見出し画像

台風の中、御岳山の宿坊に泊まって色々と感動した話

先日、東京都青梅市の御岳山の宿坊「南山荘」に宿泊してきました。
そこでの体験がいろいろ最高だったので、書き記そうと思います。

毎年、お盆の時期は帰省をしている我が家(私・妻・娘の三人家族)。今年はコロナ禍で帰省が中止になったため、久しぶりにどこかへ家族で温泉にでも宿泊しようということに。

私は宿選びが好きで、大抵はGoogle mapで評価を軸に候補の宿を何件かピックアップしてからじっくりコメントを読んでさらに絞っていく・・・みたいにして宿を決めているけれど、今回は宿泊まで2週間を切っていたため、さっさと決めてしまおうとあまり宿の詳細は見ずにエイッと決断。
選んだのは、青梅市の「南山荘」。ウチから車で1時間半ほど。温泉ではないけど見晴らしのいい貸切風呂がある。そしてご飯も美味しそう。

さて、宿泊当日。あいにく、台風8号が本州を直撃するとの予報…。キャンセルが頭を過ぎるも、天気予報を見ると目的地の降水量はMAX8mm/hほどで、風はそれほど強くなさそうなので、移動できなくはなさそう。
道中の寄り道は諦めて、宿に直行するつもりでチェックイン時間にちょうど着くようにのんびり自宅でお昼ご飯を済ませてから出発。

さて、カーナビの指示通りに目的地へ到着すると、そこはケーブルカーの「滝本駅」。周りには何も宿らしきものは無し。

最近、ナビアプリが間違った場所へ連れていくという経験があったため、またか…という気持ちでアプリを切り替えると、6kmほど別の場所を指示される。
ナビに従って車を走らせると、妻が気を利かせて宿のHPを確認すると、どうやらカーナビでセットすると間違った場所に連れていくので、カーナビの案内では来ないように、とのこと。

車を停めて改めて宿への行き方を確認すると、滝本駅からケーブルカーで移動した御岳山駅から歩くとのこと。

滝本駅

てっきり宿に車を横付けして到着、と思っていたので荷物はトートバッグで持ってきたり、着替えもごくごく最小限しか持ち合わせていなかったので、完全に予想外の展開だった。

なるほど…今回の旅はいろいろサプライズがありそうだな、ろくすっぽ調べなかったのが逆に面白かったかもしれないな、とポジティブに捉えることにした。
滝本駅の駐車場へ車を停め、しばらく駅の売店を覗いたりして時間を潰す。
ケーブルカーは20分に一本くらいの運行があって、10分ほど待ったらケーブルカーがやってきた。

京王なのか!

そろそろ5歳になる娘はケーブルカーに乗るのは初めてで、キャッキャと喜んでいる。
ケーブルカーは急勾配をグングンと力強くまっすぐ登り、わずか6分ほどで「御岳山駅」に到着。

駅付近。

滝本駅は周りに何もなく、寂しい感じがしたのだが御岳山駅付近は宿坊が並んでいて、ちょっとした町のようになっているのにはびっくりした。

さて、改めて目的地の「南山荘」を確認すると、駅から15分くらい歩くとのこと。
駅近くの宿坊街を抜けて、山沿いの遊歩道を歩いていく。森の中ならではの、気持ちのいい空気を吸いながらてくてく歩く。時刻は15:00頃。雨脚はいよいよ強まってきていた。

遊歩道を抜けると、また宿坊街の雰囲気が出てきた。車では通れない、狭い坂道を進んでいく。

この道であってるのか?とスマホ片手に何度か道を間違えたりしながら、15:30頃ようやく宿へ到着。
「大丈夫でした?傘、置いておいてください。乾かしておきますよ!」と宿の方がとても暖かく迎え入れてくれた。

