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「東大怪談」で浮かび上がる”頭脳派の自負”と変人たちの肖像とは? 豊島圭介インタビュー

人のあるところ怪異あり。
日本の最高学府・東京大学で学位を得た東大生も少なからず、科学では説明のつかない体験をしているようだ。
『東大怪談 東大生が体験した本当に怖い話』(サイゾー)は、「東大病院で金縛りにあった」「バイクに乗った幽霊に追いかけられた」など、東大生11人の怪奇体験を収集した一冊である。
その著者は、映画『三島由紀夫VS東大全共闘~50年目の真実~』、ドラマ「怪談新耳袋シリーズ」の監督などで知られる豊島圭介氏。自身も東大出身者である豊島氏に、「東大怪談」の裏側をうかがった。 

『東大怪談 東大生が体験した本当に怖い話』(サイゾー)

怪談を語る東大生たちのリアル

ーー第三話「汚部屋育ちの東大生」や第十一話「トラウマプロデューサー」など、子供時代のエピソードも多く、『東大怪談』は実話怪談ということもあるんですけど、なかなか実態の見えない「東大生」の内面やバックグラウンドに迫る「東大生の生活史」のようにも感じました。

豊島圭介さん(以下、豊):怪談本と銘打つからには、心霊ネタとかオカルトネタが前面に出てこないといけないとはわかっていて、最初は「どれだけ体験談を集められるか」が勝負だと思っていました。僕が強い影響を受けた実話怪談本『新耳袋』は、かなり研ぎ澄まされた文体で、練り込まれた文章で構成されている。だから最初はいかに簡潔に書くか、という意気込みで取り組んだんですよ。
でも、いくつか話を聞いているうちに、怪談ももちろんですけど、語る本人こそがおもしろいと気がつきました。怪談だけを取材するなら、1時間もあれば聞けるかもしれない。でもその前に、その人が「どうやって東大に入ったか」についてインタビューをすることにしたんです。
もちろんどんな怪談の体験者にもバックグラウンドがあり、その人の人生と怪談は切っても切り離せない。ただ今回は東大出身者という枠で区切ったことによって、人生にフォーカスを当てやすくなりましたね。

ーー怪談を聞かせてくれ、という取材に答える東大生だけに、第六話「東大中退の男」など、ちょっと変わった人が多いラインナップです。

豊:東大生って「論理的で頭脳明晰」というイメージと、「変人の集まり」というイメージに引き裂かれているんですよね。実際の東大生はやっぱ「いっちょあがっちゃった人たち」なので、その両方を受け入れているんですけど(笑)。一般的にある「頭脳明晰」なイメージとはまた違う、怪談という切り口で「変な人」たちから話を聞けたのがおもしろかったですね。

ーーそもそも東大生は、怪談、怪奇現象はどんなものだと捉えているんでしょう?

豊:オカルトや怪談に対して軽々しく「好き」と発言する人は少なかったです。でもなにかのきっかけで「話していい」雰囲気を作ると「いや実は……」って話し出す人が多かったんですよ。いろんな年代の東大生に話を聞きましたが、オカルトに対する壁みたいなものの存在は、いつの時代の東大生も変わらないと思いましたね。

ーーふつうは壁がありますよね。自分から怪談を話そう、怪奇体験をしようなんて人はそうそういませんよ。

豊:でも東大怪談の第4話「オカルト新聞記者」は特別でした(笑)。オカルトが大好きで心霊スポットや都市伝説の現場に出向いちゃう吉澤塁さんはおもしろかったですね。
まず「オチがない話なんですけど」っていう前置きをするんですよ。たとえば、小学生時代に心霊写真が撮れたという経験で、でも写真を撮った場所にはそんなものが写る霊的な因果がない、「フリ」と「オチ」がつながらなくて申し訳ない、みたいなことをおっしゃる。怪談好きが高じて怪奇現象としての因果律みたいなものを求めるんだと思います。『新耳袋』的な不意打ちのように怪異に出くわしてしまうことでは物足りないと思うのかもしれません。
東大生は体験とか怪異とかに対して、すごく理知的にとらえている部分もあるのかな、と感じましたね。

東大生として「怪奇」に取り組む

ーー頭がいい人だと説明力が高いあまり、体験を解析した末に心霊じゃなくて「人怖」の話になってしまうのもありがちですが。

豊:そうそう(笑)。あと特徴的だったのが、やっぱりみんな記憶力がやたら良いんですよね。よくもそんなこと覚えてるなっていう細部を語ってくれました。
僕が『新耳袋』で学んだ話の真偽の見定め方に、ディテールの描写があるんです。その話に誰も想像し得ないようなディテールがあるかどうか。たとえば『東大怪談』の第十話「パラレルワールドに行った官僚」の「縦回転するUFO」の話でも、「両親が居間で『のど自慢』を見ている音が聞こえていましたから日曜日で間違いありません」というふうに、音がどこから聞こえたか、それを見たときの状況がこうだったとか、記憶力の良さによるディテール描写が東大生の怪談、東大怪談の重要な要素だったと思います。

