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コハクの中のミニサイズ恐竜の話など/南山宏・ちょっと不思議な話

「ムー」誌上で最長の連載「ちょっと不思議な話」をウェブでもご紹介。今回は2020年6月号、第434回目の内容です。

文=南山宏

ハチと耳鳴り

 昨年の秋、ブラジルはカンピナスの自宅の庭で、マウリシオ・コンスタンさん(仮名)はプラムを採取中、禿げ頭のてっぺんを毒バチにチクリと刺されてしまった。
 マウリシオの頭と顔面はみるみる腫れあがったが、地元の病院で処方された抗ヒスタミン錠剤を1週間ほど服用したところ、ようやくその腫れは引きはじめた。
 だが何より驚いたのは、若いころから長年の持病だった耳鳴りの症状がいつのまにか消えたことだ。
 サンパウロ大学医学部ガンス・サンチェス研究所のサンチェス創設者所長は、この前例のない症例に首をひねりながら証言する。
「残念ながらハチに刺されたことと耳鳴りが消えたことは、因果関係がまったく不明だ。今後の病因学的研究の成果に期待しよう」


極微恐竜

 恐竜と聞いてだれもがすぐ思い浮かべるのは、巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督の『ジュラシック・パーク』(1993年)に代表される特撮映画などで、画面狭しと暴れまわる大型爬虫類だろう。
 だが、どうやらそれは先入観に災いされたただの思い込みにすぎなかったことになりそうだ。
 英科学誌「ネイチャー」本年3月20日号によると、巨体とは真逆に極めて極微サイズの〝超ミニ恐竜〟の頭部が封じ込められたコハク化石が、ミャンマー北部のフーコン渓谷内にある、通称〝宝石鉱床〟で知られる中生代白亜紀の地層から、偶然発見された。
 のちに鳥類の祖先に進化する直前段階の恐竜だったらしく、目の大きい鳥の頭部にそっくりだが、問題はその驚くべき大きさ(小ささ?)だ。尖ったクチバシの部分を入れても、頭部の長さがなんとせいぜい1センチしかない超ミニサイズの恐竜の頭だったのだ!
 中国科学院の脊椎動物専門の女性古生物学者ジンマイ・オコナー教授によると、クチバシと頭の大きさから類推して、この超ミニ恐竜は体長約6センチで、体重は2グラム前後、1円玉2枚の重量しかなく、現存する世界最小の鳥、花蜜が主食のマメハチドリにも負けないチビ恐竜だったらしい。
 それでも、この超ミニサイズの恐竜は草食性ではなく肉食性で、その証拠に少し開いた口の上下には、総計100本あまりの鋭い歯がびっしり生えそろっていた!
 ただし、肉食とはいってもサイズがサイズなので、餌となる主要な獲物はおそらく小型の昆虫類、あるいはミミズのような環形動物の類に限られていただろう。
 当然ながら〝コハク中の超ミニ恐竜〟の発見は、世界中の恐竜や鳥類の専門学界を驚愕させた。
 カナダ・カルガリー大学の古生物学者ダーラ・ゼレニツキー助教授は、大胆な推測を展開する。
「実に驚くべき大発見だ。この実例が示唆するのは、太古の鳥類や恐竜類の中には超ミニサイズに進化した種類も多数存在していたという可能性だ。これまで発見例がなかったのは、あまりに小さ過ぎたため化石として残れなかったからにすぎないかもしれない!」
 この驚くべき超ミニ恐竜は、このほど学名がオクルデンタヴィス・ハウンライーと決定された。
 ちなみにオクルデンタヴィスとは、ラテン語で「目と歯の鳥」を意味し、ハウンライーはこの貴重な〝恐竜入りコハク化石〟の最初の発見者の名にちなむ。
 映画『ジュラシック・パーク』では、コハクに封印されたカの体内の恐竜の血からクローン恐竜が創造される設定だが、オコナー教授は同様の可能性を記者から問われると、笑みとともに答えた。
「それはないと思うわ。あなたも『ジュラシック・パーク』を見たでしょ? あんなとんでもない結末になったら大変じゃないの!」

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