室内のリビング部分。12畳くらいかな?
「水を汲むやつだー!」と娘がなぜかハイテンションになった置物
ダブルベッド×1
シングルベッド×1

通された部屋「石榴」はMAX5人まで泊まれるそうだった。床は檜の無垢材が敷かれていて、とても気持ちがよかった。

滝本駅で買っておいた「多摩の恵み」の明治時代の復刻ビールを飲み、ようやくひと心地ついた。家族風呂に入ってのんびりした後、夕食へ。

食事は派手さはないものの、一品一品が手作り感があり、楽しい。特に、手作りのこんにゃくと胡麻豆腐がたまらなかった。

手作りこんにゃく

愛想のいい女将さんが是非食べて!美味しいでしょ?と言うこんにゃく。
確かに、私もこんにゃくは何度も作ったことがあるけれど、このこんにゃくは特有の臭みが本当にゼロで、ムチッとしてちゅるんとしている。これはデザートにもなるのでは?と思った。
暫くして鮎の塩焼き、野菜の天ぷらが到着。

アゴからすると天然かな??焼きたてでうまかった!
ゴーヤ、パプリカ、ズッキーニの天ぷら。もちろん揚げたて。
小さい豚肉が入り、やや甘めの味付けで「じゅーしー」を彷彿とさせる炊き込みご飯。
地元の日本酒、澤乃井に突入

夕食を平らげると、女将さんがやってきて申し訳なさそうにこう言った。
「あのー、、、ちょっとお願いなんですが、このあと近くの神社でちょっとした劇があるのでもしよければ見に行きませんか?主催の人が車で送るので…」とのこと。

劇?
子供がいるのを見越して誘ってきているということは、子供向けのお遊戯的なものだろうか?と思い、まだ就寝までたっぷり時間があるので快諾した。
少し待つと車が到着。他の人も誘われていたのでマイクロバス的なものが来ると思いきや、軽自動車だった。雨が激しく、「よし、乗った乗った!」と詰め込まれる。

神社は、宿の上にある武蔵御嶽神社だった。30度はあるかという急な坂をめちゃくちゃな速度で登っていく。しかも少し間違えば脱輪間違いなしのめちゃくちゃな狭さ。
「止まったら落ちるんだよね。まあでも、ボディはボコボコになるよ笑」とのことだった。天空の城ラピュタでドーラがオートモービルを運転してたみたいなシーンを思い出した。

ほんの4、5分すると目的の神社へ到着。どうやら、本当は屋外の特設舞台でやる予定が台風のため急遽屋内になったようだった。見ると、りっぱな神楽殿をステージとして使うようだった。

お客さんは10名そこそこだろうか。
皆、なんとなく連れてこられた風である様子。

しばらくすると、今回の主催の方が出てきて挨拶をされた。「今日はレンゲショウマ祭りにお越しいただきありがとうございます。毎年恒例となっている、ここ御岳山に伝わる「大口真神(オオグチマガミ)」という昔話の劇をteam励風(れいぶう)のみなさんが演じます」と挨拶をして劇が始まった。

始まってすぐ、完全にいい意味で期待を裏切られた。めちゃくちゃクオリティの高い、本物の芝居だった。

話は、概ねこんな感じだった。
御岳山に、狼と鹿の群れがいた。狼のボスは「オオグチマガミ」といい、鹿のボスは「オオヅノマガミ」といった。
オオヅノマガミは山を荒らす人間を嫌っていた。ある日、ヤマトタケルという人間が何百人というしもべを連れてこの地を通ると知って、ここぞとばかりに行く手を阻むことにした。
ヤマトタケルは巨大で火を吹く化け物のような人間らしい。
人間には興味のないオオグチマガミも、好奇心でついていくことにした。
しばらくすると2匹はヤマトタケルの一行を発見した。ヤマトタケルは小さい普通の人間だった。手下も、わずかしかいない。
オオヅノマガミは、これなら勝てるとその前に立ち塞がるものの、剣であっけなく斬られてしまう。
唖然とするオオグチマガミは、ふとヤマトタケルを見た。ヤマトタケルは、「またカッとなってやってしまった」と悲しんでいた。

