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七つの幸運ep.絡糸繰糸「絡繰仕掛けの舞台袖」③

3.

 計画は、それが頓挫することも思慮に入れて練らなければならない。

「……そう。捕まっちゃったか。ケムリのおじさま」

 絡糸繰糸。からめいとそうし。元『ニードルビー』構成員。手繰って笑う黒幕。

「わかったわ。教えてくれてありがと。わたしは次の手を考えておくから、あなたは引き続き、そっちの方を頼むわね」

 大極道『輪廻会』会長、白粉撒煙利逮捕。

 暗躍と手廻しを盾に生きてきた繰糸にしては珍しく、突如受けたその報せは、彼女の頭に張り巡らされた図面のどこにも印されるはずのない情報だった。

 裏世界の秩序を乱しかねないそのニュースは、これから瞬く間に業界を巡ることだろう。新聞の一面、テレビの報道、ネットなど、表に出回るのも時間の問題だ。

 組員を除いては誰よりもいち早く、白粉撒会長逮捕の一報を受け取ることができたのはさすがの手腕と言いたいところだが、絡糸繰糸にとってそんな賞賛、されるだけただ虚しいものであった。

 結果が伴わない過程に意味はない。

 逆にいえば、なら、これすらも望む結果に行き着くための過程にしてしまえばいい。

 その異常で過剰な上昇志向は、彼女がまだ幼く、拙く、小さな人形も両手で持つのが精一杯の頃に植え付けられたものであった。

「お楽しみは、これからだから。……ええ。もちろん、わたしもよ」

 ただ、あの頃と違うのは。

 そーしのごっこ遊びはかつて、こんな風にひとりで戯れるものではなかった。

『くろまく』にも、『かみさま』にも、じぶんだけでなるつもりはなかった。

「好きよ。だから、わたしのためにたくさん働いてね──ふたりの、未来のために」

 乾いた笑みから、粘り気と熱を伴った声を漏らし、電子に乗せる。通話を切ってから、携帯電話を持つ右手で、左脇に抱えた人形を撫でる。

 どうでもいい愛犬を愛でるように。なんともないコレクションを慈しむように。

「もうちょっとだから。待っててね、奇跡」

 そうして、歩む。

 いつかの昔に交わした、ふたりの『やくそく』を守るために。

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