「流される子どもたち」奇譚/吉田悠軌・怪談解題
毎年、全国のどこかで必ず起きてしまう、いたましい水の事故。
その犠牲となるのは幼い子どもたちであることが多いが、「子どもの水難」にまつわる怪談には、恐怖だけでは終わらない側面があった。
怪談1 事故現場に映るずぶ濡れの少女
「かなり昔の話ですが、吉田さんに質問したいんです」
文子さんという友人から、とある奇妙な依頼を受けた。
20年前、関東の川原でキャンプをしていた男女18人が、悲惨な水難事故にあった。数度にわたる避難注意を無視した後、大雨で増水した中洲に取り残されてしまったのだ。
救援活動もむなしく、ついに彼らは濁流に呑み込まれた。そして幼児もふくめた13名はそのまま死亡。流された直後に岸辺へと放り投げられた赤ん坊、および運よく対岸に流れ着いた大人3名、子ども1名の、計5名だけが助かることとなる。
今でもインターネットの話題によくのぼる事故なので、思い当たる読者は多いだろう。
そのとき、文子さんがテレビ画面で見ていたのは、救助された子どもがひとり、毛布にくるまれ搬送されるところだった。痛ましいシーンである。しかし眉をひそめて見つめるうち、画面の端に気になるものが映りだした。
川原のこちら側で、スクール水着の少女が体育座りをしている。髪も体もびしょ濡れのまま、じいっと濁流を見つめている。しかし周囲でせわしなく動く救助隊も報道陣も、いっこうに女の子を気にする素振りがない。
この子は被害者のひとりなのか? だとしたらなぜ毛布で包んだり、救急車に運んであげないのか? そもそもずっと未成年の横顔が映されているのに、カメラはよけないのだろうか?
もちろん当時の現場に、そんな少女が座っているはずがない。
数日たって事故詳細が判明するうち、文子さんもあれが「いるはずのない少女」だと理解していく。そこでそれとなく、会社の同僚に質問してみたのだ。
「ねえ、あの川原の事故だけど……ニュース画面に、スクール水着の女の子が映ってるの見なかった?」
すると、その同僚は驚いた顔で、こんな答えを返してきた。
「この前、知り合いが同じこといってましたよ」
事故当日、同僚はチャットルームで常連たちと会話していた。ちょうどテレビで事故の映像が流れていたため、そちらに話題が流れていく。そのうちのひとりが「黒い水着をつけた女の子が川原に座っているけど、あれなに?」と質問してきたのだ。
しかし同僚にも他のメンバーにも、少女は見えなかった。全員が同じチャンネルに合わせているので、カメラアングルの違いなどは関係ない。
「私もここ数日、それが気になってまして」
念のため同僚は、他のネット掲示板もチェックしてみたそうだ。すると「黒い水着の少女を見た」という書き込みが、いくつか発見された。「女の子いたよね」「あれはなんだったんだろう」と同調する反応もあったが、やはり大多数の人間にはわからないようだった。
……あれは自分だけの見間違いではなかった。
少数派とはいえ、同じものを見て同じ違和感をもった人々がいるのだ。それは文子さんにとって、むしろ無気味な共鳴だった。
「久しぶりに思い出したら気になって……。こんな噂があるかどうか、吉田さんならご存じじゃないですか?」
子どもの水難と心霊の関係
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