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桜井晴也「世界泥棒」について

※今回も小説ではありません。

桜井晴也の「世界泥棒」という小説について話します。僕が今最も誰かと語り合いたい作品です。

桜井晴也という名前を聞いて「ああ、あの人ね」となるのは、読書好きの方でもほとんどいないと思います。それくらいマイナーな作家です。

マイナーである理由は作品が難解で読みづらいからだと個人的に考えています。お世辞にも売れるタイプの作家ではないです。事実、デビュー作である「世界泥棒」以外に桜井先生の著作は出版されていません。

ですが、世界泥棒は一部の人には刺さる小説です。少なくとも、僕はこの小説がとても好きです。どうしてもこの本を誰かに読んでもらいたかったので大学時代の授業で行ったビブリオバトルでこの本を紹介したことがあります。結果は説明を聞いていた全員に首を傾げられました。切ない思い出です。

これは僕のプレゼンが悪かったというのもありますが、それだけではありません。世界泥棒という作品は読みづらいよう設計されています。特徴を挙げると、段落が中々変わらないですし、ひらがなが多い、会話が「」で包まれていないなどです。

初めてこの作品を読んだときはほとんど理解できなかったです。なんじゃこりゃというのが感想です。それでも、再読しようと思ったのはこの小説には言語化しがたい不思議な魅力があったからです。

二回目に読んだときは驚きました。この小説ってこんなに面白かったっけと、世界泥棒が面白く感じたからです。けど、何がこんなに面白いのか言葉に出来ないのは相変わらずでした。

それからは何度もこの小説を読み返しています。けど、世界泥棒の魅力を言葉にしようとする度、自分の伝えたいことをうまく言葉に出来ていない気がします。それでも今回は自分なりに魅力を伝えられるよう努力したいと思います。

世界泥棒の魅力を今回は二つ紹介します。

①世界観が独特

世界泥棒の世界観は独特です。山尾悠子やプルーストの小説が出てくることから僕たちの世界であること、また真山くんや柊くんといった登場人物がいることから日本なのかなと予想できますが、国境を兵士が守っていることや野人や幽霊が見えるといったことから現実とはかけ離れた部分もあります。

また登場人物同士の対話も特徴的です。分かり合えない者同士が平行線の会話をします。これは言葉の持つ無力さを作者が読者に思い知らせてやりたいという意図があるのではないかと個人的には考えています。

②何度読み返しても面白いこと

色んな小説を読んでいくうちに、前は面白かったものが面白くなくなっていくということがあります。これは比較対象が増えていくからです。

現時点では世界泥棒ではそういった現象は起きていません。裏を返せばこの小説にはそれだけの強度があるということです。何度読んでも飽きないです。


他にも色々ありますが、言語化するのが難しいためこれくらいにしておきます。もしこれを読んで気になった方がいたら読んでほしいです。よろしくお願いします。



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