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「見下ろす」/黒史郎・実話怪談”化け録”

病気、ストレス、慢性疲労、からだの不調にもいろいろな原因がある。
もしきちんと調べても理由がわからないことがあったなら、
こんな可能性もあるのかもしれない……。

文=黒史郎
挿絵=北原功士

見下ろす

 4年前、Gさんの経営する会社でパートの女性3人が、同時期に首の痛みを訴えだした。
 湿布を貼っても整体にいっても、漢方を飲んでも効果はなく、病理的な要因からくる痛みかと検査をしても異常はみつからない。
「彼女たちの仕事は、インドネシアの工場から届いた製品を国内配送するための梱包なんです。基本、下を向く作業が多いんで肩こりに悩むぼやきはよく耳にしていたんですが、こういうのははじめてでした」

 首の痛みに苦しむ3人に、Gさんは胸騒ぎを覚えた。
 半年前に彼女たちの働く作業場で起きた、ある出来事を思い出したからだ。

「変な人がいるんですけど」
 その日、パートのHさんが困惑した様子で事務所に飛びこんできた。
 顔中に入れ墨をした不審な男が作業場にいるというので、Gさんは慌てて向かった。
 ところが作業場には不審者の姿はない。不安げな表情を浮かべたふたりのパートが梱包作業をしているだけである。Hさんの話では、いたのはアジア系の外国人で、喋りかけてきたが言葉がまったくわからなかったという。ただ、自分をナンパしていることはわかったので、気味が悪くて逃げだしたのだと。
 だが、Hさんの話には不可解な点があった。彼女と同じ作業場で働いていた他のふたりのパートは、その「顔面入れ墨男」を見ていない。Hさんの様子がおかしいので、どうかしたのかとふたりが訊ねると、「変な外国人にナンパされている」という。
 だが、作業場にいるのは彼女たち3人だけで、窓の外にも人の姿はない。どこにいるのと訊くと、Hさんは自分たちが仕事をしている作業台の下を指さした。高さ50センチ、奥行き30センチほどの空間で、製品を梱包するラップが段ボール箱に詰めて置かれている。人が入り込めるスペースではない。

「でも私、本当に見たんです。何度も目が合って、喋りかけられたんですから」
 この訴えをGさんは、気のせい、見間違い、幻聴では片づけなかった。だから、すぐに知人の宮司に連絡した。Gさんは霊の存在を深く信じる人で、気になることがあると近所の神社の宮司に、よく相談に乗ってもらっていた。
 すぐにきてくれた宮司は、作業場を視るなり「いますね」といった。
「土地には関係ありません。外から来たものです」
 Hさんは、アジア系の外国人だといっていた。会社と関係がある国は、取引先のインドネシアくらいである。まさか、製品と一緒に向こうの霊が来日したとでもいうのか。

「これで様子を見てください」と宮司はその場でお札を書いて置いていった。
 このお札が効いたのか、それから半年は奇妙なことは起きなかったのだが――。

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