「現代詩 おもむろに胸を」(未発表作)

「現代詩 おもむろに胸を」公表に寄せて

帰化植物ハタケニラと私の物語は「凶暴の花」
http://murasaki-kairo.hatenablog.com/entry/2018/10/30/201255
を参照されたし。

上述の如くに精々、庭の害草駆除を行いながら作られたのが本詩。
暴力的な詩のため公開を控えておりました。当時は気持ちも荒んでいたのです。とにかく書く作品がみな任侠になってましたね。人様に付けるコメントまで任侠になってました。

任侠といえば
昭和残侠伝に見られる「軒下の仁義(池部良)」が名場面。

https://www.youtube.com/watch?v=S0wo7FWculg&app=desktop

インテリで甘いマスクの二枚目俳優にして映画監督の池部良は高倉健が主演する任侠映画(昭和残侠伝シリーズ)に出演を依頼されましたが奥さんが賛成してくれません。丁度、その少し前に石原裕次郎や里見浩太朗らが暴力団と癒着して拳銃の密輸事件を起こしており、日本俳優協会会長でもあった池部良は映画と暴力団の隔絶を宣言したばかりだったんですね。
その時に奥さんが池部に課した出演の条件が「シリーズでは毎回死ぬこと、入れ墨を入れないこと、ポスターでは露出を小さくすること」の三つ。
だから本映画中の池部は任侠でありながら、全く「らしく」ありません。甘いマスクに加えて洋装ですしね。激昂する事もない。全く「らしく」ない。それが良い。

さて、「軒下の仁義」について。
渡世人は諸事情抱えて全国を旅しながら暮らしております。ゆく先々の一宿一飯は属する組と同系列の組屋敷にて拝領できるというルールがあります。全国を渡世しながら侠に客する侠客となる訳です。
しかし中には全国を網羅する渡世のネットワークを悪用してタダ飯に与ろうとする輩もおります。この不埒を防止するために考案された符牒が「軒下の仁義」です。定められた一言一句一作法に則り行わなければ偽物と見做され、下手をすれば若衆に囲まれ暴行を受けます。
ですから軒下の仁義は儀礼的であり、緊張を帯びるのです。上でご紹介した動画もその緊張感がよく表現されています。
本詩と全く関係ない話が長く続きましたが(笑)、以下本詩です。

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現代詩「おもむろに胸を」(初稿2018年11月)

月下の庭に胡座をかいて僕は
夥しく繁殖する強壮の意思
つまり
アルラウネ

髪をなびかせ
その肉体を育てる地下街のエロス
月下の庭に胡座をかいて僕は
誰も傷付けることのないように
生きるつもりであったのに
狂気を抑えられない無性の暴虐
弑し弑し
お前の髪を掴んで引き抜いてやろう
ああ狂っている僕は
お前の髪を掴んで引き抜いてやろう
腹立たしく
論理不明瞭の前夜であった
髪を掴まれたアルラウネ
ハタケニラ
地下に隠れた鱗肌
豊満で
官能の
お前の鱗茎はほろほろ溢れて
夥しく繁殖する強壮の意思
多淫の歓び
お前は殖えて
緑なる長髪を垂らして
砕石に植わっている
これはヒガンバナ科ネギ亜科ステゴビル属ハタケニラを殲滅する話とどうしようもない僕の苛立ちを制御できない話と赤い月を見た夜の話或いは官能的な友人 の話
ヒイヒイと夜に哭く
誰も傷付けたくないと僕は狂っている
世間を憎む
心底
心底
お前を
アルラウネを抜く
ヒイヒイと夜に哭く
赤い月がチェシャ猫の
消えゆく唇の如き下弦の月
と赤いランジェリー
当て所なく夜の街を
歩きて辿り着くのは海である
僕は今宵
帰る家が見つからないんだ
道に迷う
暗夜
おもむろに胸を
赤い月がチェシャ猫のように
嗤う僕は
ほろほろとこぼれ落ちた鱗茎を

鱗茎をひと粒ずつ拾う

(現代詩「おもむろに胸を」村崎カイロ)

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