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ココロがすり減っていってココロがなくなってしまう前に山にこもってリセットしないといけないと気がついたベンチャー企業経営者

土曜日の夕方、釜石の川沿いを歩いていたら、
高校生ぐらいの女の子たちがたむろってた。
ちょっと着飾って、二人で自撮りしたり、
おしゃべりしたりしていた。

夕涼みだろうか。
5、6人の女の子たち。
ここんところ蒸し暑かったからなあ。

でも、なんでいろいろモノがあるイオンじゃなくて、
なんにもない川っぺりなんだろうか。

友人にこの話をしたら、
きっとベトナムから働きに来た女の子たちだろう、と。

昼間、友人のMくんからメッセージがきた。
オンラインで話がしたい、と。
Mくんはベンチャー企業の社長で、
母国の中国と、留学から20年住んでいる日本とで、
人材のマッチングビジネスをしている。
億単位での資金調達も成功させ、
やっぱり中国人ってビジネス強いなあ、と感心していた。
ところが……・

Mくんは、新コロで中国武漢が封鎖される1月末ごろ、
「これは病気の問題じゃなくて、経済問題」
といい切っていた。
まだ日本では、新コロは対岸の火事、
あれは中国での話でしかない、と思っていた時期に、
すでに「経済問題になる」と予見して、
はたしてその通りになった。

久しぶりに話をしたMくんは、
「経済問題じゃなく、人のココロの問題」
と考えを変えていた。
背が高くスタイルが良く、髪の毛を1mmに刈り込んで、
清潔感があったMくんは、
画面からはとてもその面影はなく、
ヒゲが生えて髪の毛も10mm以上放ったらかし、
顔も身体もまんまるになっていた。

逆に、オフィスは空っぽになっているようだった。

3月から、契約のキャンセルが相次いだ。
まず、中国から人を招けなくなった。
ということは、やがてほかのアジアの国からも、
出国できないようになるだろう。
でも、国内にいる外国人とのマッチングで乗り切れる算段だった。

ところが、日本側のクライアントがもたなくなった。
東京近郊の小さい会社が、どんどん倒産していった。

社員たちはみんな辞めていった。
ずっと給料は払い続けているのに、自分たちから会社を去った。
Mくんは気がついてなかった。
社員たちは、自分たちで別会社を立ち上げて、
生き残っているクライアントたちを、根こそぎ持っていった。

Mくんからすると裏切り者ではあるが、
わたしは、彼ら彼女らにも理があるのかもしれない。

Mくんは、この難局を乗り切るため、
本業のマッチング以外にも、いろんなことに手を出した。
キャリーサービスだったり、農家から野菜を仕入れて路上で販売したり。
でも、社員たちは本業に集中したかった。
自分たちの仕事にプライドと愛情を持っていった。
なにより、働きたくても働けなくなった外国人たちがいる。
自分たち社員も中国人、外国人であって、仲間じゃないか。
苦しいけど、苦しいときこそお互いに助け合って、
生きたいじゃないか。

社長と社員たちの間で路線が食い違い、口論が絶えなくなった。
社長を説得するより、自分たちでやったほうがいい。
もう、Mくんとはいっしょにやっていけない。

社長のMくんも一生懸命、社員たちも一生懸命。
でも、すれ違いの溝は深まるばかり。

……ということなのかもしれない。

これまでのことを振り返ってみてMくんは、
みんなココロが壊れてしまった、と思った。
自分もココロが普通じゃなくなっていくことに、
自分で自分がいやになっていながら、
社員たちを必死に説得しようとしていたが、
やっぱり怒鳴り合いになってしまっていた。
毎回毎回。毎日毎日。
ココロがすり減っていく。

Mくんは、会社をたたみ、高野山にこもる、といった。
毎年夏にはボランティアで旅行ガイド、通訳をしているお寺がある。
そこで三ヶ月ほど修行させてもらって、
人間をリセットしてくる、と。

「その前にまた、連絡してもいいですか?」
もちろん。

ちょっと長い散歩をしてて、
ファミレスの前を通ったら、
さっき川っぺりにいた女の子たちが、
そのファミレスに入っていくところだった。

ベトナムのどこから来たんだろうか。
おしゃれして、みんなで集まっておしゃべりして、
そしてファミレスでの食事をする。
これが彼女たちの、週末の楽しみなんだそうだ。