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宇宙に時間は存在しない!! ループ量子重力理論が解き明かす超常現象の謎/久野友萬

最新宇宙論のループ量子重力理論によれば、宇宙には時間が存在しないという。ここでいう「ループ」とは宇宙を構成する最小単位のこと。これが重力を生みだし、ネットワークとなって宇宙を形成していると考える。
この理論では、時間も量子のひとつとされるため、過去・現在・未来という一方向の流れがなくなる。このとき、すべての超常現象が肯定される。
霊も超能力も死後の世界も、ループ量子重力理論によって説明できるのだ!

文=久野友萬 CGイラスト=久保田晃司

天地照応の宇宙観が最先端の物理学と一致する

 イタリアの理論物理学者でループ量子重力理論の旗手、カルロ・ロヴェッリが一般向けに書いた『時間は存在しない』(NHK出版)は、タイトルからしてセンセーショナルだ。時間が存在しないって? いや、存在するだろう。今日の次には明日がくるし、時間がたてばお腹もすく。それなのに時間が存在しないとは?

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「ループ量子重力理論」を創始した理論物理学者、カルロ・ロヴェッリ。ホーキングの再来と評されている。

 じつは、「時間とは何か」を考えることは「宇宙とは何か」を考えることと同じだ。順を追って説明しよう。
 宇宙という漢字は、紀元前160年ごろの『淮南子(えなんじ)』という書物にはじめて登場する。「宇」は東西南北の空間の広がりを、「宙」は古今の時間の広がりを表す。今ふうにいえば時空間だ。それが宇宙であると、漢字をあてた中国人は考えたわけだ。奇しくもそれは、アインシュタイン以降の宇宙観と合致する。
「人間は宇宙の雛型であり、宇宙は巨大な人体である」
 これが「天地照応」という古代の宇宙観で、多くの国や民族に共通する。
 ユダヤ教の神秘思想によれば、原初の人間アダム・カドモンのサイズは、宇宙的なスケールだ。それをモデルに物質界でつくられたのが人間だとされる。だから人間には、宇宙の仕組みが縮小されて組み込まれているわけだ。

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原初の人間アダム・カドモン。そのサイズは宇宙的なスケールだという。

 ギリシア哲学では、大宇宙をマクロコスモス、小宇宙をミクロコスモスとするが、このミクロコスモスとは通常の場合、人間を指す。
 古代ギリシアのオルフェウス教は、輪廻転生を掲げ、輪廻、すなわち悲しみの輪から脱出することを秘義とする、まるで原始仏教のような宗教だ。その教義によれば人間とは「地と、星が散りばめられた天との子供である」そうだ。

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「四元素のピラミッド」と呼ばれる図。元素が整然と階層をなしている様子を表している。

 かのプラトンは、アリストテレスの四元素論(世界の構成要素は火、空気、水、土の4つであるとする概念)を踏まえ、人間もまた四元素からなり、四元素をもって人間たらしめているのは魂だとした。そして、宇宙の小型版である人間に魂があるなら宇宙にも魂があり、人間に知性があるなら宇宙にも知性があると考えた。ギリシア人にとって、宇宙は人間そのものだった。

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古代ギリシアの哲学者、アリストテレス。彼が唱えた四元素論は、18〜19世紀までヨーロッパで支持された。

 古代中国には「天人合一」という概念がある。天の法則に沿って生きることが、人生の喜びとする考え方だ。人間は天と地、鬼と神(天地のあるべき姿と天地の精霊)が交わってできたもので、人間は天地と同じ原理から成り立つとしている。当時の中国では1年が360日だったが、人間にも360個の骨がある。四季は四肢であり、天が五行(水火木金土)で成り立つように、人間も五臓(肺心肝腎脾)から成る。人間が病気になることは災害が起きることと同じで、陰陽の気の乱れが原因だとした。
 人間と宇宙が同じ原理で動くという古代の考え方は、星の動きが人生を左右する、あるいは祈ることで雨を降らせるといったプリミティブな信仰を生みだしていく。
 現代科学の立場からは、星は大きな質量の物体が物理法則に従って運動しているだけで、それが人間に関係するはずはなく、祈ることと雨が降ることの間に関連性はない。つまり、祈ったからといって、雨が降るのに十分な湿度や空気中の塵が、集まってくるわけがないはずなのだ!

古代思想と現代科学を量子重力理論が結びつける!?

 古代の宇宙観では「心」というものが、人間と宇宙の相互的な影響を生みだす秘密のメカニズムだったが、現代科学は心を扱わない。
 心は、哲学と芸術の範疇だ。だから、心理学は科学のように見えて科学ではない。どこの大学でも、心理学部や心理学科は文学部や社会学部にある。絶対に、理学部や工学部にはない。
 しかし、その絶対的な区分が、最先端の物理学ではゆらぎはじめている。宇宙つまり時空間は、科学がこれまで考えてきたものとは違っているのではないか? というのだ。
 時間は過去から未来へ一直線に進むのではなく、未来から過去へ戻ったりもする。それがあまりに小さなスケールで起きているから、気づけないだけだという。
 時間が存在しなければ、原因があって結果があるという因果律は崩れてしまう。そして、因果律が成り立たなければ、なんでもありだ。結果に合わせて原因を選べるわけだから。雨が降るという結果に、原因として雨乞いの祈りをつないでもいい。こうして私たちの意識、すなわち「私」という存在は、宇宙と地つづきになる。
 だが、この宇宙に因果律も時間も本当に存在しないなら、宇宙はもっと滅茶苦茶になっているはずだが、そうなってはいない。その理由を説明することが、本稿の趣旨である。
 常識に慣れた目には不可思議に見える量子重力理論だが、どのようにして量子重力理論が生まれたかを知れば、納得がいく。というのも、量子重力理論は、極微の世界=ミクロコスモスを記述する量子力学と、大宇宙=マクロコスモスを説明する宇宙論を無理なくつなぐために考えられたからだ。
 極論すれば、量子重力理論は、魔術や呪術などの古代思想と現代科学を橋渡しする理論でもあるのだ。

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マクロコスモスとミクロコスモスを描いた図。中央やや上に立っているのは「宇宙霊魂(アニマ・ムンディ)」だ。

極大と極微を統合する「時間量子」と波を粒子に変化させる「観測問題」

 量子重力理論は、その名が示すとおり、量子力学と重力=一般相対性理論をつなぐ理論だ。
 現代宇宙論は、アインシュタインからはじまる。宇宙とは時空連続体であることをアインシュタインが発見し、それを理論化したからだ。

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