ーー作り話では出てこない、怪談としては余計な情報こそリアリティを裏づけますから。

豊:取材をはじめるとき、「東大生=頭がいい」から、怪奇体験とか不思議な現象に対しても客観的で論理的なアプローチをするんじゃないかって仮説を立てていたんです。でも結果として、そこには東大生だからこそ、「私は東大に行った人間である」という強い自意識と、プライドが立ち現れてきたんですよ。そんな強烈な自我とか自意識を持った人たちなので、体験談としてはむしろ「私の体験によれば…」という主観的な語りが多くなるんですよね。だからこそ、その人の人生にフォーカスを当てられたという側面があるかもしれませんけど、意外でした。

ーー東大生は自分自身をエビデンスとして語るんですね!(笑)

豊:そうかもしれません(笑) 

『東大怪談』では各章ごとに“東大ポイント”と“東大アンケート”という項目が盛り込まれている。“東大ポイント”では、エピソードの中では語りきれなかった、話者の「東大生っぷり」や、怪談に対する豊島圭介さんの解釈が語られている。“東大アンケート”は「この体験が偏差値に影響した度」や「幽霊を信じている度」などをグラフ化しているほか、「大学に落ちる恐怖と、心霊体験、どちらが怖いですか?」「心霊現象とはなんだと思いますか」など、東大生の人となりと、怪談との距離感を測る興味深い質問の数々が掲載されている。これらを読んだあとに再びエピソードを読み返すとまた違った表情を見せてくれるだろう。

「東大怪談」を映像化するなら……

ーーホラーや怪談ものを含む幅広いジャンルの映像作品の監督、演出を多く手掛けてきて、今回が初の書籍となります。映像と文章で見せ方の違いをどう意識しましたか?

豊:一人目の取材内容をとりあえず文字に起こしてみたんです。そしたら編集担当の角由紀子さんから、「これは学生サークルの会報誌ですか?」って酷評されて、これは全然ダメだなと。
そのときに、『新耳袋』を映像化するときの作業を思い出したんです。その人物自身、その人の人生を掘り下げること。あと、たとえば「Aさんが白いもの見たという単純な事実」について、Aさんが靴紐を結び直すためにしゃがんだ瞬間、目の端に白い足が見えて、スッと見上げると……っていう具体的な描写を入れて、映画やドラマの台本を書くような作業に近づけたんですよ。同じ事実を伝えるためにどんな構成、視点で演出をするかを考え直しました。
僕はあんまり小説とか書ける気がしていなくて、たとえば枯れた木から葉っぱが落ちるのを美しい表現で描写するとか一切できる気がしない。だから「東大怪談」を書くことは、映像を作るト書きを書くのに近い感覚で、会話もセリフみたいに書いています。そういう意味で映像的な情報の伝え方を意識しましたね。

ーー取材対象も怪談やトークのプロではないですし、そもそも「奇妙な体験」なので、そのまま文字にしてもわかりづらいでしょうね。

豊:聞いた話を「右から左に文章にすればいいだけですよ」っていってたのは角さんなんですけど(笑)。
最初、角さんから企画をおうかがいしたときは、「おもしろそうな題材だな、クイズ番組でも東大括りって話題になっているし、東大怪談ってインパクトがあるタイトルだな……、でも誰が書くのかな」って思ってたら「あなたです」っていわれて(笑)。
映像を撮る仕事をしながらも、前々から文章を書く仕事もしたいんだっていう話をしてはいましたが、いきなりでした(笑)。

ーー結果的に映像演出が執筆にも活きて、そのまま映像化の台本になりそうですね!

豊:これが映像化されるんだったら、オムニバス形式がいいですね。僕も撮りたいエピソードがありますけど、他の監督たちが何を選んでどう撮るかも興味があります。

ーー「東大怪談」とくると、他の大学も読んでみたいという気持ちになってきます。

豊:京大とか土地柄的にもおもしろいかもしれないですね。あとはICU(国際基督教大学)怪談とか(笑)。この本自体、“赤本”のイメージで作って、装丁も赤いんです。大学のキャンパス内の書店だったり、予備校とかに置かれたり……。怪談界の赤本っていわれたらうれしいですね。

豊島圭介●映画監督。東京大学教養学部表象文化論専攻卒業。『怪談新耳袋』(2003年)で監督デビューし、アイドル、ホラー、恋愛もの、コメディとジャンルを横断した映画・ドラマに携わる。2020年公開の『三島由紀夫vs東大全共闘 ~50年目の真実~』で初のドキュメンタリーの監督を務める。代表作に、映画『ソフトボーイ』『花宵道中』『森山中教習所』、『ヒーローマニア -生活-』『妖怪シェアハウス ~恋しちゃったん怪~』(2022)など。ドラマ「怪奇大家族」、「マジすか学園」シリーズ、「CLAMPドラマ ホリック xxxHolic」、「Is” アイズ」、「イタイケに恋して」など。近作にドラマ「書けないッ!? ~吉丸圭佑の筋書きのない生活~」(2020)、「妖怪シェアハウス」シリーズ(2020ー2022)等がある。

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