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入る場所/読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌

入る場所

神奈川県 39歳 藤原春美

 母から聞いた話です。
 母が住んでいた家の近くに、当時小学校3年生の咲子ちゃんという女の子が住んでいました。その子はとても頭のいい子だったそうです。家は地元に代々続く名家で、ご両親にとても可愛がられていました。母は、近くを流れる川の河原で、お友だちと楽しそうに遊んでいる彼女の姿をよく見かけたそうです。

 咲子ちゃんに最初の異変が起こったのは、その年のお盆も近いころのことでした。
 咲子ちゃんが仏壇のある奥の部屋に入っていったきり、いつまでたっても出てきません。不思議に思った彼女のお母さんが声をかけると、どうしたことか彼女は、一生懸命に仏壇の中のお位牌の位置を並べ替えていたそうです。
 驚いたお母さんが、
「どうしたの? なぜそのままじゃいけないの?」
 と、尋ねると、咲子ちゃんは、
「だってこのままじゃ、私の入る場所がないもん」
 と、困ったような顔をしながらいったそうです。
 お母さんはびっくりして彼女を叱りました。何しろまだ幼い娘が、突然、縁起でもないことをいいだしたのですから。それもお盆に近いというのに。
 それでも彼女はそのあとも、なかなか仏間から出てこなかったという話です。

 それから数日後の夜のことでした。とっくに咲子ちゃんの寝る時間は過ぎているのに、彼女は机の上に教科書を広げて必死に勉強しつづけていました。それに気づいたお母さんが、
「もういいかげん、明日にして寝なさい」
 と、声をかけました。すると彼女は教科書から顔も上げず、
「今、やっておかないと間にあわないの」
 といって、漢字の書きとりや算数の計算問題、果ては理科の教科書まで積みあげて、机にかじりついていたそうです。しかもなぜかボロボロと涙をこぼしながら……。
 お母さんはそんな我が子の姿に驚くとともに、何やら異様なものを感じたそうです。
 そこで彼女から教科書をとりあげるようにして机の前から引きはなし、強引に布団に入らせました。それでもなかなか泣きやまない彼女に、お母さんは途方に暮れるばかりでした。

 翌日のこと。河原で遊んでいた咲子ちゃんが、急に行方不明になってしまいました。大人たちが必死に捜しても見つかりません。用事で遠出していたお母さんが知らせを受け、大急ぎで戻ってきたのは日も沈みかけた夕暮れどきでした。
 お母さんが青い顔をしながら河原に駆けおりていったそのときのこと、川底から、突然、咲子ちゃんがぷかぷかと浮かんできたのでした。
 咲子ちゃんのお位牌は、数日前に彼女自身が作っておいた仏壇の真ん中の新しい隙間に納められたという話です。

(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)

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