第9惑星もニュージーランドも結婚相手もマボロシだった…という話など/南山宏・ちょっと不思議な話
「ムー」誌上で最長の連載「ちょっと不思議な話」をウェブでもご紹介。今回は2018年12月号、第416回目の内容です。
文=南山宏
非実在国家
観光の目的でパキスタンを訪れたニュージーランド人旅行者クローエ・フィリップス=ハリスさん(28歳)は、同国アルマティ空港で思わぬ足止めを食わされた。
税関の役人たちが「ニュージーランドは国ではなく、オーストラリアの一部にすぎない!」といいはって、彼女を2日間も拘留し、何時間も尋問にかけたのだ。
どういうわけか、室内の世界地図にニュージーランドが記入されてなかったことも、役人たちにニュージーランドを独立国家として認めさせない理由になった。
とどのつまり、クローエは無事に入国を果たしたが、それは彼女がたまたまアメリカの国籍も所有する2重国籍者だったからだ。
拘留中に知人の助けを借りて米大使館から新規のビザを発給してもらい、事なきを得たのである。
第9惑星
トランスネプチュニアン・リゾナンス――まるで大仰なプログレロックバンド名みたいだが、実は太陽系の最外縁部付近、つまり第8惑星・海ネプチューン王星より以遠にある未発見の仮想惑星が発する〝重力共鳴現象〟を意味するという。
米天文学会機関誌「天文ジャーナル」の最近号によれば、ミシガン大天文学部の博士課程院生ミス・ジュリエット・ベッカーらの研究グループが、2015BP519という新発見小天体の運動を力学分析にかけた結果、いまだ未発見の第9惑星の存在を仮定することなしには、この不可解な共鳴現象の説明がつかないと結論した。
もちろん、かつては第9惑星と見なされていた冥王星――地球の月より小さいため、2006年に準惑星に格下げされた天体の影響力も、計算に入れた上での話だ。
しかも、そのような共鳴を起こす〝海王星以遠天体(トランスネプチュニアン・オブジェクト)〟略称TNOは、複数存在する可能性もある。さらに、そんなTNOたちも惑星と称するには小さすぎ、準惑星どころかもっと小ぶりの亜惑星や矮惑星の可能性さえあるという。
ベッカーたちは仮説のコンピューターモデルを2通り用意する。
一方は、第9惑星もTNOも太陽系の誕生以来、安定した軌道をずっととりつづけてきて、太陽系外には飛び出さないし、さりとて太陽に突入もしないモデル。他方は、第9惑星やTNOがたとえ軌道を変えても、系外に飛び出したり太陽に突入したりせず、おとなしく新たな重力共鳴状態に移行して再安定するモデルだ。
どちらのシミュレーションモデルが正しいにせよ、軌道がかき乱されて天体同士の衝突や合体が起きるような恐ろしいアルマゲドンには、幸いにもならないそうだ。
でも、はたしてどちらのモデルが正しいのかは、たとえ微かにでも太陽光を反射する第9惑星が、天文観測によって現実に発見されるまでは待たねばならない。
幽霊配偶者
現世の男たちに愛想をつかした女性が次に選んだ結婚相手は、200年前の海賊の幽霊だった?
白いベールとガウンを身にまとうバツ1の4児の母アマンダ・ティーグさん(45歳)は、2016年7月23日、大西洋に浮かべた揺れる小舟の上で、へんぽんと翻るドクロマークの黒い海賊旗の下、キャンドル上の結婚指輪を前に、「はい、誓います」と頷いた。
アマンダの主張によると、18世紀ハイチの海賊ジャックと初めて霊的に結ばれたのは、2014年のとある真夜中、アイルランドはドロヘダの自宅の寝室に、ジャックの幽霊が現われ、自分を優しく見下ろす気配を感じてからとか。ジャックとの相性は抜群で、彼女がこれまで付き合った男性とはとても比べ物にならないという。
そこでアマンダ(とジャック)は2017年10月、今度は家族や親戚友人も招待して、公海上に停泊する船の上で、婚姻を法的に承認する登録官も立ち合った大々的な結婚式をあらためて挙げた。
「死んだ人との結婚は、アイルランドでもイギリスでも法的に認められていないの。でも、公海を走る船の上で結婚式を挙げるのは、ぜんぜん法律に触れないのよ!」
以来アマンダは〝アイルランドとイギリスにおける幽霊男性との結婚第1号〟を自称している。
国家侮辱罪
エジプトの人気女性歌手でテレビパーソナリティのシェリン・アブデルワハブさんは、国家侮辱罪で懲役6か月の刑を宣告された。
理由は自分のコンサートで、ファンたちにこう警告したから。
「ナイル河の水を飲んではいけないわ。とても汚染されてるから」
ブロンド死すべし
イギリス南部スキューエンのマイケル・ウィリアムズ氏(47歳)は、脳腫瘍の除去手術を受けてからというもの、どういうわけかブロンド女性を見るたびに、激しい殺人衝動に駆られるようになった。
とどのつまり、ナイフと野球用バットを用意して、金髪の女性を捜し回り、ワゴン車で轢き殺そうとしたかどで現行犯逮捕された。
マイケルを診察した精神科医たちは、5年も前の外科手術がどうして彼の人格を変えてしまったのか、説明できずに困惑している。
極寒井戸からの生還
2017年1月8日の夕方、セルビアのスモリョナッチ村で、視力の弱いセルビア人ジェズドミル・ミリッチ氏が、買い物から帰る途中、誤って井戸に転落した。
「BBCニューズ」オンライン版同月10日付によれば、8日にセルビアとポーランドを中心にヨーロッパ中北部を襲った猛吹雪がようやく鎮まった直後で、どうやらジェズドミルは積もった大雪に足を取られて転がり落ちたらしい。
井戸の深さは約5メートルで、次第に暗くなる中、目の悪いジェズドミルには自力で這い上がる手がかりも見つけられず、大声で助けを求めたものの、通行人もばったり途絶えてしまった。
零下20度の井戸の底で飲まず食わずのジェズドミルを2日後に救ったのは、通りかかった隣人のゴラン・マルコヴィッチ氏だった。
井戸の近くで偶然、食品の入った買物袋を拾い、持ち主が井戸に転落したことに気づいたのだ。
幸いジェズドミルは、低体温症と擦過傷の治療だけで助かった。
(ムー2018年12月号掲載)
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