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『青天を衝け』第9回「栄一と桜田門外の変」(2021年4月11日放送 NHK BSP18:00-18:45 総合20:00-20:45)

安政5年の流行語は「尊皇攘夷」。孝明天皇(尾上右近(1))も大好きだった。その孝明天皇は水戸斉昭(竹中直人)を頼っていたので、井伊直弼(岸谷五朗)は焦った。焦った結果、水戸派、一橋派を大弾圧する。いわゆる「安政の大獄」である。福井藩の橋本左内が逮捕(のち斬首)、一橋派で元外国奉行の岩瀬忠震(川口覚)が永蟄居、永井尚志(中村靖日)が罷免・謹慎、慶喜(草彅剛)は隠居・謹慎、斉昭は国許での永蟄居という処分が下される。その斉昭が国許へと向かう籠を見送る家臣たちのなかの過激派連中は武田耕雲斎(津田寛治)に井伊掃部頭を討つべしと訴えるのだが、耕雲斎は自重を求める……。

場面は変わって血洗島。祝言の翌朝、早速畑仕事に精を出す栄一(吉沢亮)・千代(橋本愛)のもとに戻ってきた長七郎(満島真之介)はすっかり武士のような姿に。真之介は栄一にあとで話したいことがあるので、うちに来いと告げる。母のゑい(和久井映見)は不安そうに市郎右衛門(小林薫)を見やる。

長七郎は尾高の家で江戸の町の様子を惇忠(田辺誠一)らに話す。猖獗をきわめているコロリ(コレラ)も井伊直弼の悪政のせいにされているらしことがわかるシーンである。栄一は父と藍葉を発酵させる室の準備をしながらその話をするのだが、市郎右衛門は百姓がそのような政治向きの話をするものではないと栄一にきつくいう。その父の言葉に栄一は「承服できねぇ」と千代にぼやく。栄一は昔、岡部の代官を殴りたいと思ったことがあったが、その代官も殿様の命令でやっただけで、単なるお使い、殴っても何にもならないとあとで気がついたことを話す。栄一は、だんだんと世の中の仕組みがわかってきた気になっているという場面である。耕雲斎様は何もわかっていないと言う水戸の過激派家臣たちと、百姓の分を弁えろという父に反発する栄一は同じ位相に立っているわけである。ただし、栄一は幕府自体、この世自体を変えなければいけないと、より根本的なところを考え始めていたのであった(この点が水戸の過激派とは違うと思う)。

場面は変わって謹慎中の一橋邸。謹慎させられたのは平岡円四郎たちが慶喜を祭り上げたせいだと詰め寄る美賀君(川栄李奈)。美賀君は単なるお姫様ではなく、世の中のことをちゃんとわかっていらっしゃいます・w その円四郎は甲府勤番へ左遷。慶喜に左内をはじめとする志士たちが次々と処刑されていることを慶喜に告げる。左内台詞死、吉田松陰ナレ死である。必ず殿に再び仕えるという円四郎に慶喜は無事息災の秘訣を教えるのだった(あとの斉昭の台詞の伏線)。

井伊掃部頭の政略は朝廷にも伸びる。公武合体である。まずは孝明天皇の妹、和宮(元乃木坂46の深川麻衣)の家茂への嫁入りの話。しかし、岩倉具視(山内圭哉)がこれは攘夷を楯に幕府を意のままにコントロールするチャンスでもあると孝明天皇に告げる。謀略家の岩倉らしさが出ていた。

一方、江戸の思誠塾では大橋訥庵(山崎銀之丞)が塾生たちをアジテート。祐宮(さちのみや、後の明治天皇)を次の天皇に擁立しようとしている話と並んで「交易がはじまって以来、わが国の金がどんどん流れ出ている」(2)とも。それらすべてが夷狄のせいにされているので、各地で外国人に対するテロ事件(イギリス公使館通訳殺害事件など(3))が発生していたのである。

場面は変わって井伊が執務している部屋に将軍・家茂(磯村勇斗)が訪ねて、大老を一度退き、ほとぼりが冷めるまで大人しくしていてはどうかとサジェスチョンするシーン。しかし、井伊は憎まれ事はすべて自分が引き受けるのでご安心をと。さらに直弼は自らの狂言(「鬼ヶ宿」)を家茂の高覧に供しようとするのであったが、その実現は水戸浪士の凶刃の前に潰えてしまう。外桜田門での凶行シーンはその実際には演じられることのなかった直弼の頭のなかの狂言シーンとオーバーラップしながら描かれた。今回のクライマックスとして秀逸。

血洗島にも井伊討たれるの報はかなり詳しく(?)届いていたようである。喜作(高良健吾)は江戸行きが決まってハイテンションである。栄一も村の男衆と同様、気持ちが高ぶってくるのを感じるのであった。

場面は変わって水戸藩での宴会シーン。斉昭が厠へ立った際に「明日は水気の多いものは摂らぬようせぬと」とつぶやくが、これは慶喜が円四郎に告げたアドヴァイスと同じ。水戸家代々に伝わる教えであろうか。その斉昭は強情息子のことを思いやりながらも病に斃れる。吉子(原日出子)に感謝しつつの接吻シーンにはびっくり。

一橋邸にも斉昭の訃報が届く。慶喜に報を告げたのは徳信院(美村里江)。自分の親不孝に涙する慶喜。そして、ラストは再再度の血洗島。喜作から江戸の様子が届く。栄一も長七郎や喜作と同じく江戸へ出ることを父に願い出るのだった。

注)
(1) 前の大河ドラマ『麒麟が来る』でも正親町天皇役を玉三郎がつとめていたが、今回は尾上右近である。天皇役を歌舞伎役者が演じる場合が多いのはなぜ?
(2) 安政の五ヶ国条約では交易の際の貨幣交換における同種同量交換原則が決められた。金の品位と重量、銀の品位と重量を等価で交換するという一見もっともらしいルールだが、当時、世界の金銀相場はおよそ1:15、日本国内相場では1:5と3倍もの開きがあった。このため日本にやってきた外国人商人は手持ちのメキシコ銀貨(墨銀、弗銀)1枚(1ドル)と日本国内で流通していた天保一分銀3枚を交換。ところが四分=一両という日本国内の相場なので、天保一分銀12枚で天保小判3枚になる。外国人商人はこのレートの違いを利用して濡れ手で粟の大儲けをしたということである。これを幕末の金流出(10万両〜100万両と推計されている)という。
(3)このイギリス公使館通訳殺害事件で殺されたのは日本人通訳であった。イギリス公使館の置かれた東禅寺ではこの後も同じようなテロ事件が発生した。

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