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【人事シリーズ③】ガクチカ嘘つきを科学する

皆さん、こんにちは!けんたろと申します!
数学とファイナンスがとても得意で、良く講義などさせていただくのですが、

今は人事部門に所属しているので、せっかくならと人事制度や働き方に関係しそうな論点をシリーズでnote化してみようとはじめてみました!
この領域の発信を通じて、近い領域に関心ある方と繋がれたらなあと思いますので、
課題感持たれてる方お見えでしたら、是非コメントやTwitterなどで反応いただけると嬉しいです^^

ということで、第一弾は「配属ガチャ」、第二弾は「人材配置の主導者が人事から個人へ?!」をテーマに選びましたが、
第三弾は「就活での嘘つき問題」について書いていこうと思います。


というのも3月就活解禁の季節が近づいてきて、毎年多くのノウハウが飛び交うこのシーズン。Twitterをダラダラ眺めてても、やっぱりそんな発信がたくさんあって、リアルに僕自身学ぶところもたくさんあるので、かなり重宝しているんですw

そんな中、ちょっと最近1つのtweetをきっかけに議論が巻き起こってたので、企業側としてこの問題に向き合ってみたいなと思っていたので、
人事第三弾目はこのテーマを選びました。

就活に”テクニック”は必要か?

この問題に対してよくみる論調は

①就活=マッチング。嘘偽りない方がマッチした職業選択につながる!
②就活=ロワイヤル。嘘やテクは駆使してでも合格を獲得するべき!!

この2点が主な類型的意見かなと思います。それぞれの意見どちらも人事/候補者の視点によって良し悪し価値観は分かれるんだと思いますが、よい職業選択に結びつけるための戦略としてはどちらも正当性ある意見だと思ってます

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そんな価値観の揺れる問題なので、人事界隈のTwitterではある有名投稿者さんの発信を皮切りにプチ議論に発展して、様々な方の意見が飛び交いました(2021年2月)。

僕自身どちらが正解というより、企業としてこの問題をどう捉えるべきなのかという論点が気になったので、
いつもながらまた構造化(っぽくカキカキ)しつつ、”企業視点”で課題と対応策を整理していきたいと思います。
(なので、学生さん向けではあまりないかなと思いますので、ノウハウ得られる?と期待された学生さんは就活後人事になられてらまた是非このnoteを覗いていただけると嬉しいです)

毎年オンシーズンの人事の悩み

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そもそもなぜこの問題が毎年話題になるのかというと、求職者(学生)と人事(企業)の思惑が合致しないからなんですよね。
求職者は自分のことをできるだけ高く買ってもらいたい(優秀と思ってもらいたい)けど、人事はできるだけ求職者のことを正しく理解したいと思っています。
このようにニーズが不一致する中での選考活動になるため、以下のような悩みに毎年の採用シーズン頭を抱えることになっているんです。

例えば、エントリーシートや面接での会話を通じて、ビビッとくる優秀なエピソードを聞いても
ふと冷静になって、この学生さんは本当の体験エピソードを話しているのか、それともテクニックとして誰かのエピソードを盛り込んでるのか...等

もう疑心暗鬼です!!w


特に採用ピークシーズンになると、毎年本当によく似たエピソードを耳にしますし、
架空の話でも嘘でもいいので、先人が培ったテクニックを駆使すべき!というアドバイスも目にしますので
余計に人事の疑心暗鬼を加速させられていってしまうのかなと思っています。

要は、人事視点では
「応募者本人から得る情報のみによって応募者の良し悪しを判断しなければいけない」
という状況において、嘘つきや、テクニックでよく見せようとしている候補者が”混ざっている”というとだけで合理的だと判断した結果が誤るかもしれないリスクを抱えているからこそ
善悪のカタチとして、毎年こんなに議論が盛り上がるんですよね!

嘘つきの正当性

ではなぜ、応募者は嘘をつくのか。
好きな方へアプローチするときに少しでも背伸びしたことがある方なら、嘘をついたりテクニックを駆使する動機は理解できるんじゃないかなと思います。

つまり、嘘により、機会を得るためという視点ですね

例えば、カナダのアイスホッケーのプロ選手の誕生日を分析したレポートがあるんですが、1-3月生まれが10-12月生まれに比べて圧倒的に多いようなんです。
これはカナダの学年の区切りが1月にあるため、同じ区切りで見た時に1月生まれと12月生まれで比べた時約1年分体格差があるんですよね。

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それによって、1月生まれの方が試合機会に恵まれ、成長経験を積めるんです。これがプロになれるかどうかの重要なポイントだとすると、あなたが親ならどうするでしょうか。(カナダはアイスホッケーが日本の野球のようにメジャーなスポーツ)
恐らく僕がカナダ人で、子供の機会を1つでも広げようと思えば、1月に子供を授かることを強く願うと思います。(プロと誕生付きの話の詳細は以下本に掲載されてます!)

