い!




14音楽「惰生」みかげ

みかげさんのオリジナル曲。今にも死んでしまいそうな良い曲です。
今回のテーマ「虎」と云えば山月記。

人間は誰でも猛獣使であり、その猛獣に当るのが、各人の性情だという。己の場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。(略)己の頭は日毎に虎に近づいて行く。どうすればいいのだ。己の空費された過去は? 己は堪まらなくなる。そういう時、己は、向うの山の頂の巖に上り、空谷に向って吼える。

悔悟しても足りない空虚を抱えて、なお生きる。そのようなもの、がこの歌でも唄われているような。
「その声は、我が友、李徴子ではないか?」

虎になった李徴が巌に上って空谷に向かって吼える。それが美しく見えるのは李徴の中に葛藤と哀切があるからで、みかげさんのこの歌も葛藤と哀切に修飾されております。
いやあ、良い曲ですねえ。

後序

今回のテーマは虎。
楽しい虎、可愛い虎。怖い虎、悲しい虎。
と数々の虎の物語が登場しました。
この度のアンソロジーはいかがでしたか?
虎が集まってぐるぐると輪を描き・・・
溶けてバターになるような
バターがパンケーキになるような。

そんな楽しいアンソロジーが今回も完成しました。
作品をご提供下さる皆様に感謝申し上げます。
また本アンソロジーをご覧下さった皆様に感謝申し上げます。

それでは皆様、今宵も夜の更けましたようでご機嫌よう。
どうか良い夢をご覧ください。


アンソロジーはこちらから




コメント師、今回はお休み。

諸般の事情でコメント師の募集は今回お休みです。いや、「諸般」と言っても特に何があったわけでもないのですが少し方法を変えようかなあ・・・と。もし、奇特で仏様のような方がおりましたら、各人の記事に本アンソロジーの感想などを自由に書いて頂けると良いのですが。

(いま考えている事とか)
作品を作るからには、その都度の評価が気になるところで、評価の高低が継続的に作品を作る事の動機づけになっている。が、参加者が評価を知るためにはこの場において公開されなければ参加者が評価を知る事が出来ない。公開すれば各人の評価が並置されるため各作品に相対的な優劣の決定が与えられてしまう。しかし、本来、作品の諸条件が異なるため、相対的に優劣が付く事に意味がない。比べるべきは自分の過去作で、新作において自分の過去作の評価を超えていくことが、作品づくりの動機にならなければ創作の姿勢が不純になる。うーん。作品の評価は知りたいけれど、他の人への評価が見えてはいけない。という事になるのかなあ。学校の通知表のようにあくまでも個人的に評価が配布される仕組みがあると良いのかな。などなどの事を考えております。次回までに新しい方法を考えます。


次回テーマの投票所

NEMURENUは次回テーマを公募で決定しております。書いてみたいテーマ、読んでみたいテーマを下記のフォームからお選び下さい。
次回(202205 第48集)のテーマの投票締切は4/8 18時です。

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次々回テーマ候補の公募


NEMURENUの次々回(202206 第49集)のテーマの礎を募集致します。好きなテーマは何度でも。どなた様でも無責任に。お好きなワードをご入力下さい。パワーワードをお待ちしております。

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当月もお疲れ様でございました。
また今月もよろしくお願い致します。


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