「動く密室」の扉は異世界へとつながるーーエレベーターの怪異譚
エレベーターを舞台に、多くの怪談が生まれている。海外、日本、そしてネットの怪異譚をひもとき、なぜそこでそうした物語が生まれるのか、考察してみたい。
文=朝里 樹 イラスト=Sean Fonda
エレベーターの中で怪異が起きる
エレベーター。
現在、商業施設でも住居でも公共施設でも、ある程度の大きな建物であれば普遍的に見ることができる機械だ。
日常的に使っている人も多いと思われるが、この機械で動く密室を舞台にして、多くの怪異譚が生まれおり、その数は日々増え続けている。
今回は、このエレベーターにまつわる怪異譚をいくつか紹介するとともに、なぜエレベーターにおいてこういった話が生まれるのか、考察していきたい。
まず、エレベーターにまつわる怪異譚は大きく3種類に分けられる。具体的には以下のようなものだ。
1 エレベーターの内部で怪異が起きるもの
2 エレベーターによって別世界に運ばれるもの
3 エレベーターがなんらかの怪異を運んでくるもの
これらの話には、それぞれ特徴がある。
以下に、具体例を挙げながらこの3種類の怪談について説明したい。
女が、女が笑ってる
まずは第一に「エレベーターの内部で怪異が起きるもの」について。
一般的にエレベーターの怪談として語られる話は、このタイプが最も多いだろう。
よく語られるのはエレベーターに乗っている際、その密閉空間の中で幽霊をはじめとするさまざまな怪異に遭遇する話だ。
たとえばこんな話がある。
あるマンションでひとり暮らしをしている大学生が友人とともにエレベーターに乗ったときのこと。急に友人がガタガタと震えはじめたため、大学生が不審に思っていたところ、友人が「女が、女が笑ってる」と呟いた。変だな、と思いその大学生が振り返ったところ、大学生とその友人の間、2センチほどしかない隙間を女が不可思議な笑い声を上げながら悠々と通り抜けていったという(出典:不思議な世界を考える会編『怪異百物語3』)。
隙間を通り抜けるという点は隙間に出現する女の怪異、隙間女を思い起こさせるが、部屋の中に出現することが多い隙間女と違い、出現場所がエレベーターの内部とされている。
また、エレベーターの設備そのものに怪異が発生する話もある。
天井に鏡が設置されたあるエレベーターでは、その鏡から血が流れ出ることがあった。しかもその血に直接触れたものは死んでしまうと伝えられており、またそのために死んだ人間たちのものなのか、鏡にはたくさんの死人の顔が映るという。もしこの鏡を割ったり、エレベーターを壊しても翌日には元通りそこにエレベーターが存在しており、「恐怖のエレベーター」と呼ばれるようになったと伝えられる(出典:不思議な世界を考える会編『怪異百物語7』)
もうひとりお乗りになれます
エレベーターの中に入らずとも、外部からエレベーター内の怪異を目撃するパターンもある。
東京都北区上中里にある瀧野川女子学園の七不思議のひとつとして伝わるこんな話を紹介しよう。
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