見出し画像

隠者の竈(かまど) ロケットストーブ製作記(実践編) 【週末隠者】

 ロケットストーブ付きのかまどは完成しました。道具も(自作や代用品も含め)一通り揃いました。とりあえず準備は完了です。

※ロケットストーブの原理についてはこちら

※竈の作成と必要な道具についてはこちら

 ただ、私のいおりの周囲はキャンプ場や住宅街のような管理されたスペースではありません。竈そのものは家の横の開けた場所にあり、周囲は溝で囲まれていて火も燃え広がりにくいとはいえ、少し離れればそこはもう雑木林、一歩間違えば山火事になる危険があります。そうなっては大変なので、あらかじめ火の扱いについて以下のようなルールを作っておくことにしました。

(1) 屋外では耐火レンガで囲われた竈の内側だけで火を使う。その他の場所での焚き火・野焼きは絶対にしない。
(2) 空気の乾燥した日は特に使用に注意。風の強い日には竈を使わない。
(3) 火を使う時には竈の周囲の落ち葉をあらかじめ掻いておき、防火用に水を入れたバケツも用意しておく。
(4) 調理が終わった後の残り火は放置せず、全て火消し壺に入れるか水をかけるかして消しておく。

 こうして準備も整い、いよいよ実際の料理にかかります。

【図1】竈の概略図

※ロケットストーブで炊飯
 まずは主食・ご飯を炊いてみるところから始めました。使うのは強い火力が得られるロケットストーブ(【図1】のAの部分)です。
 私自身が普段食べているのは白米7:押麦3の麦飯か玄米と白米半分ずつの玄米ご飯ですが(粗食主義とか健康志向とかではなく、単に個人的な好み)、普通の白米でも基本は変わらないはずです。ただ、陶製の炊飯土鍋を使っているため、飯盒やコッヘル、鉄釜などでの炊飯のコツとは少し違うかも知れません。
 まず米をとぎ、充分に浸水(白米・麦飯で最低30分、玄米ならできれば6時間以上)させます。ここがおそらく一番重要なポイントではないかと思います。
 浸水させている間に燃料を集め、竈の準備をします。ロケットストーブの燃料はそこらにいくらでも落ちている小枝なので、5分もあれば燃料は集まります。ただし、湿った木を使うと火力が上がらずうまく炊けないため、よく乾いたものを選ぶ必要があります。燃料と焚き付け(よく使うのは、揚げ物の油切りに使った新聞紙)を竈にセットし、浸水が終わったら鍋をかけ、点火します【写真1】。

【写真1】ロケットストーブでの炊飯

 点火後しばらくは火吹き竹で空気を供給したり火かき棒で火を熾したりして炎が安定するようにします。燃焼が継続してヒートライザーの中に上昇気流が発生すれば、あとは燃料がある限り火は燃え続けてくれます。ロケットストーブは火力が強い分燃料の消費も早く、すぐに火が燃え尽きてしまうため、使用中はなるべく目を離さず、あらかじめ十分に燃料を準備して次々に追加してやるようにしましょう。
 炊飯時の火加減ですが、飯炊き歌にある「初めちょろちょろ中ぱっぱ」のうち、「初めちょろちょろ」はあまり気にする必要はありません。むしろ最初から強い火力で一気に炊き上げることを目指します。逆に火力が上がらないまま時間をかけて炊いていると、全体が炊き上がらないうちに底の部分だけが焦げてしまい、下は黒焦げ、上は生煮えの状態になることがあります。強火で沸騰させて鍋が湯気を噴いても、飯炊き歌の「じゅうじゅう吹いたら火を引いて」のようにすぐには火を落とさず、水分がある程度飛んで湯気の勢いが落ち、ほのかにお焦げの臭いが漂い始めるまで加熱を続けます。その状態になったら火を落とすか鍋を火から下ろすかして、余熱でじっくりと蒸らします。このあたりの微妙な加減は鍋のタイプや炊く米の量、さらにその時の気温などでも変わってくるはずですので、何度も繰り返して経験を積むしかありません。
 ロケットストーブは焚き火などに比べて煙やすすの発生は少ないものの、それでも使用後は鍋の底に多少の煤が付きます。そのままではあちこちが汚れるため、蒸らし終わったら水で濡らしたボロ布などで煤をよく拭ってから家に持ち込みます。
 応用編としてパエリアなども作れます【写真2】。といってもパエリア鍋は持っていないので代わりに中華鍋で作りました。鍋が鉄製だったためか、具がイカの足メインのシーフードだったためか、ちゃんとサフランを入れて作ったにもかかわらずきれいな黄色に仕上がらず黒ずんだ色になって見た目は今ひとつでした。ただし味の方はそれなりの出来だったと思います。強い火力が得られるロケットストーブは、やはり野外料理の幅が広がります。

