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それ、連帯責任な

マジで学校で怒られたことなんてなかった。めちゃくちゃに大人(40代)っぽかったし、倫理観はしっかりとしてた。でもめちゃくちゃ下ネタ人前で言ってたし陰キャ特有の女格付けもデカい声でやってたし授業は寝てた。そんな怒られるか怒られないかの境界線みたいなところで結局1度も怒られずに中学2年生まではきてた。

3年生を送る会ってあるじゃん?アレの実行委員やってたんですよ。真面目すぎて。今考えると3年生に知り合い1人もいなかったしなんで委員会入ったのかマジで謎なんだけど。同じ係の4人で本番で使うスライドを作ってたんだけど、作業終わりにそのうちの1人が

「ファイル名、ちんこ でよくね??」

って真顔で言い出した。俺はめちゃくちゃ真面目なのでやめろよと思ったし言った。「そういうのやめたほうがいいよ!」ってうわすげー模範的陰キャ。マジでつまんねー男だな中学生の俺。でも中学生男3人の若気の至りを1人のデブメガネが阻止することなどできず、ファイル名はしっかりと「ちんこ」になった。最後には俺も爆笑しながら見てた。本能に負けやがってコノヤロウ。

次の日早速先生に呼ばれた。わかりやす〜い。怒られるタイミングかなりわかりやす〜い。サナルの数学くらいわかりやすい。怒られた経験が皆無の俺はめちゃくちゃビビってた。いや俺は止めたし!!みたいなことも言った。これで逃げれる〜〜よかった〜〜

「はいそれ、連帯責任な。放課後職員室ね」

そっかー連帯責任かー。日本的。こういう理不尽な経験が過激派を生み出すんやぞ。当時キメェオタクで政治にハマってた俺はそんなかんじに超気持ち悪い思考を働かせながらしおらしく職員室に向かった。まずは反省文を書かされた。お〜なんかマンガみたい。ちょっとワクワクしてきた?ホント人生ナメてんな〜。でもちょっと違和感があった。よく見ると1人足りない。
アイツどこ行った?って聞くと、どうやら自分全然関係ないんですけど!的なこと言って怒って帰ったらしい。お〜裏切り。これもマンガみたい。ここまでくるとさすがにワクワクのほうがデカくなった。もう俺は叱られを楽しむメンタルに切り替わってしまった。

どうやってもこの状況で1番悪くないのは俺。だって連帯責任で飛び火食らっただけだもん。最後には自分も爆笑してたことを棚にあげてそんなことを考えてたら先生が入ってきた。N先生。数学の先生で俺のテストの点数が悪すぎてちょっと前から目つけられてた。あ〜これはハズレ引いたか〜とか思っちゃったけど。ギャンブルじゃねぇんだから。

まずなんか反省文の出来からディスられた。ボールペンで書かなかったこととか丁寧さとかめちゃくちゃディスられた。でちんこファイルにした張本人たちはめちゃくちゃ丁寧に書いてたから何故か褒められてた。あ〜反省文って結構大事なんだ、贖宥状みたいなもんなのかな?ここにもカトリックの腐敗が蔓延してたわけね。盲点。

でまあ超厳かな雰囲気で「今後こういうことがあったら…」とか「どれだけ大きなことをしたかわかってるのか…」とか「事の重大さを…」とか万引き犯を諭すような文言がたくさん出てくるんだけど

でもそれファイル名を「ちんこ」にしただけなんだよな…事の重大さ、わかんねーな…ちんこって"悪"なのかな…

つて思考が段々強くなってきちゃったんですよ。最初は違和感と理不尽に対する若干の怒りだったんですけど、次第にやらかした事に釣り合わない厳かすぎる雰囲気が笑いを誘い出すんですね。1分1分がめちゃくちゃ長く感じた。手を握りしめ汗を垂らしながら笑いを堪えた。ここで暴発したら完全に俺が「一番悪い人」で終わる。ダメだ。耐えてくれ。先生が一言

「まぁムラマツも反省してるみたいだし…」

頷きながら俺は吹き出した。これもマンガかってくらい模範的に。俺の笑いを我慢してる極限状態が反省と受け取られたの、どう考えてもギャグでしょ。すれ違い系じゃん。ここでアンジャッシュやらなくていいから。冗談抜きで

「ブフォwwwブブッブッwwwwwちょwチョッwwwwwwwこれ違うちがwwwwww反省してるwwwwwwwしてますけどwwwwwwwww」

みたいなかんじで笑ってたら先生が机を思いっきり叩いた。叩いてめちゃくちゃ高い声で意味わからん罵声を浴びせてきたけど俺は笑い続けた。力の解放。エクスタシー。これ以上の幸せなんて存在しないんじゃないか。1分くらい笑って落ち着いたらそこは地獄だった。マジで寒かった。極寒。あ…アッ…違いますよ。反省はしてるけど、してるけど笑いのほうが勝ったっていうか。両者を天秤にかけてですね?アッはい。はい。その通りです。はい。俺が1番悪い…?あ、やっぱりそうなる…はい。ハイ。いや、え、笑った理由?理由…チョッとそれは説明が難しくて。えぇ。難しいんです。いやべつに面白くて笑ったってわけじゃなくて、まぁ面白かったんですけど。だって面白いじゃないですかヒィッ!!!はい!そうです俺が悪いです!マジでごめんなさい…ゴメンナサイ…

事後、首謀者たちは俺に優しくなった。先生は俺をちんこファイルの人として認識するようになった。仲良しだった先生には「まあそれも人生だねぇ」って言われた。それも人生。それくらいの心持ちでいいんだ。そうして俺はちんこファイルの汚名を1年間背負うことを甘んじて受け入れた。

追伸:裏切って帰ったお前はその銀貨30枚を床にぶちまけ首を吊れ。イスカリオテのユダ

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