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為政者にも庶民にも愛された瑞獣「白澤(はくたく)」/幻獣事典

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世界の神話や伝承に登場する幻獣・魔獣をご紹介。今回は、賢帝の治世に現れる除災の神獣「白澤(はくたく)」です。

文=松田アフラ

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江戸時代の画家、福原五岳による「白澤避径図」。

 白澤は、鳳凰や麒麟と並ぶ古代中国の瑞獣である。その起源は不明だが、五経のひとつである『礼記』にもその名が記されていることから、少なくとも紀元前に遡ると考えられる。

 江戸時代中期の類書『和漢三才図会』には、「東望山に澤獣あり、一名を白澤。能く言を語る。王者有徳にして明照幽遠ならば則ち至る。昔、黄帝巡狩し東海に至る時、此獣の言有り、為時害を除く」とある。三皇五帝のひとりに数えられる古代中国の聖王である黄帝が東シナ海で白澤と出逢い、有益な情報を得るという話は数多い黄帝伝説のひとつとして広く知られていた。
 北宋の道教類書『雲笈七籤』によれば、白澤は「神獣」であり、「達於萬物之情」すなわち万物の情報に通暁している。白澤は黄帝に「天下神鬼之事」すなわち世に害を為す妖怪とその対処法について教えたが、その数、何と「凡萬一千五百二十種」に及ぶという。

 白澤は古来、人面の獅子のような姿であるとされて来た。だが『和漢三才図会』に示された図では、むしろ狛犬に似た姿で、「人面」という特徴も判然としない。江戸時代初期の画家狩野探幽作と言われる有名な日光東照宮拝殿の白澤図では、人面と角、顎髭が見える。眼は当然ながらふたつである。
 だがその後、白澤といえば額の真ん中に第3の眼を持ち、さらに胴体の両側にも3つずつの眼、合計9つの眼を持つ姿で知られるようになった。このように多数の眼を備えるに至ったのは、おそらく「達於萬物之情」の象徴であろう。いずれにせよ、江戸時代後期の画家・鳥山石燕の『今昔画図百鬼拾遺』に収録された躍動的な作例では、胴体の三眼とともに背中に4本の角が生え、以前のものとはかなり異なってきている様子がはっきりと確認できる。

 有徳の帝王の治世に出現する(「王者有徳にして明照幽遠ならば則ち至る」)とされることから、とりわけ為政者に愛好された白澤であるが、また、よろずの災いを除く瑞獣として庶民の間でも人気を博し、白澤の姿を描いた図は魔除けの護符として庶民に愛蔵された。白澤が元来の獅子や狛犬のような姿から、多数の眼や角を備えた異形の存在へと変貌していったのは、その護符としての効能をより強化したいとする庶民の願いの反映なのかもしれない。

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『和漢三才図会』の白澤。

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