オオヅノマガミは最後の抵抗で、魔力のようなものを使い、あたりを真っ白な霧に包み、ヤマトタケルの一行を覆った。ここからヤマトタケルの問わず語りのようなものが始まって、オオグチマガミは耳を傾けていた。
自分は父親の命令で熊襲討伐に駆り出されたり、暗殺を命じられるがままに仕事をしている。しかし、父親からは全く労いの言葉もなく、ひたすら力を使って血を流している。自分はいったい何のために生きている?と苦悩していた。
人間臭さに興味をもったのか、オオグチマガミは「お前の苦悩はわかった。もう剣を納めろ」と諭す。悩みを話して打ち解けたのか、ヤマトタケルは素直に応じ、「わかった。代わりにこの御岳山に登る人間を守ってくれ、霧に迷ったら導いてやってくれ」と頼んだ。
ヤマトタケルはその後、旅中に病にかかってあっけなく死んだ。オオグチマガミは、約束を守り、御岳山で人間たちを守って暮らした。
それが、武蔵御嶽山のお犬様の信仰に繋がる、という話だった。

いわゆる神話というものだと思うのだけれど、自分のこれまでのイメージとは違って、今でもよくある人間の悩みが描かれていて、演出と演技の凄さもあって完全に引き込まれた。途中、何度か娘が退屈して暴れないか気になったが、娘も引き込まれているのか、大人しく観ていた。

気づくと1時間半、引き込まれっぱなしだった。終演後、演者の方に声をかけ、感想を伝えると笑顔で喜んでいただけた。小さな会場ならではのミーグリ。感動と楽しさが混じった、ふわふわした気持ちで外に出ると、嵐は去っていた。
ふと見ると、関東平野の夜景が広がっていた。

遠くではまだ雷が光っている。天気も終演を見計らったかのようだった。
「夜景が綺麗ですね。月も綺麗だし、嵐の後のような偶然が重ならないと、こんなにいい、夜景は見えないですよ」と地元の人が教えてくれた。
自分は力強く頷き、いろんなサプライズの重なりに深く感謝した。
「宿まで送りますよ」と言われたが、歩いて帰ることにした。

宿に着いて床に入ったものの、気持ちが昂っているのかあまりよく寝れなかったが、翌朝は台風一過の気持ち良い晴れで気分はよかった。
宿の方の好意で、よければ荷物を置いて参拝をどうぞ、と言っていただけたので甘えることにした。
改めて、武蔵御嶽神社へと向かい、家族揃って昨日の感謝とお詣りをした。

こういうところ、無性に蕎麦を食いたくなる
本殿

本殿の側には昨日の芝居を見た社があった。

こうしてみると随分立派だ。入れただけでもラッキーだったかもしれない。
裏はさらに古い歴史ある社や石碑があるようだったが、犬が立ち入り禁止にされていたのにはクスッとなってしまった。

お犬様…🐶

境内を出て南山荘へ戻り、荷物を受け取ると、ちょうど手作りのジュース販売が始まっていたので頂いた。
「天空のジュース屋さん」と言うだけあり、このロケーションで飲む手作りジュースは格別だった。

梅…珍しい種類らしいけど…忘れた…

ジュースを飲み終わり、お礼を伝えて宿を後にした。

南山荘。お世話になりました!また来ます!

御岳山駅へ向かう途中でレンゲショウマを見ることができた。そう、今はレンゲショウマ祭りの真っ只中なのだった。

レンゲショウマ

レンゲショウマはなんとも控えめで奥ゆかしい、小さな花だ。
それにしても本当に気持ちのいい旅だった。
帰宅してレンゲショウマ祭りについて改めて調べると、あのお芝居はレンゲショウマ祭り期間中に一度しかやらないものだそうだ。本当に運が良かったのだった。

絶対来年も行こう、また台風が来てくれてもいいな…と思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?