読書メモ(真珠)

■感想

・本書は2人の「変わらない思い出の品」を軸に人生が語られていく。個人的には整形によって醜い顔の放火魔と同じように整形により腫れぼったい顔になっていく主人公の妻が最後に似た存在のように描かれている点と、そんな放火魔の笑顔が素敵という「思い出の品への強い愛情」が最後の1ページに「変わるものと変わらないもの」という本書の裏テーマが凝縮されていルような気がして読み応えがあった。

■作者と概要

・作者は湊かなえ。短編集「サファイア」の中の1つ。とある五十代女性との会話の中で「ムーンラビットイチゴ味」の歯磨き粉を軸として話が展開される。本の終盤に五十代女性は連続放火魔であり、その動機が主人公が務める株式会社W&B社(旧ムーンスター社)の商品復活のために起こした放火だと言うことが明らかになるも、作者の名推理によりそれが嘘であり、さらに思いもよらない事実が明らかになる

■よかったインプットメモ

・聞き手と同じ状況を経験していたと言うエピソードは親近感を沸かせる上で非常に効果的なのかもしれない。本書でも放火魔の「ムーンラビットイチゴ味」に当たる思い出の品として、主人公もムーンスターの「シャンプー」を軸とした回想シーンがある。これにより作者が最初放火魔に抱いていた印象よりも良い印象のまま話は終盤に突入している

・違和感は持ち続けた方が良い。本書でも「十代の自分は非常に魅力的に話し親友の用紙を卑下しているのに、旦那にあってからの自分の用紙をやけに卑下しているのはもしかして整形したからではないか、そうすると話の辻褄があう」のような違和感を持ったまま話を聞いたり回想したことが真実を明かす重要な要素になっている。

・自身の将来を代わりうるものに委ねることの不安定感。主人公はムーンスターのシャンプーにより中学時代の初恋の相手と結ばれ、商品の魅力を伝えるために頑張ってきたがクレーム処理部署に配属になり、しかも自社が外資系企業に買収されたために非常にモチベーションが下がっている。主人公の奥さんも整形をしたことにより顔は以前と違う顔になり、淡い思いもなくなりつつある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?