現代詩「紅生姜天とジンゲロールの話」

紅生姜天の話である

そもそも
紅生姜天は月影千草の舞台ではない
そこに大都芸能事務所の速水真澄の執着もないし
北島マヤと姫川亜弓の凌ぎもない

赤い色をしているが
これは梅酢に漬けた為で
血液に呪詛された所為ではない

舌に程良く辛いのは
辛味成分であるジンゲロールが含まれている為で矢張り呪詛ではない

ジンゲロールと聞くと
何処の「 毛 」がロールしてんだよと
気になるが
それは屹度
あなたにとって瑣末の事だから
気にしなくて良い

ジンゲは主に
あなたの秘密を覆う毛かもしれなくて
それは心臓や脂肪肝
膵臓癌や悪性リンパ腫
など
官能を仄めかす臓器を
覆っているニュアンスがある

最近の僕などは
すっかり涸渇して
人間関係そのものが
ひち面倒臭くて
なるべく
誰とも口を利かず
目も合わさす
周囲の婦女子に惚れられぬよう
潜んで生きている
そういう者に
ジン毛は生えない

気がする

五月の花葵は
凛として無人の街の彩りとなっている
若い男娼のように艶い
衒い
そういう者に屹度
ジン毛が生える
ジン毛が生えてロールしている

話が脱線してしまった
紅生姜天の話である

すっかり涸渇した僕は
日曜日になると
紅生姜天を作る

作り乍ら
月影千草と北島マヤの事を思い出す
あれは呪詛
美徳の呪詛
僕は到底、北島マヤにはなれない
紅生姜天の上演権を競って
舞台に立つことなど出来ない
美しく生きる事など出来ない
姫川亜弓にジン毛は生える気もするが
北島マヤにジン毛は生えない
そう思われつつも実は生える
きっと
きっとね

天麩羅粉を水で溶き
紅生姜を入れて
くるくる掻き混ぜて
桃色になった其れを
箸で摘んで
油で揚げる

高温に泡立ち美を完成させていくその様が
若い男娼のように艶い
衒い
薄絹纏って踊る彼らは
天女のように
エロい

菜箸で取り上げて
キッチンペーパーの上に並べていく
揚がったばかりの
紅生姜天は
甘酢く
辛い

辛味成分であるジンゲロールは熱を加えることでショウガオールに変化して薬効が上がる
血行が良くなるので食べると風邪をひかずに済む

(現代詩「紅生姜とジンゲロールの話」村崎カイロ)

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