見出し画像

消える幼なじみ /読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌

消える幼なじみ

愛媛県 34歳 武田直

 これは、私が10歳くらいのころの出来事です。 当時、幼なじみで、いつもいっしょに遊んでいた同い年の友だちがいました。彼とは本当に仲がよく、休みの日には必ずふたりで遊んでいたものでした。
 夏休みもあと数日で終わるというその日も、私たちはいつもの場所で遊んでいました。
 そこには樹齢数百年にもなるかと思われる、まるでタコの足のように四方に太い枝を伸ばした大木がありました。木の根元には、子供だった私たちには何を祀ってあるのかわかりませんでしたが、小さな祠がありました。
 私たちはいつもその大木に登って遊んでいたのですが、そのとき祠に足をかけると、かなり楽に登れることはわかっていました。しかし、子供心にも祟りを恐れる気持ちがあったのか、私たちは決して祠には足をかけないようにして登っていたものでした。
 ところが、なぜかその日にかぎって魔が差したように、彼が祠の屋根を踏みつけるようにして木に登ってしまったのです。それを見ていた私は一瞬、アッと思いましたが、彼に何もいわずに、そのまま遊んでいました。
 そして、しばらくして、そろそろ帰ろうかということになり、木から降りようとしたときのことでした。彼の足が太い枝の股に挟まり、どうやっても取れなくなってしまったのです。彼は必死になって取ろうとしますが、どうにもならず、とうとう泣きだしてしまいました。
 そこで、私が行って彼の足に手をかけて引っ張ってやると──そのとたんになぜか、何もなかったようにスルリと簡単に取れたのです。彼は驚いていましたが、私には、わけがわかりませんでした。
 そのあと彼に会ったのは、夏休み明けの始業式の朝でした。ところがどうしたことか、いつも朝から元気いっぱいの彼が、何やらふさぎこんだ様子で、話しかけてもろくに返事をしません。しかも、日に日に彼の様子がおかしくなり、ついにはずっとうつむいたまま、ひとりでブツブツ何かをいっているような状態になってしまったのです。
 そんなある日、夏休み中に撮った写真を整理していた私は、例の大木の前で彼と並んでいるところを父に撮ってもらった写真を見つけました。それは、確か彼があの祠の屋根を踏みつけるようにして木に登った日の、数日前のものでした。
 その写真を見ながら、私は思わず首をかしげました。どういうわけか彼の体がなかば透きとおっているような感じで、背後の木や草が、彼の体を通して薄く見えているのです。写真屋さんから受け取ったときはそんなことはなかったはずで、不思議に思った私は両親にも見てもらいましたが、はっきりした原因はわかりませんでした。
 彼の姿が突然、どこかに消えてしまったのは、それから間もなくでした。
 朝、彼が起きてこないので母親が部屋を見にいって、いなくなっていることに気づいたそうです。警察や町の消防団員が、大がかりな捜索をおこないましたが、家出かどうかもわからないような、まったく手掛かりもない状態で、ついに彼を見つけることができませんでした。
 それからしばらくして、
「どうやら、捜索も打ち切りになりそうだ」
 と、父から聞いた日、なぜか私は急に、あのふたりで並んで大木の前で撮った写真のことが気になりはじめました。そこで、アルバムを開いてみました。そのとたん、私の体は凍りつきました。
 なんと、その写真には笑顔の私がひとりで写っているだけで、彼の姿は消えていたのです‼ しかもそれ以外の写真には、ちゃんと彼の姿は残っているというのに……。
 以来、彼は今も行方不明のままになっています。また、あの無気味な写真は、母が気味悪がって、お寺に預けてしまいました。


(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)

★「ムー」本誌の特集やオリジナル記事が読めるウェブマガジン「ムーCLUB」(月額900円)の購読はこちらから。

ここから先は

0字
マニアックなロングインタビューや特異な筆者によるコラム、非公開のイベントレポートなど、本誌では掲載しにくいコンテンツを揃えていきます。ここで読んだ情報は、秘密結社のメンバーである皆様の胸に秘めておいてください……。

ムー本誌の特集記事のほか、ここだけの特別企画やインタビュー記事、占いなどを限定公開。オカルト業界の最奥部で活動する執筆陣によるコラムマガジ…

ネットの海からあなたの端末へ「ムー」をお届け。フォローやマガジン購読、サポートで、より深い”ムー民”体験を!