採用に話題を戻すと、ポテンシャルで採用されることが常の国内労働市場において、
テクニックを駆使してでも、合格し背伸びした仕事に従事する方が、候補者本人にとっては自身の市場価値を上げる、よりよい職業選択になるかもしれないんですよね。そうなると嘘をついてでも合格を採りにいくことは候補者視点では至極合理的な意思決定だと思います。

嘘をつくことや、テクニック等でルールの盲点を突き、機会を得ていくことも重要なんだというのが、テクニック推奨派の主な意見なのかなと思います。


一方、学生にとって、嘘をつくかどうかを合理的に判断したいのであれば、以下視点も漏れガチなので、論点としておさえておく必要もあるかなと思います。

僕の友人もバツイチを隠して付き合いだしてから、いつ打ち明けようか、
その「不誠実さ」ですごい悩んでいますので、「機会獲得」と「中期的関係性」の二軸で判断が必要だということかなと思いますw
(例題が適切なのかは若干不明が残りますがw)


そしてこの問題は実はノーベル経済学賞も受賞しているような有名な問題なんです。

嘘つきが淘汰されない:レモン市場について

※レモン:アメリカでは粗悪な中古車のことを食べたら酸っぱいという意味でレモンという俗語で表現される。なお、良品の中古車はピーチと表現される。

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米国のノーベル経済学受賞者のジョージ・アカロフ氏が提唱したこのレモン市場とは、

買い手と売り手に持つ情報量に差(情報の非対称性)があるときに、売り手は嘘をつく方が正直者よりも利益をあげ生存する、という本来正直者が生存すべきという姿と逆の淘汰現象が生じるとして1970年代に論文にまとめまた問題のことです。(ノーベル賞受賞は2001年)

中古車を例に見てみると、例えば自動車は事故などで内部パーツが痛んだ中古車の価値は本来的には割安の価値になります。
一方、内部パーツが痛んでいるかどうかについては、外見から判断がつかないことが多く、買い手は販売員の言うことから情報を得るしかほぼほぼ方法がないんですよね。
売手側しか正しい情報を持っていないという点、採用と同じ構図ですよね)

そして、ここから面白い場合分けです。
まず嘘つき販売員が、本来50万円の価値しかないはずの粗悪な中古車(レモン)を、良い中古車(ピーチ:100万円相当の価値)と嘘をつき、値札を80万円と表記したとしましょう。

あなたが不幸にもそんなお店に足を運んでしまった場合、他所の中古車ディーラーで100万円で売っている車が2割OFFの80万円で売っているので安さに飛びついてしまうのではないでしょうか。
なぜならその中古車が粗悪品かどうかは買ってみないとわからないが、現時点では良品として売られているためです。


一方、正直販売員のお店ではどうなっているでしょうか。本当に良い中古車を仕入れ適正な100万円の値付けをしても誰も買ってくれない状況が起きているでしょう。なぜなら市場は良品中古車(と言われているものが)80万円で売られているからです。
そして、そんな良質な中古車販売店は利益をあげることができず、撤退を余儀なくされるでしょう。
このように世の中には、粗悪品を良いモノであると嘘をつくディーラーが残っていく逆淘汰が起きている点に注目したミクロ経済学の走りだったのが、アカロフさんでした。


でもですよ!!
この論文が出されて半世紀近く経ちますが、街の中古車販売店は粗悪品しか流していないのか、というと決してそういうわけではないですよね。
つまりこの逆淘汰にも一定の歯止めがある
ということなんです。

企業としてもこの歯止めからの学びを採用プロセスに活かすことが必要ではないでしょうか。

嘘つきを減らすなら「啓蒙」ではなく「ルール」

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では、嘘つきを減らしたい企業としては、どのような打ち手をすべきでしょうか。

