『風の電話』ボックスに入ってみる
『風の電話』を観た。
書かなくてもいいことだけど、
どうしても、主演のモトーラ世理奈を
モトローラ世理奈
と心のなかで読んでしまう、のはわたしだけ?
主人公のハルは、叔母と一緒に広島に暮らしているが、
もともとは岩手県大槌町で生まれて育った。
東日本大震災で父と母と弟を失っている。
その叔母から朝ごはんのとき、
「大槌行かない?」と誘われるが、
とまどったまま、学校へ行くハル。
学校から帰ると、その叔母が家の中で倒れていて、
病院へ行き、一夜をそこで過ごす。
叔母は一命をとりとめたが、
機械に繋がれた叔母を見てハルは、
そのまま大槌へでかける。
新幹線?飛行機?んなわけない。
ヒッチハイクだ。
しかも、かなりやる気のないヒッチハイク。
おいおい大丈夫かあ、
やっぱりみんな、どのクルマもさ〜〜っと通り過ぎる。
でもわれわれ、東北のこと、
さ〜〜〜っと忘れ去ってない?
最初に拾われた公平(三浦友和)は、
豪雨で流された集落に老いた母親と住む。
ボケた母親は、ハルのことを自殺した公平の妹と思い込む。
広島の原爆の話をする。
公平は、妻と子どもと別れ、
この母親と、残りの人生を生きていく。
次に拾ってくれたのは森尾(西島秀俊)。
森尾は福島第一原発で働いていた。
震災後、ボランティアでいろいろと世話になったクルド人を探して、
埼玉まで行く。
ケバブ屋で写真を見せながら「この人知りませんか?」
と尋ねていると、その人は入国管理局に捕まっている、
収容所に入れられ、いつでてこれるかわからない、
家族に会いに行くか?
と親切なクルド人から、自宅に招待され、
探しているクルド人の妻と子ども、
親切なクルド人一家と、
クルド人の料理を食べながら、
日本の入国管理制度が理不尽で過酷か、
切々と聞かされる。
この人は、
「ふるさとがある人は、ふるさとに帰れるからまだいい。
クルド人にはふるさとといえる国はない。
せめて、文化があれば気も安らぐだろうけど、
日本にいると、それも……」
一方ハルは、クルド人の同い年ぐらいの子どもたちと仲良くなり、
家族と写っている写真を見せる。
2011年か、それより前の写真。
父も母も弟も、そして自分も、若く幼い。
森尾は、それまでためらっていた福島へ帰ることに決めた。
双葉郡のどこかんだろう、避難指示解除地域に入り、
そこで初めて、福島第一原発で働いていたことを明かし、
自宅へハルをつれていく。
森尾も、妻と子どもを津波で失い、
仕事を失い、家こそ残っているが、
そこは当時のまま、すべてが止まっている。
森尾は今田(西田敏行)の家に行き、
今田は避難場所から帰ってくるのは年寄ばかりだと嘆き、
でもそれが当たり前だと、ふるさとで死にたいんだと悟り、
昔、そこで撮影された映画を語り、
「田んぼがぴかぴかしてた、ぴかぴかしてた、
あのぴかぴかしてた田んぼはいつもどってくるのか」
なあ、と。
映画は、ふるさとを失った人たち、
家族の誰かがいなくなっている人たち、
を描いている。
原爆、豪雨、難民、原発事故、地震、津波。
そして、その家族とつながれるのが、
電話線がつながっていない「風の電話」。
大槌町の森の中にある、電話ボックス。
中にある黒電話で、
家族と恋人と、
元気?どうしてる?わたしは元気だよ?
じゃあね、またね。
と話をして、また別れる。
風の電話は、実際に大槌町の森の中にある。
私設の公園に、電話ボックスが置いてある。
ボックスの中に入ったら、
懐かしい人と寄り添うことができる。