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家族短編小説「すきま」

私の家族は皆トイレにカギは掛けない。 
何故なら、ドアの一部がすりガラス状になっており、誰か入っているのかがおおよそ気配で分かるので、その必要がないからだ。


私は今朝トイレに入って用を足していた。

昨日の夕飯の辛めのキムチ鍋のせいか、今日の私は用を足すのに手こずっていた。

すると、こちらに近づく小さな足音が聞こえてくる。

それはトイレの前で止まった。
しばらく動かない。


「誰だっ」


とっさに私は叫んだ。

そして、ゆっくりとほんの少しだけトイレのドアが開く。室内にぬるい空気が入り込む。

自分の家だとはいえ、私は危険を感じ、ズボンを下ろした格好ではあるが、得体の知れない敵に身構えた。

細く開いたドアの隙間に、目と口が薄っすら確認できる。 
目はこちらをじっと向いている。
口はつむったままだ。


「くさそっ」


その口が小さく開き、聞き慣れた声がそう言葉を放ち、静かに去って行った。


私は反撃出来ない自分を恥じ
「あたりまえだ」
と精一杯叫んでやったのだった。

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