【写真2】パエリアも作れます

※バーベキュー炉で直火焼き
 これはほぼ失敗しようがありません。ロケットストーブで出た熾火を種火に、バーベキュー炉部分(【図1】のBの部分)で炭を追加して火を熾し、その周囲でいろいろと焼いていきます。焼き野菜・串焼き・かたまり肉いずれも上手く焼けました。一度、ご近所の方を呼んでご挨拶がてらのバーベキューパーティーを開いたことがありましたが、そちらも概ね好評だったようです。

※窯でパン・ビザを焼く
 ここまでは順調に来ました。最後に、パン窯のスペース(【図1】のCの部分)でパン、そしてピザを焼いてみることにします。
 ものの本によると、パン・ピザを焼くにはまず窯を十分に熱して周囲からの熱でむらなく火が通るようにすべしとのことです。取りあえず竈の箱形になった部分の中で火を焚いてレンガに熱を溜め込むようにします。火が熾火になったら炭を足し、熾火の上に焼き床となる溶岩石の板を渡してさらに熱します。途中、どうも上からの熱が足りないように感じたので、天板にしていた大判の耐火レンガをどけて拾ってきた古い鉄板を乗せ、その上に炭火を並べて上からも加熱されるようにしました。
 焼き床が十分に加熱されたら、準備していたピザ生地の上に具を乗せたもの、そして形を整えたパン生地を焼き床に乗せ、前方の開口部を耐火レンガで塞いで焼き始めます【写真3】。

【写真3】パン釜部分でピザを焼く

 本にはほんの数分で焼けるように書いてありましたが、実際にはなかなか焼き上がる様子がありません。おかしいなと思いながらも加熱を続け、生地があちこち焦げてきたところで窯から取り出します。
 ともあれ完成――のはずなのですが、どうもイメージと違う焼き上がりです【写真4】。形がいびつなのは初めてなので仕方ないとして、生地はあちこち焦げているにも拘わらず上のタマネギは見るからに火が通っていない状態で、一緒に乗せたチーズも溶けておらず、生地の部分も食べてみるとピザの理想型とされる「外はカリカリ中はもっちり」とは対照的に「外は黒焦げ中は生焼け」状態で、結局オーブントースターでもう一度焼き直して辛うじて食べられる状態(ただし、とても美味とは言えない)になりました。

【写真4】焼き上がったピザ。ん?

 一方のパンはというと、発酵が足りなかったのか焼いても全く膨らまず、何やらカンパンのような状態で焼き上がりました【写真5】。食べてみると全体がフランスパンの皮くらいの固さでなかなか噛み切れず、かつ、焼いていない切り餅のようなぼそぼそとした食感です。ただ、一口食べた瞬間に口中にむわっと広がる麦の香りは、やはり手作りならではでしょう。これは別に負け惜しみで言っているわけではありません。ともあれ作った以上はピザと共に残らず平らげます。

【写真5】焼き上がったパン。ん? ん?

 というわけでピザとパンはどちらも失敗に終わりました。ピザ・パン作りの本を見ると、載っているのは最初からうまく行ったという成功話ばかりなのですが、世の皆さんは本当にあんなに簡単にピザやパンを焼けているのでしょうか。私が特別に不器用なだけなのかもしれませんが。
 おそらく失敗の原因は生地の発酵の不足と、あとは周囲に熱が逃げてしまって窯の温度が十分に上がらなかったからではないかと思います。そのあたりは今後改良していくしかありません。何やら最後の最後でずっこけて終わってしまったものの、以上がロケットストーブ付き竈の設計・製作から実際に料理に使ってみた結果までの報告です。再度のチャレンジがあれば、その話はいずれまた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?