暗い過去も借金も秘密結社もぶっとばす! アングラヒーロー映画「西成ゴローの四億円」/上西雄大インタビュー
記憶を失った殺し屋・ゴローが、家族のために四億円を求めてもがくマネー・クライム・エンタテインメント映画『西成ゴローと四億円』が2作連続上映される。暴力と現金が飛び交う街には、秘密結社やフィクサーまで絡んできて、日本の裏社会の縮図のようだ。監督・脚本・主演を務めた上西雄大に、この世界の“真実”を聞いた。
文=いわたみどり
写真=我妻慶一
西成ゴローが生きる世界
――東京や他の地域の人間にはあまりわからないと思うのですが、映画の舞台となっている大阪の“西成区”は、いい意味でも悪い意味でも常に物騒とファンタジーがごった煮になったというイメージなんですが、実際はどんな街なんでしょうか?
上西 昔は本当に治安が悪くて、カオスな街でしたけど、いまはどんどん安全な方向へと向かってますよ。基本、昼間っから飲んでますけどね(笑)。ただ、いつの時代でも人を支えようという考え方がベースに強くある街なんです。そういう場所には、やっぱりバランスを崩した人たちが集まってくるわけですよ。どんなん人間でも受け入れられる懐の深さがある。それが西成です。さらに、その人たちがちゃんと生きていける道を考えましょうという、本当に前向きな街なんですね。まぁ僕としては、バットマンのゴッサムシティのイメージで西成を描きたかったんです。
――確かにバットマンのように、ホームグランドに登場するヒーローという意味では共通してますよね。さらにあり得ないほど濃すごるキャラクターが山ほど出てくるところも。街の濃さがキャラの濃さに反映されていると思います。
超現実的な事件と超人ゴロー
――ところで、たくさんの怪しい組織が登場しますけど、あれはモデルがあるんですか?
上西 いやいや、まったくのフィクションですよ。出てくる組織もそこの人物も漫画にしたいくらいのぶっ飛び方してますしね。
――でも観てる側は、実際にありそうな気がしてきます。陰謀論もあちこちに散りばめられていますし、実話がベースにありそうな……。とくに後編の2本目の『死闘編』になると政府諜報機関や宗教系秘密結社とゴローのつながりが出てきて陰謀だらけで、深読みしたくなります。
上西 確かに(笑)。コロナを彷彿させるような謎のウィルスも出てきますしね。宗教法人の仮面をかぶった組織とか。ヒューミントは、なんらかの形できっとあるんでしょうね。フィクションでそんな気はまったくなかったのに、実在の組織の闇をうっかり暴いちゃってて、その筋の人から叱られたりしたら面白いかもしれませんね。
――眼球や腎臓を失くすというシーンがけっこうありますけど、ムー的には“何かを捧げて何かを得る”といった生け贄の儀式のような感じもしました。
上西 あれはけっこう大事な部分で、肉体を犠牲にするというのはキリストではないですけど救世主誕生の瞬間で、そこからゴローも肉体的にも超人になっていくんです。ちなみにゴローはアクションシーンがけっこうあるんですけど、組み合ったら相手から一発もくらわないんです。誰からも入れさせない!
――かっこいいですよね。一見弱そうなのにものすごく強い。
上西 そのギャップが面白いんです。西成に住んでる日雇い労働者なのに、闘うときは無敵! これが中途半端にやったりやられたりしてると、せっかくのギャップが埋まってきちゃうんで、今後シリーズ化してもここだけは維持していきたいなと思っているんですよ。
ロケハンでの恐怖! 即死しそうな体験
――裏社会を描く本作ですが、撮影中にトラブルはなかったんでしょうか。
上西 そういう怖い人とのトラブルはなかったんですが、ムー的な体験はありましたよ。
今回の映画のロケハンで昔ホテルだったという廃墟を見にいったときのことです。暗くなってきていたのですが、「ここは面白いね」と、どんどん奥まで入っていきました。真っ暗になっていたので気がつかなかったのですが、床に人がひとり落ちるくらいの穴が開いていたんです。
そこにまんまと僕がドーンとすごい勢いで落ちたんですよ。
両肘が穴のフチについて、かろうじて落下を止めましたが、脇から下は穴から落ちて完全に宙にぶらぶらしている状態です。同行していた人たちになんとか引き上げてもらい、携帯のライトで周囲を確認したら、床に穴が開いてたのはそこだけ。穴をのぞくと、その下には棒状の鉄骨がまるでヤリのようにたくさん上に向かってむき出していて、落ちたら間違いなく串刺しになって死んでたという恐ろしい現実を目の当たりにしました。さらに手をついた場所のすぐ横にも鉄骨が突き出ていて、そこに倒れたとしても大怪我か死んでいましたね。
そのときに、運だけでは語れないものを感じて「ああ、おばあちゃんに守られたな」と思ったんですよ。
ーーおばあさんに救われた???
上西 僕は幼少期に祖母に育てられたおばあちゃん子で、その後も困ったときには祖母が助けにきてくれてたんです。父親が問題のある人だったので家庭はもめ事ばかり。嫌なことがあると祖母がお弁当を作って駆けつけ、僕を映画館に連れ出してくれました。映画を観ながら祖母のお弁当を食べる、これが日常となって育ちました。だからいま僕がこういう仕事をやれているのも祖母のおかげなんです。祖母はもう亡くなりましたけど、生きているときから僕を守ってくれていたので、いつも存在を感じています。
映画の冒頭に僕の劇団のテンアンツのロゴでおばあちゃんの写真が出るんですけど、それは祖母の写真なんです。
ちなみにこのときの廃墟は、悪いものが憑いてるような気がして使いませんでした。
処刑場で「車を止められた」
――おばあさんも、そもそも穴に落ちないようにしてほしいところです。でも映画の道に進んで喜んでいるでしょうね。
上西 僕は大阪に住んでるんですけど、ある晩、奈良にいる母親のところへ車で向かったんですね。なぜかその日に限っていつも使っている道ではなくて、こっちのほうが近道じゃないかと思った山道を走ったんです。
大雨の夜で、ものすごい勢いで大粒の雨がフロントガラスを叩きます。と、そのときいきなり人が飛び出してきました。とっさにハンドルを切って避けたんですけど、こんな雨の夜になんだよ!あれ?傘さしてなかったなぁと。
だからといって雨合羽姿ではなく、着物のような、武士が着る肩衣のような……暗かったのでよくわからないのですが、なんだか気持ち悪くなって車を止めてミラーで後方を確認したんです。ところが人が隠れるような場所なんてどこにもないのに誰もいない……。さらに窓から顔を出して確認したんですけど、やっぱり誰もいない……。
ええええーー!
と思った次の瞬間、車のエンジンがなんの前触れもなくいきなりパスン…と止まったんですよ。その車がこんなエンジンの止まり方をしたのは後にも先にもこれ一回でした。
恐怖に襲われながら祈る気持ちでキーを回すと、何事もなかったかのように普通にエンジンがかかったので、もうその後は何も確認せず必死になって母親の家へ向かいました。
この話を母親にすると「なんでそんな道を走ったんや。あそこは昔、処刑場だった場所で有名な心霊スポットや」と。
そう言われてはっとしました。飛び出してきた人物の首から下はよく見えたけど、その上はまったく見えなかったことに。処刑された霊だとしたら、首がなかったのも納得ができますね。
――裏社会よりも怖い心霊体験しているじゃないですか! そっちジャンルの作品も期待してしまいます!
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