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和歌はフィットネスでありウェルネスでもある

春過ぎて 夏来たるらし 白たへの
衣干したり 天の香具山

この歌がいつの時代の誰が詠んだのかは知らないけど、
「春過ぎて 夏来たるらし」っていうフレーズは覚えている、
って人けっこういるんじゃないかなと思う。

春が過ぎて夏がやってきたらしい。真っ白い衣が干してある。天の香具山に。             (『英語で味わう万葉集』p16)

前回、

とりあえず、「はじめに」と「結びにかえて」で万葉集についての基礎知識をさーっとおさらいして、本文に入ってみると、けっこうこれはまた発見がある。

と書いた。

春過ぎて 夏来たるらし
=春が過ぎて夏がやってきたらしい。

これが、「なんだか夏っぽくなったね」という感覚でモノをいってるんではなくて、
「夏がやってきたんだってよ」というはっきり言い切っている、らしい。
というのは、この歌は持統天皇が詠んだ歌。
持統天皇は天智天皇の娘で、天武天皇の后。
だから、女性の天皇なんだけど、それはそれとして。
持統天皇のときには、律令制度が整い始めていて、
このときすでに「暦法」が制定されていた。
暦があって、季節の変わり目がはっきりしていた。
(たとえば、今日は大寒)

なので、
「夏が来た! 真っ白い衣が香久山にバエルてる!」
となるらしい。

それを英語にすると、

Spring has passed,
and summer's white robes
air on the fragrant slopes
of Mount Kagu
beloved of the gods.

Spring has passed 完了形になっている。

beloved of the gods. 「神々に愛されてる」?
なんてことは歌のどこにも書いてないけど、
「天の」をそういうふうに訳したらしい。

香久山、畝傍山、耳成山は大和三山と呼ばれ、
神々が降臨して遊んでいたという山々。
なので、「天の香具山」は、

神様たちから愛されている香久山

というふうに、いろんなところで、英語訳に工夫がある。
これも、著者のピーター・J・マクミランさんが詩人であるのと、
日本文化の研究家であることからくるこの本の特徴だ。

歌を読んで、現代語訳を読んで、英語を読んで、
解説を読んで、なるほど~、という楽しみ方もできる本。

ちなみに、フィットネスにくわしい友人のはーなさんによると、
テレビで歌会始の儀を見ていた。
その歌会始の和歌の読み上げ方は、呼吸法にかなっているらしい。
「鼻で3秒吸って、2秒止める。15秒かけて口から吐ききる」
の呼吸法で、

春過ぎて〜〜〜(15秒)
 (3秒吸って2秒止める)
夏来たるらし 白たへの〜〜〜(15秒)
(3秒吸って2秒止める)
衣干したり 天の香具山〜〜〜〜(15秒)

気持ちいいんだよ、これ!


『英語で味わう万葉集』 ピーター・J・マクミラン 文春新書 2019年