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生活妄想小説「スーパー」

月曜の仕事帰り、近くのスーパーへ寄った。
翌朝食べるパンや夕食後のスイーツを買い物かごに入れ、足早にレジに向かった。
レジは4台ほどあり、どれも空いている。
私は会計している客の買い物カゴの中身を瞬時に分析し、すぐに進みそうなレジに並んだ。

私が並んだレジの店員は、スーパーのレジ打ちとしては珍しく、若い男性だった。
遠目から見た感じは、丸メガネをかけ、ゆるくパーマをかけており、現代風のおしゃれな雰囲気を醸している。

レジはすぐ進むと思っていたが、その店員は親切にも、高齢女性客の重そうな買い物カゴの移動を手伝ったりしていて、なかなか進まない。

その時、私の後ろに50代とおぼしき女性客がすっと並んできた。
私は背後に気配を感じるのが好きではないので、その客が左右のレジに流れる事を願いながら、横目で気にしていた。

その間に、左右のレジが進み出す。
後ろの女性客は隣のレジに移動するかと思っていたが、まだ動かない。
更に左右のレジが進む。
このレジより左右のレジの方が明らかに早く進んでいるのに、女性客はまだ動かない。
何故動かない。

私はハッとした。
この女性客は、この若い男性店員を目当てにこのスーパーに買い物に来ているのだと。

制服を着た清潔感、ふわりとしたパーマ、緩やかな曲線の丸メガネが優しさを押し出している。
現に、高齢女性客の荷物を運んだりと好印象であった。
今、他の列に並んでいる女性客達も本当はこのレジに並びたいが、ライバル達との諍いが起こる恐怖と私なんかがという卑下心とで、踏み出せないでいるのだろう。
となると、私の後ろの女性客は、強靭な心の持ち主なのだろうか。

そうこうしているうちに、私の番となり、支払いの場面になった。
私は請求された金額のお金とポイントカードをトレーに置いた。その店員はお釣りとポイントカードを手渡しで渡そうとしてきた。

私はこの男性店員が、この空間をどんな表情で迎えているのか、しっかりと見てやりたくなった。
そして、私は受け取る際に、その店員の顔をまじまじと見てやった。
マスクの上、丸メガネの中のその眼は、溢れんばかりの性欲を閉じ込めた球体のような、とんでもなく助兵衛なものであった。

その時、私の妄想は確信へと変わったのである。

私は買ったものをマイバックに移しながら、女性客と店員のやり取りを横目で見ていた。
しかし、2人のやりとりは、互いに何の感情も抱いていないかのような淡々としたものだった。
そんなはずはないと、見ている事を悟られないようにチラチラと何度も確認するが、笑顔ひとつ見られなかった。

そうである。
私の想像は単なる妄想であったのだ。

私はハッとした。
思惑どおりだったのか。

実は、この男性店員は、レジでの待ち時間を少しでも長く感じない様に、このような妄想を掻き立てるように仕向けていたのだ。

そして、この男性店員の顧客戦略によって、私は心を奪われ、このスーパーの虜になったのであった。

(あとがき)
普段の生活での出来事をベースに、妄想を加えた小説のようなものを書いてみました。
皆さんの普段の生活も、少しでもおもしろく見えてきたらいいなと思っています。

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