「テクニックは悪です。やめましょう!」

もちろんですが、こんな言葉では響かないでしょう。上記レモン市場の通り、誰かが嘘をついたら、相対的に自分は損をすることが分かっているからです。

つまり、企業側に求められる視点は「北風と太陽」で太陽が服を脱がしたように、まさしく嘘をつくと損をするルールを作ることではないでしょうか。

この点を置き去りしたまま、テクニックを悪と決めつけるのはむしろ企業側の罪が大きいと思っています。
なぜかは上記レモン市場の通り、逆淘汰が起きるからです。


では、企業側はどんなルールメイクをすべきなんでしょうか。
大きく2種類方法があるのかなと思っています。

①嘘を見破る:ESに書かれた内容が本当なのか証拠集め等
②信憑を引継ぐ:嘘をついた履歴を後の評価時まで反映させる等

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今の就活において、嘘をついてもバレないことが嘘をつく動機にもなっているので、ここをまずは整理が必要かと思います。

1つの手段がサーティフィケーション(認証)チェックです。
例えば、部活動で「日本一位」にしたという内容であれば、その時の写真やHPのURLの提出を求めてみたり、
「チームの勝率を4割から7割にした!」という内容があったとしたら成績表の提出を求めてみるというのがけん制効果として有効かと思います。

他にも、キャリア採用などではグローバル企業中心に一般化しつつありますが、リファラルチェックという方法もあります。
これは候補者の前職での勤務態度や実績がどうだったのか、第三者に情報を求めより本人情報の信憑度を確認するというやり方です。

ただしこの辺り、新たに取り入れようとしても人件費等多々コストが発生してしまうので、面接前に短期間で全員チャックするのは困難性も残ります
まあ、合格者の評価であれば、人数も限定的ですし、合格だしから入社までの期間に若干の時間猶予もあるのでコスト合理性もあるかもですね。
これが嘘を見破るルールを作る①になります。


②のルールは、嘘つきがバレたら、その信憑結果を引継ぐことを明言し実行することです。
①は嘘がバレないから嘘をつくという論点でしたが、②は嘘がバレたら罰則を与えるという意味です。
すなわち、嘘をついて入社しても、その後の処遇などに信憑を引継ぐことで嘘をけん制できるのではないかというのが本対策である。

実際、嘘つき中古販売店が世の中の大多数になっていないのはなぜか。それは、ブランディング棄損すると生き残れないからなんですよね。一瞬は騙せても、2回目/3回目は騙せず悪い評判が流れることで、嘘つきが淘汰されるという仕組みなんですね。

採用でも同じく、面接段階で例え嘘が見抜けず合格にしてしまったとしても、嘘がバレたらとんでもないことになるというルールが作り、それが実行される事例が広まれば嘘つきは大きく減るんじゃないかなと思うんです。(企業としてそれが競争力につながるかどうかのチェックも必要)

合格者の信憑調査という一手間をかけるだけで中期的には嘘つきを減らし面接効率を引き上げられるので、是非企業側には「嘘つきはダメだよ!」といった啓蒙活動ではなく、このようなルールメイクに取り組んでいただきたいなと思います。

投資の神様の駆け引きから学ぶルールメイク

投資の神様と呼ばれる、ウォーレン・バフェットの投資術も実は上記のようなルールを用いています。

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通常、投資において、事業家と投資家は「出資金額」と「それに引き換え配布する株式シェア」の調整で利害がぶつかります。
投資家は出資金額に対して多くの株式シェアを求めるし、事業家からすると株式は手元に留めておきたいので少しの株式シェアを提示するでしょう。

ウォーレンバフェット氏は、相手がいくら出資欲しいのか何パーセントのシェアを渡すのかを宣言できるのは一度きりとルールを決めております。
投資家として出資先の情報はあまり持っていないことが一般ですので、情報非対称を産むんですよね。
であれば交渉の余地を減らし、合格基準に達したシェアを提示できたか否かを一発で判断するようにして駆け引きをできる限り少なくすることで、情報非対称のビハインドを解消する効率的な投資判断を行えるようにしているんですね。


以上、今回はレモン市場をべースに
就活はテクニックを駆使すべきかどうかについて多々カキカキしてみました。

後半企業視点で、嘘やテクニックを見破る視点で書いてみましたが
個人的には「嘘はダメだがホラは吹け!」という派なので、
ビックビジョンを夢見て、大ほら吹きと呼ばれるくらいのエピソードを作れる方が増えて、その一部でもその大ホラを実現するキャリアを歩んでいただければ素敵な世の中になるんじゃないかな、と期待しています。


最後までお付き合いいただいた皆さまありがとうございました。
是非、コメント欄などで感想お寄せいただけますと嬉しいです!

人事シリーズnote:過去アーカイブ

▼第一弾:配属ガチャ

▼第二弾:人材配置の主導者が変わる?

けんたろ

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